この記事は雑誌『日経おとなのOFF』2012年10月号に掲載した記事に一部手を加えたものです。内容は基本的に雑誌掲載当時のものです。

 面積の約8割を森林が占める、白神山地の入り口・八峰(はっぽう)町。ここに白神山地から湧出する水で酒を醸す、日本で唯一の蔵元がある。山本合名会社は、洗米や仕込みなど酒造りのすべての工程に、澄み切った天然水を使用する。

蔵の裏山にある17mの高さから流れ落ちる「白瀑(しらたき)」。山本合名の酒はここから命名された
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創業明治34年の山本合名の蔵
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すべての麹造りに、山本さんは責任者として関わる。低温瓶貯蔵など、品質を守るための管理も徹底している
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山本合名会社
5年前から山本さんが蔵元と杜氏を兼ねるようになり、「生まれ変わった」と評判。創業当時からの銘柄「白瀑」のファンも多い。今では800石すべてが純米仕込みだ。
【Data】秋田県山本郡八峰町八森字八森269 TEL:0185・77・2311

「もともとは敷地内の井戸水を利用していたんです。山の中腹に湧き出る水を酒造りに使おうと、先代が村民を総動員して3kmもの長さの自家水道を引いたと聞きます。それ以来、酒の味が格段に向上した。きめの細かい水で、私が理想とする酒造りには最適です」。

 山本合名の常務・山本友文さんは言う。数十年もの長い歳月をかけて地中を通り抜けた水は、大自然の力で浄化される。酒造りの際にろ過する必要がなく、そのまま使用できるというから贅沢だ。自らの代になり、山本さんが熱情のもと誕生させた銘酒、「山本」を飲む。柔らかい水を感じる伸びやかさの奥には、良質な米由来のボディがある。自らの名を冠した「山本」は地酒愛好家にはつとに名高く、今では入手困難だ。

山本合名会社 常務の山本友文さん。今でも大の音楽好き。蔵の中では、ビートルズをはじめとする1960~70年代ロックを鳴らして仕事に励む。ビートルズのポスターも随所に貼られていた
冷やおろしの酒と地の食材を味わう
早春に搾った新酒が夏を越すと熟成し、味がのる。それを「冷やおろし」という。その円熟した味わいは、秋の味覚とも相性抜群だ。白神山地の恵みと日本海の恵み、その両方を享受できる八峰町。秋から冬にかけてはキノコ、ハタハタやアンコウ、タラといった魚介類を堪能できる。