この記事は雑誌『日経おとなのOFF』2014年2月号に掲載した記事に一部手を加えたものです。内容は基本的に雑誌掲載当時のものです。

 四万十川、仁淀川(によどがわ)、吉野川など、高知県下には豊かな水量と透明度で知られる一級河川が幾つかある。なかでも、仁淀川は昨年の国土交通省発表の水質ランキングでも1位となった、「奇跡の清流」とも呼ばれる川だ。

 その仁淀川流域にある佐川町は、江戸時代から酒造りで栄えた。多くの銘酒を高知はじめ各地に送り出している。当時の面影を残す町並みを訪ねると、酒蔵の白壁には幾段もの庇(ひさし)がついていた。雨水が漆喰(しっくい)壁にかかるのを防ぐための水切り瓦だという。全国屈指の降雨量の高知ならではの景観だ。

水切り瓦が美しい江戸時代建造の白壁の酒蔵。直木賞作家で、高知県出身の山本一力はここを訪れて『牡丹酒~深川黄表紙掛取り帖(二)~』の構想を得たという
[画像のクリックで拡大表示]
司牡丹酒造
山内一豊の土佐入国に際し、家老の深尾家とともに同町へ入った御酒屋が前身という400年の歴史をもつ醸造蔵。全長85mの蔵は日本有数の長さを誇る。
【Data】高知県高岡郡佐川町甲1299 TEL:0889・22・1211 営業時間:8時30分~17時30分 定休日:3~11月の土日曜、祝日、年末年始 料金:無料 ※酒蔵見学は2月の土曜14時~(要予約)

杉玉が新酒到来を告げ、杉の色の変化が熟成を告げる
[画像のクリックで拡大表示]

 この地で400年の歴史をもつ司牡丹酒造を訪ねた。社長の竹村昭彦さんは、高知の酒好き文化は風土が育てたものだと語る。「北には四国山脈が連なり、森林面積の占める割合は県土の84%と、日本一です。南は見渡す限りの太平洋。海と山という天然の要塞に囲まれた高知には、外から人も文化も入ってきにくかった。わざわざ訪れてくれた人を歓待する思いは強いが、酒ぐらいしかもてなす方法も、楽しみもなかったのです」。

 確かに歴代の土佐藩主のほとんどが愛酒家であったといわれ、なかでも幕末の藩主・山内容堂は、自らを「鯨海酔候(げいかいすいこう)」と称するほど酒を愛した。甘口の酒が主流だった時代から、土佐は淡麗辛口の男酒。きりっと締まった飲み口で、豪快に飲み干すのにふさわしかったことも、酒を愛する文化を醸成するのに一役買ったに違いない。

酒ギャラリーほてい
かつての酒蔵を利用した司牡丹のギャラリー。内部には土佐の酒文化を伝えるミニ資料館と、酒造りの工程や歴史を紹介するコーナー、試飲コーナーなどがある。
【Data】高知県高岡郡佐川町甲1299 TEL:0889・22・1211 営業時間:9時15分~13時、13時45分~16時40分 定休日:月曜(祝日の場合は営業、翌日休)、年末年始
「しぼりたて」(左)はその名の通り、わずかに炭酸を感じる搾りたての酒。時間がたつと若々しい荒さが消え、練れた熟成感が出てくる。「船中八策」(右)は、切れのある純米超辛口
[画像のクリックで拡大表示]
竹村家住宅
竹村家は酒造業で財をなし、江戸時代中期には筆頭家老深尾家の御目見え町人として名字帯刀も許された。住宅は酒造業を営む有力商家のたたずまいを伝える。国指定重要文化財。
【Data】高知県高岡郡佐川町甲 TEL:0889・20・9800(NPO法人佐川くろがねの会) 営業時間:9時15分~13時、13時45分~16時40分 定休日:毎月第2日曜の10~15時のみ公開(要TEL)
上座敷と東棟(店舗部)からなる住宅。江戸中期以降は幕府巡見使宿も務めるなど、上客を迎えるための建物として、武家住宅に準ずる上質な座敷を有した
[画像のクリックで拡大表示]