2016年に発売された「スーパー大麦グラノーラ」は品切れが続出する大ヒットを記録し、「Yahoo! 検索大賞2016」も受賞した。これを仕掛けたのが帝人。食品事業に新規参入するに当たり、選んだ素材が食物繊維豊富な「スーパー大麦」だった。同社はなぜこの素材を選んだのか、そして何が消費者の心をつかんだのか? 4月10日新発売の書籍『ヒットを育てる! 食品の機能性マーケティング』(日経BP社刊)収録のストーリーから読みどころを先行公開する。

イトーヨーカドーで販売されたスーパー大麦 グラノーラ
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 まだ暑さが続いていた2016年9月7日、日清シスコのお客様相談室に、それまでになかった問い合わせが殺到した。

 「スーパー大麦が入ったグラノーラはどこで買えますか?」

 原因はその前日にフジテレビ系で3時間にわたって放映された『腸を知って身体のお悩み解決SP』という特番。そこでスーパー大麦(正式素材名はバーリーマックス)が大々的に取り上げられた結果だった。「後から聞いた話では、競合他社にも同じ問い合わせがたくさん入っていたらしい。これは本物だ、と確信した瞬間です」と、同社マーケティング部第二グループブランドマネージャーの松長直樹氏は振り返る。

スーパー大麦が入ったグラノーラ製品を手がける日清シスコのの松長直樹氏
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 4カ月後、日清シスコは1食分(50g)当たり4gのスーパー大麦バーリーマックスを配合した『スーパー大麦 グラノーラ』を発売する。通常の商品開発には早くても半年以上かかるというから、驚異的なスピードといっていいだろう。

 特番が放送された9月の時点で、消費者が求める「スーパー大麦が入ったグラノーラ」は輸入元の帝人みずからがOEMで製造し、7月から通販で発売したばかりの商品、ただ1種類しかなかった。そのため生産が追いつかないほどの大ヒットに。アマゾンや楽天といった大手通販サイトでも売り切れが続出し、入手困難な“幻の商品”となってさらに話題を呼んだ。

 帝人新事業推進本部長付ヘルス機能性食品プロジェクトリーダーの妹脊和男氏は言う。

 「最初に製造した1万袋がたちまち売り切れて、それから急いで増産した4万袋もすぐに売り切れた。11月には材料の在庫が底をついて、商品を作れなくなるほどでした。この反響は当社としても大きな驚きでしたね」

 その後、『おはよう日本』(NHK)や『グッド!モーニング』(テレビ朝日系)でもスーパー大麦が取り上げられ、認知度はますます高まっていく。12月に入ると、「スーパー大麦グラノーラ」という単語が「Yahoo! 検索大賞2016」食品部門賞を受賞した。前年に比べて最もインターネット上の検索数が上昇した注目ワードに与えられる賞だ。

 日清シスコの商品がイトーヨーカドーで先行販売されたのはその直後のこと。2週間で10万ケースを売り、年が明けた1月4日から本格的に全国販売を開始した。松長氏によると、「グラノーラとしては値段が高いにもかかわらず売れ行きは好調。お客様の反応を見ると、整腸作用を実感する方がとても多い」という。 日本スナック・シリアルフーズ協会の調査では、シリアルの市場は2009年の259億円から2015年は537億円に拡大。その約7割を占めているのがグラノーラだ。2009年には43億円に過ぎなかったグラノーラ市場は2015年に369億円と、実に8倍以上の拡大を見せている。

 「最近はシリアルに機能性を求める人が多い。おいしい、オシャレという理由ももちろんありますが、やはり食物繊維が豊富でお通じを改善するという機能性は無視できません」と松長氏は話す。 グラノーラのブームはフルーツグラノーラから始まったが、最近は果実フレーバー以外の味が伸びているという。

スーパー大麦に含まれる食物繊維は
大腸の奥まで届いて働く

レジスタントスターチを豊富に含むスーパー大麦「バーリーマックス」
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バーリーマックスは、不溶性・水溶性の食物繊維からなる細胞壁がレジスタントスターチを包み込むコンプレックス構造となっているため、レジスタントスターチを大腸の奥に届く
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 2010年代に入って、食物繊維がたっぷり含まれる大麦が注目されるようになった。現代人は食物繊維が不足しがち。日本人の食事摂取基準(2015年版)では、1日にとるべき食物繊維は成人男性で20g以上、成人女性で18g以上とされている。ところが平成27年国民健康・栄養調査によると、実際の平均摂取量は14.5グラム程度だった。

 一般的な大麦には白米の約20倍の食物繊維が含まれる。特に野菜にほとんど含まれないβ-グルカンという水溶性食物繊維が多い。この水溶性食物繊維が、乳酸菌やビフィズス菌といった腸内の有用菌のエサになるのだ。

 話題のスーパー大麦とは、オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)が約10年の歳月をかけて開発した非遺伝子組み換え大麦「バーリーマックス」のことだ。食物繊維量は通常の大麦のさらに2倍。β-グルカン以外にフルクタン、レジスタントスターチ(難消化性でんぷん)といった食物繊維様物質も含む大麦で、特に大腸の奥まで届くレジスタントスターチは通常の大麦の4倍も含まれる。スーパー大麦と呼ばれるゆえんだ。

 レジスタントスターチは水に溶けない不溶性でありながら、水溶性食物繊維と同じく有用菌のエサになることから「第3の食物繊維」と呼ばれる。直腸やS状結腸など、大腸の奥はアルカリ性に偏りやすく、悪玉菌がすみやすい環境になっている(乳酸菌、ビフィズス菌は酸性の環境を好む)。実際、日本でも急増している大腸がんは、まず直腸やS状結腸など、大腸の奥にできることが多い。バーリーマックスに含まれるレジスタントスターチは、その大腸の奥まで届き、ビフィズス菌を増やす作用を持つ。

 もともとレジスタントスターチが着目されたのも、大腸がんとの関係だった。 1980年代、オーストラリアでは増え続ける大腸がんを減らそうという国家プロジェクトが立ち上がり、予防効果のある食品を探すことになった。調査を進めると、アフリカに大腸がんの発生率が非常に低い地域があった。その地域の食事にレジスタントスターチが多いことが分かり、レジスタントスターチを豊富に含むバーリーマックスの開発が始まったという。

「腸内フローラ」に目をつけた帝人が
ヘルシーグレイン社と独占共同開発契約

 総合素材メーカーの雄として知られる帝人は、2013年に新事業開発本部内に提携推進部を作り、本格的に機能性食品素材を探し始めた。本部長だった妹脊氏が目をつけた機能性は「腸内フローラの改善」。腸内細菌はいろいろなことが発見されて急速に注目が高まっているとともに、まだ解明されていない部分もたくさんある。将来性が高いと踏んだのだ。 新しい素材を求めて世界中を駆け回った結果、オーストラリアでレジスタントスターチを豊富に含む大麦、バーリーマックスに出合った。

帝人新事業推進本部長付ヘルス機能性食品プロジェクトリーダーの妹脊和男氏
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 「大麦は主食として食生活そのものを改善できる。サプリメントのように足りない栄養を補うのではなく、食生活のベースとして本質的に健康を維持・向上させる食品素材であることが目を引きました。それから、大麦もある意味ではポリマー、つまり高分子構造体です。ポリマーは当社が得意としている研究領域ですから」(妹脊氏)

 CSIROはバーリーマックスを商業化するためにヘルシーグレインという会社を作っていた。2015年2月、帝人はヘルシーグレイン社とバーリーマックスの独占共同開発契約を締結。日本で独占的にバーリーマックスを販売することを前提に、基礎研究も含んだ日本でのマーケティングと製品開発を行うことになった。

 その頃から、日本でも古くて新しい大麦の機能性が注目され始め、メディアで取り上げられる機会も増えてきた。β-グルカンを中心に、大麦が健康に役立つエビデンスも広く知られるようになっていった。 妹脊氏は、まず自社で商品を作ろうと決める。

 「社内では反対意見もありましたが、いくらエビデンスがあっても、どこも商品化してくれなければ消費者が実感できないわけですから」(妹脊氏)


帝人自ら開発・販売する「スーパー大麦グラノーラ」。このほか、ショートバーやクッキーも商品化した
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 通常の大麦と比べて、食物繊維が豊富なバーリーマックスは見た目が黒い。そのままでは売れそうにない。加工食品として売ることにして、2016年7月から『スーパー大麦グラノーラ』と『スーパー大麦ショートバー』を発売した。「われわれは食品工場を持っていないので、すべてOEMでやってもらい、通販で売ることにしました」と妹脊氏。

 発売前には主婦を集めて試食会も行った。フルーツが多い従来のグラノーラに比べて「硬い」「甘くない」という声が多かったが、それがかえって「ヘルシー」だと受けた。フジテレビの特番で火がついたのは、それから2カ月後のことだ。

 帝人では今後、大手コンビニチェーンでもスーパー大麦を展開していく予定。食品メーカーなどからのオファーがあれば、基本的には応じるとしている。

 将来的に素材のラインアップを増やしたい気持ちもあるが、まずはスーパー大麦の研究をもっと深めたいという。

 「スーパー大麦を利用した食品はまだまだ伸びる。2025年くらいには、末端の商品市場で1000億円を期待したいと思っています」と、妹脊氏は最後に力強く言った。

(文/伊藤和弘)

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日時:2017年04月11日(火)14:00~17:00(開場13:30)
主催:インテグレート、グローバルニュートリショングループ
会場:日経BP社本社4Fセミナールーム(定員100名)
登壇者(敬称略):
・グローバルニュートリショングループ 代表取締役 武田 猛
・インテグレート 代表取締役CEO 藤田康人
・インテージコンサルティング エグゼクティブコンサルタント 新川博己
・日経BPヒット総合研究所 主席研究員 西沢邦浩

『ヒットを育てる!食品の機能性マーケティング』(日経BP社)1500円、4月10日発売
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