「∞(むげん)プチプチ」などのヒット商品を生み出した高橋晋平氏は「TEDxTokyo」に登壇するなど、企画・アイデア発想の名手としても知られる。その高橋氏が世の中で話題となっている“トンガリ商品”をピックアップし、開発者に直撃。企画の源泉とアイデアの“転がし方”を探っていく。

 今回のお相手は、高橋氏いわく“トンガリ商品界のレジェンド”、乙幡啓子氏。魚の開きをポーチに見立てた「魚ケース」が大ヒットし、自身の作品についてまとめた書籍を何冊も出版している。そんな乙幡氏がこのたび制作した、とあるポーチに高橋氏が注目。高橋氏が「これまでの乙幡作品と比べても10倍の衝撃を受け、その才能に嫉妬した」というポーチとは?

乙幡啓子氏(右)は1970年群馬県生まれ、東京都在住。ニフティ「デイリーポータルZ」で脱力系工作記事などを連載するほか、モノ作りイベントやワークショップ、講演などでも活動。著書に「妄想工作」「乙幡脳大博覧会」「笑う、消しゴムはんこ。」。ラーメンズ片桐氏との共演DVD「また、つまらぬ物を作ってしまった」が絶賛発売中。また妄想工作所名義で「魚ケース ほっけ」「スペース・バッグ」などの雑貨製作・企画も行う。
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「モーセだったら、開くと海割れるじゃん!」って

高橋晋平氏(以下、高橋):僕と乙幡さんは今でこそプライベートでも交流があるんですが、そもそもは僕が一方的に乙幡さんの書いている記事や作品を追いかけているファンだったんですよ。乙幡さんはトンガリ商品界のレジェンドなので。

乙幡啓子氏(以下、乙幡):(笑)。高橋さんもトンガリ商品界では知られた存在だと思うんですが。最初は素性を明かさずに私のイベントにいらしてくれたんですよね。最前列に座っていらして、トークの中で「お客さんもちょっと何か柔軟な発想で商品を考えよう」という時間に、真っ先に手を挙げてくださって。

高橋:全力で参戦しました(笑)。

乙幡:「この人、何者なんだろう?」って、イベント中ずっと考えてましたよ(笑)。

高橋:今回、対談のリクエストをしたのは、乙幡さんが作った神話をモチーフにしたポーチが気になったからなんです。正式名称はなんというのでしょうか。

乙幡:「ノアの方舟ポーチ」と「モーセの奇跡ポーチ」です。

高橋:このポーチ、ひと目みて、絶対売れるって思ったんですよ。「やられた!」というか。まあ、やろうとも思い付かなかったんですけど。そもそも、なんでこのポーチを作ろうと思ったんですか?

乙幡:旧約聖書に限らず、物語を題材にした商品を作りたいと考えていたんです。たまたま通販のフェリシモの企画で「毎月、あるテーマに対してクリエイターが作品を作って、商品化してほしい人が投票するというコーナーがあるんですが、「マニアックなポーチ」というテーマが持ち上がったので作ってみようと思いました。

 ポーチといえば、舟形ポーチっていう種類があるなと最初に思いついて。それで、外は舟、開けると中に何かいる……豪華客船か? 違うぞ? この形ならノアの方舟か? と発想していきました。ノアのイメージがまず完成したので、そのつながりでもうひとつ何か物語はないかなと思ったときに、「モーセだったら開くと海割れるじゃん!」とひらめいて。

「モーセの奇跡ポーチ」(左)、「ノアの方舟ポーチ」(右)。各2300円。通販サイトのフェリシモで販売
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ネットにアップしたら、海外からも反響が

高橋:フェリシモのサイトで画像は見ていたんですが、実物を見るのは初めてです。触ってもいいですか? あ、モーセの奇跡ポーチは横もポケットがあるんですね。

乙幡:そうです。それぞれの物語に基づいたデザインを壊さないようにして、モーセは外、ノアは内側にポケットをつけました。旧約聖書の中で、方舟は3段になっているという設定らしいので、段に合わせてポケットを作って、中にも動物が隠れているように見えるイラストを入れて。

高橋:忠実に再現しているんですね。

乙幡:ええ、すごく忠実に。動物たちの絵も私が描いたんですよ。企画段階ではイラストで完成予想図を描いていただけだったんですけど、実物作ったほうが早いなと思って、ポーチの作り方をネットで調べて、見よう見まねで試作品を作ったんです。外部に発注するとお金がかかるので、家で布にプリントして。プリントできるのがA4サイズだけだったので、おのずとポーチのサイズも決まりました。作った時点で、自分でも「これは行ける」と思ったんですよね。2種類あるから、シリーズとしてしっくり来るなと。ワクワクしながら公開の日を待っていたんですが、投票結果は予想通りという感じでした。

高橋:僕も投票のときにフェリシモのサイトを見ていたんですが、すごい勢いでしたね。

乙幡:投票当日は、犬の散歩をしながらスマホでチェックしていたんです。何時間かたった時点から、ものすごい投票数が増えてきて、自分でも怖くなるほどで……。

高橋:最終的に何票くらい獲得したんですか?

乙幡:2万4000票です。日本語だけでなく、韓国語や英語やら、いろんな言語でのコメントが集まりました。

高橋:世界中からですね。

乙幡:信仰心のあつい方々のハートを射止めてしまったようです。

高橋:実は、僕はノアの方舟とかモーセって、詳しく知らないんですよね。「乗って逃げた」とか「海割った」とかその程度。

乙幡:乗って逃げた(笑)。でも私もその程度の知識でしたよ。

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