「∞(むげん)プチプチ」などのヒット商品を生み出した高橋晋平氏は「TEDxTokyo」に登壇するなど、企画・アイデア発想の名手としても知られる。その高橋氏が世の中で話題となっている“トンガリ商品”をピックアップし、開発者に直撃。企画の源泉とアイデアの“転がし方”を探っていく。

 サンコーレアモノショップの山光博康社長との対談の後編。ネーミングや値付けのコツや、コピー商品についての考え方、さらに今後の展開を聞いた。対談の中で出た「直球どストレート」なモノ作りとは?

サンコー 山光博康(やまみつひろやす)社長(右)。1965年広島県生まれ。大学卒業後、秋葉原のPC周辺機器の輸入販売会社に入社。 2003年にサンコーを設立し、社長に就任。  「面白くて、役立つ」をコンセプトとした商品に特化した通販サイト「レアモノショップ」を展開。オリジナル企画商品も多数手がける
サンコー 山光博康(やまみつひろやす)社長(右)。1965年広島県生まれ。大学卒業後、秋葉原のPC周辺機器の輸入販売会社に入社。 2003年にサンコーを設立し、社長に就任。 「面白くて、役立つ」をコンセプトとした商品に特化した通販サイト「レアモノショップ」を展開。オリジナル企画商品も多数手がける

「役に立つ」が一番、面白さはその次

高橋晋平氏(以下、高橋): サンコーさんが今扱っている商品のうち、何割くらいがオリジナルなんですか?

サンコー山光博康社長(以下、山光): 何割とはいえないんですが、輸入商品のほうが多いですね。集めるのはなかなか大変なんですよ。日本の市場にない商品ということが大前提。次に、役立つものであること。この2つの条件がそろっていれば売れそうじゃないですか。でも、売れないからないだけかもしれない。だから、それでも売ってみようと思える商品を集めるのが難しいんです。

高橋: 面白い商品でも、取り扱わないこともあるんですね。

山光: ありますね。むしろ、取り扱わないほうが多いです

高橋: 損するわけにはいかないですしね。USB花粉ブロッカーも、家族や身近な花粉症の人の役に立つし、市場にはまだないから売れるだろうという勝算があって作ったわけですよね。

山光: やっぱり、100%とはいかなくても、70%くらいの確信がないと取り扱えないですよ。

高橋: 僕も商品が面白くて、さらに話題になれば売れると考えていた時代があったんですが、ネットでバズることと売れることは全く違うんですよね。バズったのに全然動かないこともある。だから、山光さんが今おっしゃったように、役に立つのに売れないというのは分かるんですよ。買うって、シズル感というか「お金を出すことがうれしい」みたいな感覚がある。その感覚が分かると、ヒット商品をたくさん生み出せると思うんですが。

山光: ふざけているように見られる会社なんですが、自分たちとしてはネタとして商品を出しているつもりは一切ないんですよ。よく言われるんですけどね。役に立つ商品だから買っていただけると思っていて、面白さはその次なんですよ。

高橋: これ(USB花粉ブロッカー)はちょっと狙ったんじゃないかと思ったんです。でも、これも大真面目に作っているわけですね。

山光: 大真面目ですね。

高橋: でも、これをかぶって外に出るのって、やっぱりネタ感があるような……。

山光: 外でとは考えてなかったんですよ。あくまでも部屋の中でという考え方だったので。

高橋: なるほど。たまにはネタとして商品を投入することもあるのかと思っていたんですが、それも一切ない?

山光: ないですね。でも、われわれが真剣にやっているのが、よそから見ると何だか面白いのかもしれないですね。

高橋: それは分かります。僕は(サンコーレアモノショップの)店舗もよくチェックしているんですが、「USB電動静音うちわ」は店頭で目にするたびに突っ込みたくなっちゃって。

「USB電動静音うちわ」(1980円)。風量無段階調整と自動電源オフタイマー機能付き
「USB電動静音うちわ」(1980円)。風量無段階調整と自動電源オフタイマー機能付き

山光: 電動でうちわをあおいでくれたら助かるなと思って

高橋: 扇風機じゃダメなんですか。

山光: 扇風機の風って、ずっと当たっているとつらいんですよね。ある程度の風が体に当たってくれればいいので、うちわが電動になればいいと思ったんです

高橋: エネルギーが伝わる効率が悪いと思うんですが(笑)。

山光: 確かに、無駄にしているなと思いますが。

高橋: あと、「USBあったかオニギリウォーマー ブラウン」っていうのもありましたよね。

山光: 温めるとおいしいじゃないですか、おにぎりって。かといってコンビニで買ったおにぎりを食べる前に電子レンジで温めるのも面倒なので、ヒーターを内蔵したケースに朝買ったおにぎりを入れて、2時間くらいたてばお昼ごろにはちょうどいい状態になるという商品ですね。

高橋: やばいな、これ。永遠に話が続きそう(笑)。

トンガリ商品がずらりと並んだ棚を眺める高橋氏。吊り下げ棚二段目、右から二番目が「USBあったかオニギリウォーマー ブラウン」
トンガリ商品がずらりと並んだ棚を眺める高橋氏。吊り下げ棚二段目、右から二番目が「USBあったかオニギリウォーマー ブラウン」

機能を足すと価値が上がったように見えてしまう

山光: これは新商品です。「ヘッドホンなクーラー」。首にかけるとヘッドホンをしているように見えるんですが、クーラーなんです。耳あて部分から風が出るんですよ。ウエアラブルなクーラーを作りたいと思って、色々な形状を考えたんですが、見た目に違和感があるようなものは使いにくいかなと。その点、ヘッドホン型だったら、ただヘッドホンを付けているようにしか見えないので。

「ヘッドホンなクーラー」(2980円)。送風口の向きやスライダーの長さも調節できる
「ヘッドホンなクーラー」(2980円)。送風口の向きやスライダーの長さも調節できる

高橋: 確かに。

山光: 銀行の営業マンが、外回り中の暑さ対策にと買ってくれたんですよ。お堅い商売なので変なものは付けられないけれど、ヘッドホン型なら大丈夫だと。まあ、仕事中にヘッドホンをしているのもどうかな思いますが(笑)。

高橋: 確かにヘッドホンを付けている銀行マンを想像すると……。

山光: オフィスの中ではダメでも、外回り中なら大丈夫ということでした。

高橋: やっぱりネタとしか思えないですよ。

山光: 風が当たる角度も調整できますし、真面目に作ってるんですよ。

高橋: 付けてみてもいいですか。

山光: どうぞ。

高橋: (装着して)涼しいです、風の具合もちょうどいいですね。

山光: これを付けていると、日差しが強い日でも快適なんですよ。外ならあまり駆動音は気にならないですし。

高橋: ウエアラブルで便利なものというと、手で持たなくてもいい傘とか、サンバイザーやサングラス以外の紫外線対策を考える人も多いと思うんですが、サンコーさんは「どストレート」にやっていますね。

山光: 機能はシンプルにすることを重視しています。サンプルやCGの段階で工場側がいらない機能やスペックを足してくることがあるんですよ。「これは説明した内容とは違う」というやりとりをなんども繰り返します。エンジニアって、とにかく何か足そうとするんですよ、盛ろうとするというか。それにブレーキをかけるのもわれわれの役目だと思っています。機能を足すことで確かに価値は上がるんですが、その分コストも上がるので。A+B=Cで、機能が上がっているように見えてしまいます。でも、お客さんが欲しいのはAという機能だけで、Bのコストは払いたくないかもしれない。AだけでいいのにBを足そうとするんですよ。

高橋: 面白いですね。

山光: だから、「Bを足さないで、Aだけでいいんだ」とブレーキをかけながら、Aにはこういうマーケットがあってお客さんの問題を解決するので、必ずニーズがあるということを説明するようにしています。

遠慮がちに提案すると相手も却下しやすい

高橋: ところで、商品のヒット率はどれくらいですか。

山光: 7割、8割ぐらいは当たっている気がします。一番はゴロ寝デスク、次に先ほどのUSBあったか手袋とスリッパ、その次に「うつぶせ寝クッション」。うつぶせになって、スマホやタブレットを使う人は多いですからね。

「うつぶせ寝クッション2」(4980円)。顎を乗せると頭や上半身をクッションが支えてくれるので、首や肩に負担がかからない。高さ、角度は10段階に調節できる
「うつぶせ寝クッション2」(4980円)。顎を乗せると頭や上半身をクッションが支えてくれるので、首や肩に負担がかからない。高さ、角度は10段階に調節できる

高橋: うつぶせ寝って疲れますよね。こういう商品を思いつく人は、他にもきっといると思うんですが、企画が通らないことも多いと思うんです。「やってみてもいいかな」と上司に思わせるためにはどうしたらいいんでしょうか。

山光: アドバイスできるほどのことをやっているわけでもないのですが、自分が絶対に売れると思うものは、自信を持って言うべきですね。「こういう商品があったらいいと思うんですけど……」と遠慮がちに提案すると、相手も却下しやすくなる。売れそうだと思う理由を論理立てて提案すれば、企画も通りやすくなるんじゃないでしょうか。私も社員からよく提案を受けますが、「絶対いけますよ!」と強く言ってもらえると、ポジティブに受け止めやすいので。

高橋: 「絶対にいけます」と言えない時点で弱いですよね。ちなみに、うつぶせ寝クッションはおいくらなんでしょうか。

山光: 4980円です。

高橋: これがないと困るというわけではないという商品に消費者が4980円も出すのだろうかと考えると、大手のメーカーは商品化に二の足を踏んでしまうのではないかと思います。値付けのポイントはどこにあるのでしょうか。

山光: 利便性とコストのバランスだと思います。1万9800円では誰も買わないと思いますが、普通のクッションが2000~3000円で売られている中で、角度が調節できる機能があって、4980円ならいけるのかなと。

高橋: 価格設定に関して、ルールのようなものは決めているんですか。

山光: できる限りリーズナブルにしたいとは考えています。ニーズもあって商品の出来もいいなどの条件がそろっていても、値付けが難しいんですよ。高すぎると売れないし安すぎても継続できないので。2980円、5980円、9980円、1万2800円の4段階のうち、お客さんが買いやすい適正な価格になるようには気を付けています。

高橋: 経験則もありますよね。

どんどん真似されても、新しいマーケットが作れたなら

高橋: 他社が後追いで同じような商品を出してきたりすることはあるんですか。

山光: ゴロ寝デスクは、中国で大量にコピー商品が出回ってます。「自撮りリングライト」という商品も、かなりコピーされています。スマホのカメラ部分にクリップで挟み込むと、ライトの効果で明るくきれいに映れるという商品です。さらに、広角レンズになので2、3人で一緒に撮影できます。

高橋: 街中で使っている子をよく見かけます。

山光: われわれが最初に作ったんですが、瞬く間にコピーが出回りました。中国では特許もあまり意味がないですよね。

「クリップ式自分撮りリングライト」(現在は販売終了)
「クリップ式自分撮りリングライト」(現在は販売終了)

高橋: 日本で特許は取っているんですか。

山光: 自撮りリングライトは取っていなかったんですよ。でも、もし取っていたとしても、ちょっとずつ仕様を変えてコピーされてしまうので、どうしようもないんです。コピーされることが気にならないと言ったら嘘になりますが、だからといって防御策を取るのは難しいと思っています。どちらかというと、どんどん自分たちで新しいものを作って、マーケットを作っていこうと考えています。

高橋: なるほど。

山光: 売れているからコピーされるんですよ。だから、そういう商品をもっと増やしたいんですけどね。

いかにも「サンコーレアモノショップです」という感じ

高橋: サンコーさんの商品は、機能だけでなくネーミングもどストレートじゃないですか。(笑)。これも戦略なんですか。

山光: やっぱり直球ストレートでないと。格好いい名前を付けると、お客さんが見たり聞いたりしたときに、左から入って右に抜けてしまう気がするんです。引っ掛かりがないというか。

高橋: 何でみんな格好いい名前を付けたがるんでしょうね。いや、僕も付けたがるけど……。勉強になります。パッケージのデザインも、あまり洗練されていないじゃないですか。それもまたいいんですよね。

山光: 実は、1番の課題がそこなんです(笑)。デザインをなんとかしたいんですよ。

高橋: 僕はそこがサンコーさんのアイデンティティーだと思っているんですが。

山光: 「素人臭さ」みたいなところが?

高橋: それがまた味になっているから、僕もサンコーさんのファンになったんですよ。だけど、そこにデザイナーを入れていくと……。

山光: その良さが失われてしまうんじゃないか、と。

高橋: そうそう。

山光: でも、コンセプトや商品の出来はいいので、もっと見た目が良くなればもっと幅広い層に受け入れてもらえると思うんですが。

高橋: そこはどうなんでしょうね……。

山光: 今、家電系のラインアップに力を入れようとしているんですよ。洗ったシャツを乾燥させながらアイロンもかけられるんです。見た目はこんな感じですけど、これは素晴らしいですよ。

「シワを伸ばす乾燥機 アイロンいら~ず」は2017年8月28日発売予定。7980円
「シワを伸ばす乾燥機 アイロンいら~ず」は2017年8月28日発売予定。7980円

高橋: すごい。布団乾燥機のシャツ版みたいな感じですね。僕はこのデザインをおしゃれにするほうがいいかどうか、ちょっと迷うな(笑)。

山光: 本当はもっと小型化したかったんですが、試作するたびにどんどん巨大化してしまって。

高橋: こういうアイデアはあり得ないと、これまで思い込んでいました。仕事を始めて十数年で、捨ててきた部分だと思うんです。僕はこの境地には行けなかった。 ハンガーに吊るしたままかけるスチームアイロンはありますけど、これならアイロンを持つ手が重い、疲れるという不満が出ない。こんなストレートな解決方法があるんだ。これももちろん、直球ど真ん中を投げているという気持ちでやっているんですよね。

山光: そうなんですよ。直球で投げているんですが、たぶん癖が出てしまっていますよね(笑)

高橋: 本体は地面に付かなくていいんですか。

山光: いいんです、そのままつり下げて使います。

高橋: 大手メーカーだと、本体がぶら下がっているのとか絶対ダメそうですよ(笑)。こういうところは、サンコーさんのイメージとして確立できていると思うんです。最近はクラウドファンディングもはやっていて、本当にお金がないわけじゃなくてもクラウドファンディングで話題を作ったり評価を探ったりするんだと思うんですが、案件によっては商品の魅力がかえって薄くなると思うんです。

山光: そうですね。

高橋: これまでの歴史や強力なリピーター、流通とのつながりもあるかもしれないですけれども、このアイロンいら~ずをいきなり発売するのはすごいですよ。イケてる。「デザインをもっと良くしたい」と仰っていますが、やっぱり変えてほしくないと思うんですよね。(商品の箱を見ながら)使い方を真面目に解説しているところとか、パッケージ写真もこのまま洗練してほしくないな。いかにも「サンコーレアモノショップです」という感じで(笑)。偏った意見かもしれませんけどね。奥が深いですね、売れるものって。

(文/樋口可奈子、写真/シバタススム)

お知らせ
高橋氏と株式会社妄想工作所の乙幡啓子氏が共同開発したカードゲーム『民芸スタジアム』が発売されました。全国47都道府県の民芸品を戦わせるという斬新な設定のゲームです。

当記事は日経トレンディネットに連載していたものを再掲載しました。初出は2017年8月28日です。記事の内容は執筆時点の情報に基づいています

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