「∞(むげん)プチプチ」などのヒット商品を生み出した高橋晋平氏は「TEDxTokyo」に登壇するなど、企画・アイデア発想の名手としても知られる。その高橋氏が世の中で話題となっている“トンガリ商品”をピックアップし、開発者に直撃。企画の源泉とアイデアの“転がし方”を探っていく。
今回の対談相手は、ユニークな商品を次々とヒットさせている通販サイト「レアモノショップ」を展開するサンコーの山光博康(やまみつひろやす)社長。もともとユニークなものが好きで、会社を立ち上げた際は「面白いものだけを扱う」と決めたという。“トンガリ商品”を作る上で、山光社長が重視することとは?
「スタンド使いは引かれ合う」みたいな(笑)
高橋晋平氏(以下、高橋): サンコーさんの商品で僕が最初に衝撃を受けたのは、顎を乗せる台みたいなグッズだったんです。
サンコー山光博康社長(以下、山光): 「あごのせアーム」ですね。
高橋: ニュースで取り上げられていたのをひと目見て「めちゃくちゃいいのが来たな」と思って。下を向いている時間が長いと首を痛めやすいですけど、まさかこうやって人の手の形をしたものに顎を乗せる商品を出すとは。御社はそういうアイデア商品を次々と発売する会社というイメージがあります。何年前からこういう商品を作るようになったんでしょうか。
山光: 前職はパソコン周辺機器の輸入商社だったんですが、そのときに「普通のもの」というか、DVDロムやドライブ、マウス、キーボードとか、ありきたりのものしか扱えなくて。面白いものを提案してもなかなか受け入れてもらえなかったんですよね。自分が会社を始めるにあたって、逆に面白いものだけを扱おうと思って、「レアモノショップ」と名付けたんです。当初は中国や台湾のメーカーから腕時計型のUSBメモリーやMP3 プレーヤーといったちょっと変わったもの仕入れて販売していましたが、だんだん仕入れだけでは飽き足らなくなってきて。「これにUSBを使ったらもっと便利なんじゃないか」と考えて、2006年くらいに当時普及し始めたUSBを使って動かす機器をオリジナルで作るようになりました。
高橋: ご自身が、もともと面白いものが好きだったと。
山光: そうですね。だから、「∞(むげん)プチプチ」も、すごい目に飛び込んでくるという感じがありましたね。
高橋: お互いに気になっていたんですね。漫画『ジョジョの奇妙な冒険』的に言えば、「スタンド使いは引かれ合う」みたいな(笑)。
“自分が絶対に欲しいもの”でもニーズを冷静に見極める
高橋: これまでに発売した商品の中で、何が一番売れているんですか。
山光: 一番は「ゴロ寝デスク」系ですね。あおむけになって、寝ながらパソコン作業ができるツールです
高橋: 寝ながらパソコンを見るとか、そういうアイデアって出ても一瞬で消えちゃう気がするんです。それが形になっていて、しかもちゃんと売れているのは面白いですね。
山光: 私が腰痛持ちなので、机に座って前傾姿勢で作業しているとだんだん腰が痛くなるんです。だから、寝転がってパソコンが使えたらラクだろうというところから作り始めました。社内では、「誰も欲しがらない」というような否定意見ばかりだったんですが、腰が痛くて悩んでいる人はいっぱいいるはずなので、「これはいける」と踏んで発売しました。結果として、発売直後からかなり売れました。10年ぐらい前なので正確な数は覚えてないんですが、当時は本当に一日中ずっと、ゴロ寝デスク、ゴロ寝デスクって注文が来るんですよ。やっぱりこういう不満を抱えていた人は多かったんだと実感しました。
高橋: なるほど。僕も商品を考えるときに、“自分事”で考えるんですよ。マーケティング的には、そこにニーズはあるのかというところから考え始めるじゃないですか。でも自分が絶対欲しいと思ったものは、ほかにも欲しい人がいるという考えを一番に持っていきます。
山光: ただ、自分が絶対に欲しいものでもニーズがあるかということは、ちゃんと冷静に考えていました。腰痛の人がどれほどいるのかとか、自分が欲しいと思うようなプロセスが他の人にも当てはまるのかどうかというのは冷静に見るようにしていて。自分だけがすごくとがっている人間だと、自分が欲しいものでもほかの人が欲しくない場合もある。
第三者より家族や友だちの意見を重視
高橋: アイデアを思いついたときは、周りに聞いたり調査したりするんですか。
山光: マーケティングという感じで第三者に意見を聞いても、逆にバイアスがかかってしまうと思うんですよ。アンケートに答えてもらったとしても、どうしてもちょっとずれてきてしまうのかなという気がして。友だちに聞くとしても、あまり親しくない人だと気を使って「いいね」と言ってくれているのか、本気で言ってくれているのか分からない。でも、家族とか本当に親しい友人だったら気を使わないで言ってくれるので、バイアスがかからない素直な意見が聞けると思っています。あと、今はネットですぐ検索できるので、自分と同じような人がどのくらいいるのか、件数で表示されますよね。そのあたりは調べやすい時代になっているかなと思います。
高橋: 僕も最初は家族や友だちに聞くんですけど、そのときのリアクションの反応速度みたいなものをすごく重視します。特に社長だと、社員が気を使って言ってくれることもありそうじゃないですか。気を使っているのか、本当にいいと思っているのかは、反応速度に表れると思います。
山光: ああ、そうですね。説明したときにすぐにパッと出てきた反応って、バイアスがかかっていない素の情報ですもんね。
高橋: でも、ゴロ寝デスクのときは社内からは反対意見が多かったんですよね。
山光: そうですね。反対意見が多い商品のほうがヒットしている気がしなくもないんですよ。
高橋: 他でもそういう例をよく聞くんですが、僕は実感したことがなくて。
山光: ∞(むげん)プチプチは最初から反応が良かったんですか。
高橋: あれもやっぱり反対意見のほうが多かったんですよ。賛成してくれた人もいたんですけど。この前聞いた話ですが、ゲームの『シーマン』は周りから「これは売れない」と言われて、それを聞いた作者が「それならいける」と思った、と。周囲が否定すればするほどいけると思ったというような話はよく聞きますけど、何で反対意見が多いとヒットするのか……。とがっているからかな。
山光: それが目立つということはあるのかもしれないですね。ゴロ寝デスク以外では「USBあったか手袋」というヒット商品があるんですが、当初は社内から「パソコンは家で使うもの。室内なんだから暖房もあるのに、なぜ手袋を室内でしなければならないのか」という反対意見が多かったんですよ。
高橋: そうなりますよね。
山光: でも、私はすごい冷え性で、暖房が入っていても寒いんですよ、手足が。だから、エアコンが効いている部屋でも手足が寒い人は必ずいると思ったんです。冷え性じゃない人からすると、こういう気持ちは分からないみたいなんですよね。でも、冷え性の人は世の中に一定数いて、私と同じように暖かい部屋にいても手足が寒くて困っているだろうと思ったんです。
高橋: 周囲から反対されないようなものって、多くの人に共感されやすいものじゃないですか。ターゲットが広いという時点で、“浅い”のかもしれないですよね。僕も冷え性なんですよ。しかも手足の末端が本当に冷えるから、この手袋が欲しくなる気持ちはすごく分かるんです。そういう人はそんなに多くないかもしれないですけど、だからこそ「よくぞ作ってくれた」という気持ちになって、買うのかもしれないですね。
山光: ああ、それはあるかもしれないですね。
高橋: 面白いと思っても、買うか買わないかの境目って、本当に大きいじゃないですか。たぶん、御社が「これは面白い」と思って作った商品は、そういう人の心に刺さるものがきっとあると思うんですよ。だから「買いたい」というところまでリーチするんじゃないかと。
これ、会社で使う人っているんでしょうか
高橋: 最近、この「USB花粉ブロッカー」を雑誌で見かけて、「いよいよとんでもない商品が出たな」と思ったんです。これはどういった経緯で作られたんですか。
山光: 社員や私の妻が花粉症でつらそうだったので、何とかしてあげたいというのが最初の発想です。花粉症を何とかするというと医療系、例えば鼻の奥を焼いたり薬を塗ったりという解決法になると思うんですが、われわれにはそういうことはできないので、「自分のいる空間をクリーンルームみたいにできればいいんじゃないか」という点に狭めて考えたんです。ウエアラブルな状態で疑似クリーンルームのようにすると考えると、かぶりタイプで、前が見えるように透明にする。さらに空調を付けて息苦しくないようにして、フィルターも付けて花粉が中に入ってこないようにしようと考えて。
高橋: かぶってみてもいいですか。
山光: もちろん、どうぞ。
高橋: 僕も、花粉症だけではなくハウスダストアレルギーがひどいんです。だから部屋にちょっとでもほこりがたまるともうダメで。この商品にも関心はあったんですけど。
山光: フィルターは、市販の不織布マスクを付けているだけなんですよ。購入者が自分でフィルターを替えられるように。
高橋: 付け替えるためにか。だから入手しやすいマスクにしているんですね。
山光: そうです。マスクでフィルタリングされた空気が中に入るという仕組みになっています。帽子をかぶるようにかぶっていただければ。
高橋: ああ、かぶれた、かぶれた。こうか。固定されたわけですね。
山光: このままだと、だんだん苦しくなってくるんですよ。
高橋: 苦しいですね、すでに。
山光: 1分ぐらいするともう本当に息苦しくなるぐらいなんですよ。視界も曇ってきて。
高橋: 僕、今にも窒息しそうです。
山光: このスイッチをオンにすると。
高橋: ああ、呼吸がラクになりました。曇りもなくなって。これを付けた状態で仕事をするわけですよね。
山光: 付けたままパソコンを操作するという想定です。ポケットにモバイルバッテリーを入れておけば、そのままトイレに立つこともできます。
高橋: このまま移動できるんだ。トイレへ行って、また帰ってきて、仕事をすると。
山光: 空気が上から下に抜ける感じなので、すき間が多少あってもそこから花粉が上がってくることはないんですよね。空気が外に出ようとしているので。
高橋: 外の音もちゃんと聞こえますね。
山光: ええ。会話も普通にできます。
高橋: (外しながら)これはどこで作ったんですか。中国?
山光: これは中国で作っています。
高橋: じゃあ、帽子とかは、あり物なんですか。
山光: コストの面で、帽子に布を付けたみたいな感じになっています。
高橋: マスクを付け替えられるというのはすごいですよ。簡単に入手できて付け替えられるという意味では、これ以上ないリフィルですよね。売れているんですか?
山光: 2014年に発売したんですが、結構長いこと売れていますね。
高橋: 僕が雑誌で拝見したのはここ最近なので、比較的新しい商品かなと思ったんですけど。
山光: まあ、あんまりないですからね、こういう商品。
高橋: ないでしょうね、これは。花粉症が本当にひどい人って、やっぱりここまでやってブロックしたいんでしょうね。
山光: 目や粘膜がやられちゃって、鼻の下も痛いという話はよく聞きますよね。そういう悩みが解消できるものであれば、見た目は二の次、三の次になるのではないのかなと。ただ黄色はやりすぎだったかもしれないので、次作るときにはもうちょっとマイルドな見た目にはしたいんですけど。
高橋: 見た目、面白いですけど。
山光: 白にしていたらもっと売れたかなと思うんですけどね。
高橋: これ、会社で使う人っているんでしょうか。
山光: いると思います。
高橋: いるのか……。
山光: 付けたまま外に出てコーヒーを買いに行くみたいな動画を投稿している人もいました。
高橋: 『モンスターズ・インク』のあれみたいですよね。あの防護服みたいで。ネタ的にも、ということなのかな。かぶってみたいとか。
山光: それもあるかもしれないですね。
(文/樋口可奈子、写真/シバタススム)
当記事は日経トレンディネットに連載していたものを再掲載しました。初出は2017年8月7日です。記事の内容は執筆時点の情報に基づいています