今年6月にレッドブル・エアレース千葉が開催されて2週間後、2017年6月19日からフランス・パリのル・ブルジェ空港で開催されたパリ・エアショー2017で、三菱重工が開発中の国産旅客機「MRJ」が展示された。MRJ(初飛行は2015年11月)は、「YS-11」(初飛行は1962年8月)以来、半世紀振りに開発された国産旅客機。パリは、MRJとしては初めて参加を果たしたエアショーだった。

 とはいえ、MRJの将来は決して楽観できるものではない。同機は2008年の開発開始当初は2011年に初飛行、2013年から航空会社への納入を開始する予定だった。それが5度にわたって延期を繰り返し、現在は2020年半ばの納入開始予定となっている。実に7年もの遅れだ。

 今回エアレースに合わせて航空機関連の取材をするなかで、筆者は旅行や貨物の輸送手段だけでなく、スポーツなども含む広い意味での日本の民間航空、そしてMRJの開発で苦戦する日本の航空機産業が抱えている大きな課題のひとつが見えてきたように感じた。

 航空機という道具と一般の人々との距離があまりに大きすぎるのである。飛行機を道具として使う感覚を持つ人があまりに少ないために、航空機の利用シーンが極めて限られ、航空機関連産業もビジネスとしてうまく回っていないと思う。ここで、日本におけるジェネラル・アビエーションの弱さという問題が浮上してくる。

米国の航空機産業を支えている「ジェネアビ」とは?

 軍用と定期航空を除いた航空機の利用分野のことをジェネラル・アビエーション(略してジェネアビ)という。具体的には、自家用機、社有機、大学などが持っているグライダーなどスポーツ用、報道用、写真撮影や農薬散布用の機体などがこの分野の航空機ということになる。

 2016年の日本の民間航空機は、全部で2767機だ。航空会社の定期航空用旅客機が約600機なので、日本のジェネラル・アビエーションの規模は2100機程度というわけだ。一方米国のジェネアビの規模は、だいたい22万5000機前後で推移している。日本の100倍あるわけだ。これは米国では航空機がより身近な乗り物であることを意味する。パイロット免許の所有者も多いし、飛行機を所有して飛ばしている人も多い。生活の中に航空機がより密接に入り込んでいるのである。

 さらに、米国のジェネアビにはもうひとつ「自作航空機」という底流がある。自分の作った飛行機に自分で乗るという趣味だ。裏庭のガレージで自分が乗って楽しむための飛行機をコツコツと作り、出来上がったら航空局の認証を取って自分で操縦して空を飛ぶ。米国の航空法には、実験航空機(Experimental Aircraft)という自作航空機を含むカテゴリーがあって、「こういう手続きをとれば、自分の作った飛行機で飛んでいいよ」という法律と手続きが整備されている。米国には自作機を含む実験航空機のカテゴリーに入る機体が約2万4000機も存在する。自作航空機が趣味という人の集まりであるEAA(Experimental Aircraft Association)という組織もある。「道具として使い、楽しむ」だけでなく、「自分で作って自分で乗る」までを含む“ぶ厚い”ジェネアビの存在が米国の航空機産業の根本を支えているのだ。

 米航空機産業というとボーイングや、ロッキード・マーチン、ノースロップ・グラマンのような巨大メーカーを思い浮かべる人が多いだろう。しかし、技術の継承や次世代の育成といった、産業を維持発展させるための最も基本的で重要な部分はジェネアビが支えているのである。