機体開発が明文化されていない日本の航空法

 では、なぜ日本のジェネアビは、そんなに層が薄いのか。今回、ふくしまスカイパーク(福島県福島市)でレッドブル・エアレース千葉2017の本番に向けた練習を行っていた室屋義秀選手にインタビューする機会があった。室屋選手は、ふくしまスカイパークを拠点として、ジェネアビ振興を進める構想が動き出していることを話してくれたが、その中に気になる一言があった。

 「日本の航空法は、機体開発が非常にやりにくいんです。機体開発をしないと、次の世代が育ちません」というものだ。

ふくしまスカイパークにおける室屋義秀選手の練習飛行(撮影:松浦晋也)
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 日本の航空法を調べてみると、実は開発のための実験航空機に関する規定はない。現在、日本では自作航空機を含む実験航空機には国土交通省・航空局が「JX」で始まるナンバーを与えて試験飛行の許可を出している。その法的根拠は航空法第11条1項の「航空機は、有効な耐空証明を受けているものでなければ、航空の用に供してはならない。但し、試験飛行等を行うため国土交通大臣の許可を受けた場合は、この限りでない。 」の“但し”以降の部分なのである。

 独立した条項ではなく、この但し書きによって日本の実験航空機は辛うじて成立している。このためJXナンバーの機体は“試験飛行”でしか飛ぶことができない。米国の実験航空機とは異なり、飛行ごとに煩雑な申請を行わなくてはならないのである。

 ちなみに、ビジネスジェット機「ホンダジェット」を開発・発売した本田技研工業は1989年以降、研究開発拠点を米国内に置き、多くの米国人技術者を雇用して開発を進めてきた。公式には「ジェネアビ最大の市場である米国でカスタマーの意見を取り入れつつ、開発を進めるため」としているが、研究開発を進めやすい環境と技術者雇用の容易さを優先した結果だろう。言葉は悪いが「とてもじゃないが、日本で開発はやってられない」と判断したのではないかと想像する。

ホンダジェットは米国内で開発された(画像:本田技研工業)
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 だから、日本が本気で航空機産業を振興するつもりならば、まず航空法を改正して実験航空機をきちんと法律の条文として位置付け、その飛行をスピーディーに行える制度を作る必要があるだろう。実験航空機を、“但し書きの日陰者”から、きちんと法律に記載された存在にする必要がある。

 日本人は決して航空機が嫌いなわけではない。レッドブル・エアレース千葉には2日間で9万人もの観客が集まった。実際の機体を見ることができる自衛隊基地の基地祭は、どこもかなりの人出だ。自作した人力飛行機の性能を競ういわゆる「鳥人間コンテスト」は主催する読売テレビの看板番組のひとつといえるだろう。米国のEAAに相当する「エクスペリメンタル航空機連盟」という組織も活動している。

 したがって、航空産業を日本で育てるには、こうした“航空機が嫌いなわけではない人々”の興味を、操縦から自作へと少しずつ誘導することで、ジェネアビを育てていく必要があるだろう。時間はかかるかもしれないけれど、そうした多くの飛行機好きの人たちのなかから優れた人材が航空方面に進むことで、初めて日本の航空機産業は成長することができるのではないかと、エアレースを飛ぶ機体を観ていて、しみじみと思ったのである。

プロフィール

松浦 晋也(まつうら しんや)

 ノンフィクション・ライター/科学技術ジャーナリスト。宇宙作家クラブ会員。 1962年東京都出身。日経BP社の記者として、1988年~1992年に宇宙開発の取材に従事。その他メカニカル・エンジニアリング、パソコン、通信・放送分野などの取材経験を経た後フリーランスに。宇宙開発、情報・通信、科学技術などの分野で執筆活動を続けている。

 代表作は、日本初の火星探査機「のぞみ」の苦闘を追った「恐るべき旅路」(2005年朝日ソノラマ刊、現在は復刊ドットコム刊)。近著に「はやぶさ2の真実」(講談社現代新書:2014年11月刊)「小惑星探査機『はやぶさ2』の挑戦」(日経BP社:2014年12月刊)

 乗り物マニアで、折り畳み自転車4台にシクロクロス1台、ママチャリ1台、リカンベント2台、オートバイ2台と自動車1台を所有。パラグライダーで空を飛んでいたこともある。

 ブログ:松浦晋也のL/D、Twitter:@ShinyaMatsuura