東京電力パワーグリッドと大和ハウスグループの大和リビングマネジメントは、住宅内の電気使用状況などの情報を基にした新サービス創出に向け、2017年8月1日から実証実験を開始する。ソニー発のベンチャー企業インフォメティスのセンサー技術を活用し、住宅向けに、家電を自動制御するシステムの開発を目指す。実現すれば、生活リズムや気候、家族の在宅状況に合わせてエアコンが自動で温度を調整したり、電気の使用状況から家電製品の寿命などを予測、買い替え提案してくれたりする住宅も登場しそうだ。

将来的には100万世帯導入を目指す

 今回の実証実験を通じ、東京電力パワーグリッドは、家電製品の種類ごとに、電気の使用量の変化をリアルタイムで検知するIoTプラットフォームを開発。大和リビングマネジメントは、それらの情報と、温度や湿度などの情報を合わせ、エアコンなどの家電製品を自動制御する賃貸住宅向け機能を開発する。

 実証実験の段階では、関東地区の43戸、関西地区の7戸の合計50戸の賃貸住宅が対象になる予定だが、大和リビングマネジメントは、今後、同社が運営する賃貸住宅「D-room」の標準機能のひとつとして提供していく考えだ。大和リビングマネジメントでは、実証実験後、2018年をめどに同サービスを実用化。2019年3月までには、D-roomだけで10万世帯での利用を想定している。

 一方、東京電力パワーグリッドは、大和リビングマネジメントと並行してさまざまなサービス事業者との連携も進める。それにより、国内100万世帯での同IoTプラットフォームの利用を目指すという。

今使っている炊飯器もIoT機器になる

 今回の実証実験のベースとなっているインフォメティスの技術は、分電盤に設置する専用センサーを利用して、住宅全体の電気使用状況を測定するとともに、家電製品ごとに、異なる電気の波形を捉え、エアコンやテレビ、洗濯機、冷蔵庫といった家電製品ごとの使用状況をリアルタイムで計測、表示できるものだ。

 最大の特徴は、手のひらサイズの専用センサーを分電盤に取り付けるだけで、いま利用している家電製品がIoT化できるという点だ。個々の家電製品をネットワーク環境に接続する必要もない。センサーを搭載した新たな家電を購入しなくても、10年以上使っている古い炊飯器でもデータを収集できるという。現時点では、エアコン、テレビ、冷蔵庫、洗濯機、電子レンジ、炊飯器、掃除機、ドライヤー(熱源機器)の8種類の家電機器の電力使用量を計測できる。

分電盤に取り付ける専用センサー
分電盤に取り付ける専用センサー
手のひらサイズで、ネットワーク接続機能などを備える
手のひらサイズで、ネットワーク接続機能などを備える

 ただ、分電盤にセンサーを取り付ける作業は、電気工事士の資格者が行わなくてはならないため、個人が自由に取り付けることができない。また、センサーそのものは廉価なものなので、それだけのために出張して設置作業をするといったサービスも現実的ではない。

 そのため、エアコンなどの新たな家電製品を購入した際に、一緒に専用センサーを分電盤に取り付けてもらうか、あるいは、賃貸物件で居住者が入れ替わる際に、業者側が取り付けるなどして、設置世帯を増していくのが有効な方法だ。そういう意味でも、50万戸の管理物件を持ち、年間で約12万戸の新規契約を行い、人気が高い賃貸住宅の独自ブランド「D-room」を展開している大和リビングマネジメントは、センサーの設置がしやすい。

居住者向け高付加価値サービスとして提供

 大和リビングマネジメントとしては、今回の実証実験で東京電力パワーグリッドが開発するIoTプラットフォームを単体で使うのではなく、既に同社が提携しているIoTプラットフォーム「plusbenlly (プラスベンリー)」(NECパーソナルコンピュータとキュレーションズが共同開発)に取り込んで活用するという。

 大和リビングマネジメント 経営企画部事業企画グループの山本浩司グループ長は、「(東電パワーグリッドのIoTプラットフォームが提供する)電気の使用状況や分析アルゴリズムの結果と、環境センサー付きマルチリモコンから得られる温度や湿度などの情報をともにplusbenllyに取り込み、家電製品を制御したり、音声認識端末と連携させて、音声で家電製品をコントロールできるようにしたりする。快適な睡眠環境を実現するために、電気の使用状況などから得られた情報を活用して、生活リズムに基づいた家電製品の自動運用、制御についての実験や検討も行う」という。

大和リビングマネジメント 経営企画部事業企画グループの山本浩司グループ長
大和リビングマネジメント 経営企画部事業企画グループの山本浩司グループ長

 将来的には、撮影した食事の写真を基にしたカロリー計算情報なども連動させて、食生活へのアドバイスをしたり、快適な睡眠をとるための提案をしたりするサービスも検討中だ。

 山本グループ長は「環境に配慮した住環境の提供や、家賃と光熱費、サービスをセットにした賃貸モデルを実現するなど、D-roomの価値向上に向けたサービスにつなげたい」という。

省エネ提案やターゲティング広告、見守りサービスにも活用

 実証実験のベースとなる技術を開発したインフォメティスも独自の展開を視野に入れている。同社を構成しているのは、かつてロボット犬として人気を博した「AIBO」の開発および商用化に携わったメンバーなどだ。2013年に、ソニーの機器分離技術を実用化するエネルギーITベンチャー企業として独立。現在はその技術を、IoTプラットフォームとして提供し、サービス事業者のニーズに応じて、分析および加工するアルゴリズムやAI(人工知能)の開発、提供などに取り組んでいる。

 インフォメティスの只野太郎社長は、実証実験に活用される技術について「精緻な電力消費情報は、活動ログとして活用できたり、家庭への不在情報の取得につながったりと、さまざまなサービスにつなげることができる」としている。

 例えば、電力消費情報から、より効率的な使い方をアドバイスする省エネコンサルティングサービスへの活用や、電力の使い方を基にした最適な電力会社やプランの提案活動、使用状況から家電製品の寿命などを予測した買い替え提案、電力情報を基にしたターゲティング広告、家事代行サービスの提供などが考えられるという。

 「カメラを使わないため、監視されている抵抗感が小さく、サービスを利用できる。電子レンジを頻繁に使用している家庭に、総菜や冷凍食品のプロモーションを行うといったことも可能だ。また、起床する時間、会社に出かける時間、夕飯の買い物に出かける時間、調理を始める時間、テレビを見ている時間などを推定して、タイムリーな販促を行うこともできる」(只野社長)

インフォメティスの只野太郎社長
インフォメティスの只野太郎社長

 さらには、在宅情報、不在情報をもとにした宅配業務の効率化、見守りサービスの強化、長期不在の把握や孤独死防止などにも応用できると見ている。

 各家電製品の使用状況をスマホなどで確認できれば、家庭内の動きを読みとることが可能だからだ。例えば、テレビのスイッチを入れれば、テレビ特有の電気の波形を認識し、テレビを見始めたことが分かる。同様に、エアコンをつければ、エアコン特有の波形を認識し、エアコンが稼働していることが分かる。留守中に家族が帰宅したことが分かるのはもちろん「家に帰ったら、宿題をする」と約束していた子供が、実はテレビを見ていて、宿題をサボっているといったことさえも推測できるわけだ。

 「2018年以降には、温度や湿度などを検知する環境センサーを使って家電製品を自動で運転、制御することで、快適な住環境を実現する住宅サービスを提供したり、コンセントに接続するだけで使える人感センサーを組み合わせて、簡単なホームセキュリティーを実現したりすることが可能になる。住宅事業者、セキュリティー事業者、損害保険会社、宅配事業者などと連携して、さまざまなサービスを創出していきたい」(只野社長)

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