東芝の白物家電事業が、中国の美的集団(ミデア・グループ)に譲渡されることになった。2016年3月末までに最終合意し、その後、3カ月以内に、事業譲渡を完了させる予定だ。具体的には、白物家電事業を担う子会社・東芝ライフスタイルの株式の過半を譲渡。東芝は一部出資を維持するが、連結対象からは外れることになる。

 これ以外にも、東芝の構造改革は、ここにきて一気に加速している。

 PC事業についても、富士通のパソコン事業およびVAIOとの統合を目指した協議を進めており、「少なくとも2016年度第1四半期までに決着をつけたい」と、こちらも連結対象から外す形になる。

 また、医療関連事業を行っている東芝メディカルシステムズを、キヤノンに約6655億円で売却することを決定。画像センサーの製造設備をソニーに売却することも決まった。東芝メディカルシステムズの6655億円という売却規模は、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業がシャープ全体を買収する費用を上回る。東芝にとっては、極めて高い価格で売却できたと考えていいだろう。

 2016年3月期に、自己資本比率が2.6%という危険水域にまで低下するとの見通しを発表していた東芝にとって、東芝メディカルシステムズの売却が財務体質の強化につながる大きな一手であることは間違いない。東芝の室町正志社長も、「新たなリスクが顕在化すれば、株主資本がマイナスに転じる可能性もある。なるべく今年度中に増強したいと考えていた」と語るように、まさに願ったりかなったりの売却劇だったといえる。

 こうした再編によって、東芝グループの従業員数は、2014年度末の21万7000人から、2015年度末には20万2000人に減少。さらに、2016年度末には18万3000人へと減少する。構造改革や事業売却による人員削減は、合計で4万人規模となる一方、傘下にあるウェスチングハウスによるCB&Iストーン・アンド・ウェブスターの買収や、新規採用などにより6000人が増加。足し引きすると、この2年間で、3万4000人が削減されることになる。

 ちなみに、同社が実施してきた人員削減計画は、予定数の1万840人に対して、2980人上回る1万3820人に達し、家庭電器部門では1800人に対して2100人、テレビなどの映像部門では3700人に対して3830人、半導体部門では2800人に対して4050人と、いずれも予定を上回る規模の人員削減となっている。

東京都港区にある東芝本社のビル
東京都港区にある東芝本社のビル
東芝メディカルの売却で財務体質の強化を狙う。写真は3月18日の記者会見から
東芝メディカルの売却で財務体質の強化を狙う。写真は3月18日の記者会見から

事業売却後も「TOSHIBA」ブランドは継続

 こうしたなかで、やはり気になるのは、家電事業の行方だ。

 東芝の室町社長は、「家電事業は、東芝を支えてきた事業であり、ブランドイメージでも重要な財産だった。その過半を委譲することは忸怩(じくじ)たる思いがある」と悔しさをにじませる。

 買収する美的集団は、1968年に設立。空調、冷蔵庫、洗濯機、キッチン家電および各種小型家電などを含む、幅広い製品群を展開。さらに、暖房・換気・空調システム分野でも実績を持つ。2014年の総売上高は230億ドル(約2兆7600億円)。全世界で10万人を超える従業員を誇る。東芝と美的集団は、コンプレッサや小型家電、インバーターなどの分野において20年以上にわたる協業関係があり、今回の動きも、こうした関係を下に進められたものだといえる。

 東芝によると、現在、美的集団とは、従業員および国内外拠点は維持する方向で協議を進めており、東芝のブランドについても、当面は使用することになるという。「美的集団は、東芝ブランドを維持すると明言している。また、当社が実績を持つ東南アジア市場においても、美的集団が東芝ブランドを引き続き採用していくと理解している」(室町社長)というように、今後も東芝ブランドによる白物家電製品が投入され続けることになりそうだ。

 国内市場において、東芝ブランドを維持するかしないかで、白物家電事業の業績が大きく左右されるのは明らかだ。パナソニックに買収後に中国ハイアールに売却された三洋電機の洗濯機および冷蔵庫事業は、「AQUA」という三洋電機時代の製品ブランドを継続したものの「SANYO」ブランドを使用できなかったため、結果として、三洋電機時代に比べて国内シェアを半減させた。量販店の店頭では、「AQUAの洗濯機は旧三洋電機の事業を継承した製品です」という言葉を入れたことで販売が上向いたという逸話もあるほどだ。

 一方でPC業界では、中国レノボが、NECからPC事業を買収した後も、国内においては「NEC」のブランドを維持。その結果、現在でも国内トップシェアを維持している。東芝の場合も、白物家電で「TOSHIBA」のブランドが使用できれば、一定のシェアを維持することにつながるだろう。東芝によると、東芝ストアを含む販売網との取引も継続することになる予定で、ブランド、販路は維持されたままで、白物家電事業が継承されることになる。

家電事業の従業員、国内拠点は維持することで美的集団と合意した。写真は3月18日の記者会見から
家電事業の従業員、国内拠点は維持することで美的集団と合意した。写真は3月18日の記者会見から

美的集団の資源投入で新しい製品を

 問題は、東芝らしい製品が、これからも投入され続けるかどうかだ。

 東芝の家電製品には、日本の家電メーカーらしいこだわりがいくつもある。例えば、冷蔵庫では、野菜の鮮度を重視するとともに、野菜室を真ん中に配置。毎日の使いやすさも追求したレイアウトになっている。炊飯器では、「釜仙人」と呼ばれる名人を中心に開発体制を構築。東芝独自のかまど本羽釜は市場から高い評価を得ている。また、掃除機では、日本の家屋に合った使いやすさを追求した工夫の数々が見逃せない。こうした東芝ならではの機能が今後も維持されることを期待したい。

 室町社長は、「家電事業は、収益性が悪かったため、新製品開発の資源投入が十分にできなかったという反省がある。だが今後は、美的集団による外部資金が導入されることに加え、美的集団が持つコンプレッサやエアコンの強みも生かすことで、新たな家電製品を市場に提供できるように進めていきたい」と期待を寄せる。「家電の東芝」と言われた名門が、中国資本のもとで、どう再生するのかが注目される。 

東芝の室町正志社長
東芝の室町正志社長
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