ネーミングの作業を放棄するのは無謀か

 まず前提として、消費財のマーケティングでネーミングは極めて重要なポイントです。例えば、居酒屋さんに行き、メニューを選んでいるとしましょう。そのときに目に入る「トマト」の名称が

(1)トマトスライス
(2)冷やしトマト(スライス)
(3)朝採れ冷やしトマト(スライス)

 だったとして、どれに一番魅力を感じるでしょうか。普通は(3)ですよね。「朝採れ」という3文字に新鮮さが表現されていて、同じトマトでもおいしそうに感じます。

 もう一つ事例を引きましょう。私が勤務する西友の親会社・ウォルマートでは値付けのプログラムがいくつかあるのですが、そのなかに「ロールバック」というものがあります。これは商品の価格を3カ月以上にわたって引き下げたままにするもので、“頑張って価格を下げる”という意気込みを表してロールバック(袖をまくる)と名付けられました。

 一方、西友では、ウォルマートの英国法人であるアズダ社のプログラムを参考に「プライスロック」というプログラムを展開しています。これは商品の価格を6カ月以上引き下げたままにするもので、期間こそ違いますが、考え方はロールバックと同じです。そして「価格を(鍵をかけて)固定する」という意味から、プライスロックと名付けられました。

 どうでしょうか、みなさん。「ロールバック」よりも「プライスロック」のほうがだいぶ分かりやすく感じませんか。このように、商品やサービスの名前はその存在だけでなく、ベネフィットまで覚えてもらううえで大変重要。そういう意味で、ネーミングは商品の売りのポイントを伝える最も有力な手段になるわけです。

 話題をマクドナルドに戻しましょう。

 マクドナルドの今回の施策は、この重要なネーミングの作業のコントロールを放棄し、顧客の手に委ねてしまおう、という一見非常に無謀なものに思われます。

 その無謀な感じが「凝った名前を付けてみよう」などという気持ちや「マクドナルドは本当に応募名から選ぶのだろうか」などという憶測を呼び、さまざまな文脈で大きなバズが生まれました。業績不振からなかなか復調できないでいるマクドナルドが久しぶりに(いい意味で)大きな話題を集めたわけで、まさにこのポイントが第一の目的だったのではないかと推察します。

 応募されたアイデアから選ばなければならないという制約はかなりのリスクに感じられますが、マクドナルドほどの規模の企業がこのような挑戦的なキャンペーンを行えば、少なくとも数十万件規模(実際には500万件強)の応募があることは予想できます。

 それだけの候補があれば、ベストかどうかはともかく、かなり良い案が相当数あるでしょう。そして、「かなり良い」ものから選ばなければいけないという制約があっても、この企画が生み出す話題の大きさやこの商品自体が期間限定であることを考えれば、十分におつりがくるという考え方だったのではないでしょうか。

 次に副次的な効果として、「消費者が名付けに関わることによる新メニューと消費者の関係性の強化」という点を指摘したいと思います。

 何かの名前を考えるときには程度の差こそあれ、対象物について深く考えることを伴います。そして「この名前にしよう」と決め、応募するところまで行動を起こせばその深さは相当なものになり、商品と応募者の間には「大きな関与」が生まれます。

 今回の施策の結果、この大きな関与を持った応募者が実に500万人に上りました。今のマクドナルドに必要なものが「顧客との絆の再強化」だと考えると、日本の人口の20~25人に一人が応募して名付けのプロセスに関わり、大なり小なりこの商品やブランドとの情緒的なつながりを築いたことは少なからぬ意味を持つと思います。