世界のオーガニック市場は拡大しており、トップを走る米国では売り上げ額3.2兆円を記録。韓国もオーガニック農産物の出荷量が年36%の割合で伸びている。一方、日本の市場規模は欧米より1ケタ小さく、約1300億円程度だ(農林水産省生産局農業環境対策課2016年2月発表資料「オーガニック・エコ農業の拡大に向けて」より)。
そんななか、イオンが2016年12月9日、フランス発オーガニックスーパー「ビオセボン(Bio c’ Bon)」の日本1号店をオープンした。ビオセボンはフランスを中心に欧州で100店舗以上を展開しているオーガニック専門の小型スーパーマーケットチェーン。日本の店舗はMarne&Finance Europe社とイオンの合弁会社「ビオセボン・ジャポン」が運営する。
施設内にはフランス生まれの冷凍食品専門店「ピカール」(関連記事「仏冷食専門店「ピカール」都心に、冷食革命の始まりか」)、地下1階には空中ヨガが体験できるスタジオ「avitystyle」、2階には「ウエルシア薬局」と、同じ建物内にグループ企業を集めた。
ビオセボンは2008年創業と、オーガニック専門スーパーとしてはまだ歴史が浅いものの、8年間で100店舗以上と急成長している。イオンが日本1号店を手がけたきっかけは、岡田元也社長がフランスを視察した際、ビオセボンを見て「日本でも歓迎される」と直感したことだという。「イオンは“健康や環境に配慮した商品が日常的に誰でも入手できる店”を目指しており、初心者やライトユーザーでも使いやすいオーガニック商品の展開もその一つ。まずはビオセボンのブランドを認知してもらう必要があるため、Bio(オーガニック)商品への関心が高く、情報発信力も高いエリアとして麻布十番を選んだ」(イオン広報担当者)。つまり、“オーガニック商品へのハードルを低くする”という方向性が一致したということだろう。
はたして、ビオセボンは同社の狙い通り、日本の消費者にとってハードルの低いオーガニック専門スーパーになっているのか。オープン前日の内覧会を取材し、さらにオープン後に実際に同店で買い物をして検証した。
野菜は自分で計量して、自分でラベルを貼る!?
ビオセボンがあるのは、ピーコックストア麻布十番店の跡地。店内に入ると、左手にフランス発の冷凍食品専門店「ピカール」、中央に青果売り場、右手にナッツやシリアルなどの専門コーナーがある。青果売り場の面積はかなり広く、野菜の種類も豊富。見ているだけでも楽しい。多くの青果はビニール包装されておらず値札も貼られていない。自分でデジタルスケールにのせて計量し、価格表示ラベルを貼りつけるシステムだ。少々面倒に感じるが、欧州では青果はこの売り方が一般的だという。「青果はバラ売りにすることで選別やパッキングのコストと時間をカットでき、より安く新鮮なものを店頭に並べられる。バラ売りのスタイルを定着させることが生産者と消費者双方のメリットとなり、オーガニックの青果の生産拡大につながる」(同店の青果売り場担当者)。
このシステムは入ってすぐ右手にあるドライフルーツ・シリアル売り場でも共通。「ナッツやドライフルーツも自分が欲しい量を測って購入できれば、高品質で鮮度の良いものが安く買える。完全にビニール包装をなくすことは難しいが、環境との共生のためにも紙製品の包装にしている」(同売り場担当者)。
店舗中央に大きな円形のデリカウンターを設けているのも特徴的。調理は別の場所で行い、店内で盛り付けなどを行って提供する。オーガニック食品になじみがない人にそのおいしさを知ってもらうためだという。さらにデリカウンターの近くには、ゆったりした大きなテーブルも。これは弁当文化が発達している日本の店舗用に設けたコーナーで、購入した商品をその場で食べられるように電子レンジも設置している。
施設内にあるフランス発の冷凍食品専門店ピカールは、1号店の表参道店より面積が広く、やや大きめのコンビニ店ほどの広さ。フランス国内の店舗とほぼ同じくらいだという。ちなみに日本1号店の青山骨董通り店で最も売れているのは、「食前のおつまみ 4種類のミニパイ」(680円)とのこと。弁当のおかず中心の日本の冷凍食品と違ってパーティー向けの華やかな冷凍食品が多く、これからのシーズン人気を集めそうだ。
野菜バラ売り用のデジタルスケールに混乱!? 豆腐を計量するお年寄りも
オープン2日後の夕方、同店を訪れてみた。週末で夕食前の時間帯ということもあるかもしれないが、予想以上のにぎわい。特に青果がよく売れているようで、売り場の棚には隙間が目立つものもいくつかあった。レジはフル稼働しているが、常に10人以上の行列ができている状態だった。
さっそく、野菜を購入。バラ売りのものは売り場に表示されている商品番号を打ち込まなければいけないので、種類が違うものを買う場合はスマホで撮影しておくと便利。操作は簡単で、野菜を紙袋に入れてからデジタルスケールに乗せると紙袋分の5gが引かれた重さが表示されるなど、細かい調整に感心した。
面白かったのは、筆者とスタッフのやりとりを横で見ていたお年寄りが後に続き、手に持っていたパック入りの豆腐の計量を始めたこと。スタッフが慌てて「バラ売りの野菜以外は必要ない」ことを説明。こうした多少の混乱はあったが、総じてどの客も特に抵抗なく、スムーズに使いこなしている印象。特に家族連れは、子どもが率先してやりたがる姿を多く目にした。楽しそうだったし、野菜の価格を意識することで食育にもなりそうだ。
オーガニックの農作物や商品のハードルの高さの理由は、なんといっても価格。だが同店で購入したトマトは大きめのものが3個で700円。同じ日にイオンのネットスーパーで大玉トマト1個の価格を確認したら198円だったので、品質からすると安いと感じた。ただ、デカフェのインスタントビオコーヒー(1250円)などかなり高めのものもあった。普通のスーパーよりは高級路線だが、同店のすぐ近くにある成城石井とほぼ同レベルではないだろうか。商品のラインアップもマニアックなものから日常使いしやすい調理ソースなどまで幅広く、選びやすい印象。原料や産地をいちいちチェックする手間が省けるのも良い点かもしれない。
今後の多店舗展開の可能性について、「オーガニック専門スーパーを継続するには生産者の協力が不可欠だが、日本ではまだ生産者が十分に育っていないのが現状。オーガニック製品がどこでも誰でも手に入るようになるためには、生産農家とビオセボンがともに育っていかなければならない。環境の安全性に関心が高まる子育て世代を中心に、『オーガニックは特別なものではない』ということを多くの人に知ってもらいたい」(広報担当者)という。ちなみに今回はピカールと同時出店したが、今後は必ずしもそうなるわけではないとのこと。
農林水産省の調査によると、オーガニック商品を購入している人は44%、条件がそろえば購入したいと答えている人は55%に上っている(農林水産省資料「オーガニック・エコ農業の拡大に向けて」から引用)。ビオセボンの展開が進めば、オーガニック市場に一気に火が付くかもしれない。
(文/桑原恵美子)