クラフトビールの愛好者は年々増加。だが日本でのシェアはまだビール市場全体の1%未満ともいわれている。そんななか、世界35カ国以上に出荷され、“世界で一番売れている日本のクラフトビール”といわれているのが、木内酒造(茨城県那珂市)が生産している「常陸野ネストビール」だ(関連記事「【New York】茨城の地ビール「常陸野ネスト」が全米で売れるワケ」)。
その木内酒造が2016年12月1日、JR東京駅「グランルーフ」2階のペデストリアンデッキに直営飲食店「常陸野ブルーイング・ラボ Tokyo Station」をオープンした。「世界に“これが日本のビールだ”と誇れるビールを造りたくてビール醸造を始めたので、当初から世界をターゲットにしていた。東京五輪が開催される2020年に向け、海外からの観光客の窓口でもある東京駅で国産クラフトビールの魅力をさらに世界に向けて発信していきたい」(同社)。
炭酸ガスで押し出さないビールが飲める
「常陸野ブルーイング・ラボ Tokyo Station」があるのは、東京駅の八重洲口中央改札前にあるグランルーフ ペデストリアンデッキの2階。2013年に開業した施設で、大丸東京店の入っているグラントウキョウノースタワーと、サウスタワーをつないでいる長さ234メートルの建物だ。1階には多くの飲食店が入っているが、エスカレーターで同店のある2階に上がると、広々としたルーフデッキがある。そのエスカレーターを降りた目の前にあるのが同店で、シンボルであるフクロウの大きな看板が目印だ。
敷地は細長い形で、店内は想像していたより狭い。入り口を入ってすぐにカウンターがあり、中央にハイチェア10席を配置した大きなテーブルとスタンディング用カウンター、奥にひとつだけソファ席がある。椅子の数は全体で18席、スタンディングスペースは10~12人程度だという。満席となると移動するのに声を掛け合わないとぶつかってしまう狭さだが、ガラス張りの店内からの見晴らしはとても良いので、思ったより閉塞感はない。
樽生ビールは14種類を用意。なかでも注目は、炭酸ガスを注入せずに抽出している2種類のエール(上面発酵で造られるビール)だ。「樽詰ビールは炭酸ガスで押し出すことによって注ぎ出されるが、このサーバーは圧力液体自体の重みで抽出する仕組み。炭酸ガスの爽快感は少ないが、ビールが発酵するときに発生する本来の炭酸が味わえる」(同店スタッフ)。
同店スタッフのいち押しは、同ブランドの顔ともいえる人気ナンバーワンの「ホワイトエール」。「オレンジピールやオレンジ果汁、コリアンダーなどのハーブが入っていて、苦みが少なくさわやかで飲みやすい」という。味わってみたが、苦味も酸味も控えめですっきりした味わい。柑橘類とハーブのほのかな香りが爽快感をアップさせていて、ビールが苦手な人にも好まれそう。日・英・独・米のコンテストで数々の金メダルを受賞しているそうで、初めてここのビールを味わう人にはホワイトエールをお薦めする。
生産量の約7割を海外に出荷
文政6年(1823年)から193年にわたって日本酒造りを続けてきた木内酒造が、常陸野ネストビールの醸造を始めたのは1996年。2000年にニューヨークで開催された「ワールド・ビア・カップ」で金賞を獲得したことで世界中に販路を広げ、現在では年間生産量の約7割を世界35カ国以上に輸出している。内覧会で味わえたのは数種類だったが、日本酒造りに欠かせない米麹を用いて醸造した「セゾン・ドゥ・ジャポン」、古代米「朝紫」を用いて仕込んだ薄紅色のライスエール「レッドライスエール」、日本古来のビール麦とホップを用いた「ニッポニア」など、味わってみたい個性的なビールがいくつもあった。日本にも、クラフトビール文化が確実に根付き始めているのを感じた。
(文/桑原恵美子)