東京駅前の一等地にもかかわらずこれまで目立つ商業施設がなかった京橋に、2016年11月25日、巨大施設「京橋エドグラン」がオープンした。中央区の文化財に指定され、保存再生されている「明治屋京橋ビル」と、新築の再開発ビルの2棟で構成されており、中央通りから見るとそのふたつが対になっている構造。商業エリアは再開発ビル低層部で、地下1階と1階、3階から6階に34店舗が出店している。
最も重視しているテーマが「食」だ。「土地や建物を所有して再開発計画を推進してきた関係者に、明治屋をはじめとした食物販や飲食に携わる人が多く、食への思いが非常に強かった。また約8000人規模のオフィスワーカーを収容するオフィス棟があることから、食を提供する機能の充実が必要と考えた」(日本土地建物 都市開発事業部 菅原創次長)。1階には広域から集客が可能で、女性客がわざわざ足を運ぶような知名度の高い人気店を集めた。一方、地下1階はオフィスワーカーが普段使いできる店として、カレーや餃子、ラーメンなどリーズナブルで短い時間に手軽に食べられる飲食店を中心に誘致。ただし一般的なチェーン業態ではなく、旬の味を楽しめる女性向けの店を集めたという。
というのも、同施設がターゲットとして特に重視しているのが女性客。「東京駅近辺でも丸の内方面には女性向けの飲食店が多いが、京橋方面はどちらかというと男性向けの店が多かった。本施設のオープンをきっかけに、これまで京橋に興味がなかった20代から40代の女性客にも足を運んでもらえるようにしたい」(菅原次長)。はたして狙いどおり、丸の内エリアに流れがちな女性客を京橋エリアに引き寄せるだけのパワーを持った施設になっているのか。オープン直前の内覧会で検証した。
集客の目玉は“割烹スタイルのヨロイヅカスイーツ”!?
集客の目玉となる店舗といえば、1階・2階の「トシ・ヨロイヅカ 東京」だろう。人気パティシエの鎧塚俊彦氏がプロデュースする店といえば、東武百貨店池袋店のレストランフロアにオープンしたダイニングレストラン「TOSHI STYLE」(関連記事「池袋東武レストランフロアが全面改装、人気パティシエがフルコースに挑戦!」)、キッシュ専門店「キッシュ・ヨロイヅカ」(関連記事「築地銀だことパティシエ・鎧塚氏が「キッシュ専門店」!?」)などがある。だがトシ・ヨロイヅカとしてはカフェ併設の業態は初であり、ここが旗艦店になるという。
まず驚かされたのが、その広さ。入口を入ると約3メートルのショーケースが続き、中央には仕上げ工程をプレゼンテーションするガラス張りのスペースも設けられている。その奥がパン売り場だが、鎧塚氏が神奈川県小田原市で運営する「一夜城Yoroizuka Farm」で人気のパンを都内で初めて提供するという。
カフェスペース横の階段から2階に上がると、スタイリッシュなカウンターバー風の空間。目の前でパティシエがデザートを仕上げてくれる“割烹スタイル”のデザートサロンだ。これだけぜいたくにヨロイヅカワールドを堪能できるのも驚きだが、店舗面積の約半分はキッチンと聞いてさらに驚いた。ショップやカフェスペースとほぼ同じ広さのキッチンがあるので、20~30種類というスイーツやパンが常に作り立てで提供できるのも強みだ。たしかにこの店だけでもかなりの集客効果がありそうだ。
その隣にある「タヴェルナ・ウオキン キョウバシ」は、居酒屋「魚金」「びすとろUOKIN」「イタリアンバルUOKIN」などを運営する魚金グループの39店舗目。初の商業施設出店で、同グループ初のランチ営業を行う。「野菜を中心としたヘルシーなイタリアンなので、京橋ワーカーの社食として使ってもらいたい」という。夜は立ち飲みコーナーで、新鮮な魚介を使ったタパスやドリンクを一律250円で提供(1000円のチケット制)。
中央通りに面して隣り合っているのが、京橋で代々続いている寿司店「京すし」と、築地の人気店「すぽーつ居酒屋おかだ」の兄弟店「立って呑むおかだ」。たしかに話題になりそうな店を集めた印象だ。
「ベジそば」のソラノイロが満を持してとんこつラーメンを提供
オフィスワーカー向けのフードエリアである地下1階の目玉となるのが、ミシュランガイドに2年連続で掲載されたラーメン店「ソラノイロ」の新業態「ソラノイロ トンコツ&キノコ」。ソラノイロは博多一風堂の2番弟子として11年間修行した宮崎千尋氏が、あえてとんこつを封印して野菜だけを使った「ベジそば」が人気。その宮崎氏がとんこつ味のベジそばを満を持して出すとあって、ラーメンマニアが殺到するのは必至。
店頭の巨大な牛のオブジェで目を引くのが、焼肉店「トラジ」の新業態「焼肉ビストロ 牛印」。「肉を食べたい気分でも、焼肉だとつい構えてしまいがち。そこで『焼肉ビストロ』という業態でカジュアルに肉料理を楽しんでもらいたいと考えた」(同店)。たしかにフレンチで人気のコンフィなど多彩な肉料理があり、女性ひとりでも肉料理が楽しめそうな雰囲気だ。また、餃子専門店「東京餃子楼」、カレーショップC&Cの新スタイル店「カレーショップC&C ダイニング」も、サイドメニューを増やした業態にして女性の集客を狙っている。
明治屋側の地下エリアには、明治屋が運営する店が3店ある。本格的なワインとフレンチを楽しみたい時も、構えず入れる「明治屋ワイン亭」(関連記事「ワインもおつまみも手ごろな“明治屋直営ワインバー”」)、昭和の初めから京橋で愛されてきた洋食レストラン「京橋モルチェ」、京橋駅に続く階段を降りたところにあるスタンディングバー「スナックモルチェ」だ。いずれも明治屋運営とあってフードやワインのクオリティーが高く、上品な雰囲気だ。
店舗よりも目立っている「観光情報センター」
地下1階で飲食店よりも目立っていたのが、「中央区観光情報センター」。観光情報提供の拠点となる施設で、中央に設置された大型ビジョン「中央区バーチャルマップOVERVIEW」では手元の操作で地図上を自由に巡回しながら、中央区の史跡や見どころを楽しめる。上空から見下ろしているような迫力のある画像で、これだけでも時間を忘れて楽しめそうだ。
また飲食店には人気店の新業態が多いが、物販店は長く京橋で営業してきた老舗店の旗艦店が多い。掛け軸の表装などを扱う問屋として1923年京橋に創業した「トミタ」のショールーム、1887年京橋に本店を構えた眼鏡店「金鳳堂」の旗艦店などが並び、職人の街としての京橋の歴史の重みを感じた。こうしたハードルの高い店を路面に配置しているのも、丸の内エリアとは異なる“京橋ブランド”構築が狙いなのだろう。
また地下1階の通路の広さも印象的。幅14メートルというから、通常の2倍はある。正直、この通路分を店舗にしたほうが売り上げに直結するのではと思ったが、これは各店がテラス席を設けられるようにという狙いだという。たしかにテラス席を設けている店が多く、それによって地下にもかかわらず、街のようなつながりが感じられる空間になっていた。
(文/桑原恵美子)