東京随一のおしゃれスポット・中目黒の高架下に全長700メートルの商業エリア――。2016年11月22日、「中目黒高架下」がオープンした。
東京急行電鉄(以下、東急電鉄)では2008年からの高架橋耐震工事と並行し、東横線・東京メトロ副都心線相互直通運転のためのホーム延伸工事を実施してきた。同時に、その工事によってできる高架下の空間を有効活用する開発も進め、都立大学駅高架下や武蔵小杉駅南口高架下に複数の店舗を出店させている。だが今回オープンの中目黒高架下は、それまでの開発とはスケールが違う。中目黒駅周辺の高架下空間約700メートルにわたって28の路面店(スモールオフィス含む)が線状に出店しているのだ。
路面店の配置はエリアによって特色をもたせている。例えば、中目黒商店街がある祐天寺方面エリアには商店街とうまく融合する庶民的な店、中目黒のオシャレなイメージをけん引している目黒川沿いには高級感のある店をそろえる、といった具合。「中目黒は独特の個性を持った街なので、街の個性を理解して生かせる店舗であることを重視して誘致した。幸い、出店の希望も非常に多かったため、ベストな形にできたと思う」(東急電鉄 都市創造本部 運営事業部 営業三部 事業推進課 杉本里奈課長補佐)。
中目黒高架下というネーミングは、耐震補強工事以前も飲食店が立ち並び、高架下文化をけん引していたかつての中目黒の高架下に敬意を込めてつけられたという。開発コンセプトは「シェア」、デザインコンセプトは「ルーフ・シェアリング」。全長約700メートルにわたる高架橋をひとつの屋根に見立て、個性あるさまざまな店舗が空間をシェアする新しい商店街づくりを目指すという。
28店舗のうち半分の14店舗が新業態で、関東・東京初出店が2店。中目黒にゆかりの深い飲食店も多いという中目黒高架下とは、いったいどんな施設なのか。オープン前日の内覧会で検証した。
ベーカリー×ワイン店など、“異業態シェア”が特徴
まずは中目黒駅を出てすぐの祐天寺方面エリアを見てみよう。最初に目に入るのは、ベーカリーカフェ&バー「THE CITY BAKERY(ザ シティ ベーカリー)」。新業態ではないが、隣接するワイン&チーズ専門店「ヴィノスやまざき」とフロアをシェアしており、「ヴィノスやまざき」で購入したワインを持ち込んで飲むこともできるという。この“異業態シェア”システムは他の店にもあり、居酒屋「NODOGUROYA KAKIEMON(ノドグロヤ カキエモン)」は個室の小窓が隣接する同系列の立ち食い焼き肉店「治郎丸」とつながっていて、注文もできる。
地方の人気店の初出店も2店ある。九州で人気のうどん居酒屋「二○加屋長介(ニワカヤチョウスケ)」は、「ビルズ」「ドミニクアンセルベーカリー」など海外人気店を展開するトランジットジェネラルオフィスが関東に初出店させた店。名古屋で人気の「鶏だしおでん さもん」も関東初出店だ。さらにつけ麺・ラーメン店「鶏魚介VS鶏白湯 武双」、寿司店「寿司の磯松」、立ち食い焼き肉店「治郎丸」があり、食べたいものが決まらないまま訪れても安心なラインアップだと感じた。また女性1人でも入りやすく、ちょい飲みではしごができそうな店が多いのもうれしい。
有名人のラブレターを読まされる!? 斬新すぎる店も
中目黒駅正面出口を出て山手通りを渡ると、ガラリと雰囲気が変わる。蔦屋書店、スターバックスが路面にあり、奥に進むと、シャンパンで楽しむフレンチトーストの店「LONCAFE STAND NAKAMEGURO(ロンカフェ スタンド ナカメグロ)」などがあり、その裏手にはオールデイダイニング「GOOD BARBEQUE(グッド・バーベキュー)」がある。「GOOD BARBEQUE」は168席とゆったりした広さがあり、豪華な雰囲気。立ち席や小規模店舗が多かった祐天寺方面エリアと明らかにコンセプトが違うエリアであることがはっきり分かる。
目黒川を越えると、最も代官山方面寄りにある窯焼き料理とワインの専門店「PAVILION(パビリオン)」がある。“LOVEとARTがテーマのレストラン”だそうで、とにかくおしゃれな仕掛けが山ほどある。
なかでも注目なのが、専用コイン「ロマン」でしか注文できないメニュー。「リトルシャンパンタワー」「一束の小さな小さなブーケ」「カタのタタキ(別途指名料あり)」など、ユニークなメニューが並ぶ。偉人の書いたラブレターを男性が女性に対して読み上げる「男は恥ずかしく女は嬉しい読みもの」というサービスや、顔の部分だけが隠れる個室「懺悔(ざんげ)室」などもあり、“アーティスティックでおしゃれな街”中目黒のイメージを象徴するような店だった。
ターゲットは“潜在的中目黒ファン”?
同施設のターゲットは中目黒の在住者やワーカーだけでなく、中目黒ファンになる可能性を潜在的に持っている層も呼び込むのが狙いだという。「中目黒は面白そうだから行ってみたいけど、分かりやすいポイントがなくて行きづらいと思っていた人も多い。駅から近くて分かりやすいこの施設をきっかけに、さらに広範囲に足を伸ばしてもらえれば」(杉本課長補佐)という。
中目黒のガード下、特に祐天寺方面エリアには昔から“知る人ぞ知る”隠れた名店が多かった。それらがいっせいに入れ替わってしまったのは少し寂しいと感じていたが、パワーを感じさせる面白い店が多かった。中目黒らしさを感じさせる店が多いのは、中目黒で事業をスタートしたMUGENや本社が中目黒にあるスマイルズなど、中目黒ゆかりの企業が多いことも関係しているのかもしれない。どの店も専門性の高さを売りにしているところも、今の食トレンドを反映していると感じた。
(文/桑原恵美子)