上野の新たなランドマークとなる複合商業施設「上野フロンティアタワー」が2017年11月4日に開業した(関連記事:「上野にJフロント×パルコの新施設、その中身は?」)。地下1階から10階までは商業ゾーンで、特に注目なのが1~6階に入るパルコの新業態「PARCO_ya(パルコヤ)」だ。
「上野フロンティアタワーはさまざまな目的を持つ人が集まる複合ビル。これまでのパルコよりも間口を広げ、大人世代のニーズにも対応でき、上野というエリア性を考慮した店作りが必要だと考えた」とPARCO_yaの小林昭夫店長は話す。長く支持されているブランドを中心に、大人の支持が期待できるショップ68店舗を厳選したという。約8割にあたる52店舗は上野御徒町エリア初登場だ。また、地元に縁が深い企業やブランドも11店舗出店している。いったいどんな店が集まったのか。
予約が取れない日本料理店の新業態が出店
1階には“東京で最も予約を取るのが困難”といわれる、芝公園の日本料理店「くろぎ」の新業態店「廚 otona くろぎ」(以下、otona くろぎ)が出店。
くろぎは2017年3月に移転するまで上野に近い湯島で10年間営業し、「ミシュランガイド東京」で星も獲得している日本料理店だ。otona くろぎの営業時間は7~26時で、時間帯によって、コーヒーや甘味、弁当、日本酒などを多彩なスタイルで提供する。建築家・隈研吾氏の設計による内装にも注目したい。
上野の歴史を感じさせるグルメが6階に結集
1階にあるのが上野の街に新風を吹き込むスタイリッシュな店なら、6階のレストラン街「口福回廊(こうふくかいろう)」は上野の歴史を凝縮したような店が立ち並ぶ。明治25(1892)年創業の地元の老舗有名店「上野藪そば」が新業態「うえの やぶそば」を出店し、焼肉の街・上野で長年営業する「上野 焼肉 陽山道」が初のビルイン出店。また、上野が“北への玄関口”として栄えてきた歴史を感じさせる飲食店として「北海道 くろまる」「金沢まいもん寿司」など北海道や北陸の有名店も出店している。
うえの やぶそばでは本店の味を守りつつ、「国内のそばの生産に貢献したい」との思いから、国内産そば粉を使用したガレットを提供。見た目は普通のガレットなのに、食べると日本そばのような香りに驚いた。
金沢を中心に全国展開している「金沢まいもん寿司」は、回転すし業態としては都内初出店。のど黒や白えび、甘エビより甘いといわれ都内にはほとんど出回らないといわれる珍しい「がすえび」など、北陸ならではのネタが豊富だ。創業60年で、上野に3店舗を展開している焼肉店「上野 焼肉 陽山道」はオフィスワーカーや女性向けに弁当や定食に注力。最高級ランクのA5黒毛和牛がたっぷり乗った「和牛カルビ弁当」が1000円と、信じられないコスパの良さ。ランチタイム限定だが、競争率が高そうだ。口福回廊の営業時間は11~23時(一部店舗により異なる)。
職人の街・上野のカラーを出したテナント
ものづくり文化の息づく上野には、世界に誇る日本ブランドが多数ある。革製のバッグなどを扱うブランド「マザーハウス」は、「途上国から世界に通用するブランドをつくる」という理念の下、バングラデシュの自社工場で作るバッグを始め、ネパールでストール、スリランカやインドネシアでのアクセサリーを生産、展開している。
また、創業者が上野で修行したという「吉田カバン」の専門店「KURA CHIKA by PORTER(クラチカ バイ ポーター)」、アメ横で創業し、現在は全国に出店する帽子専門店「「CA4LA(カシラ)」など、上野からスタートし、職人の技に新しいセンスを吹き込むことで全国展開しているブランドも多いことを改めて知った。
一巡して感じたのは、「脱・パルコ戦略」。既存のパルコは都心の繁華街にあり、トレンド重視で、エリアのカラーは希薄だった。だが同館では上野カラーをあえて前面に出し、ポリシーやストーリーを感じさせるブランドを集めることで、パルコ既存店よりも幅広い層の顧客をつかむ戦略なのだろう。レストランも全体シェアの約2割と最近の商業施設としては少なめだが、意欲的な店が多いと感じた。また、上野というだけあって、いたるところにパンダグッズも。どこにあるのか探すのも一興だろう。
(文/桑原恵美子)