2017年9月7日、京都市東山の祇園・八坂通りに、三井不動産グループが手がける新ホテルブランドの1号店「ホテル ザ セレスティン京都祇園」が開業した。祇園・花見小路や清水寺、八坂神社など京都観光に欠かせない名所、名刹が徒歩圏内という絶好のロケーション。しかも、繁華街の喧騒とは別世界の、閑静で風情あふれる景観が、魅力のひとつになっている。

 同社はこれまでアッパーミドルクラスの「三井ガーデンホテル」を全国で展開。最近では、東京大手町の再開発プロジェクトでラグジュアリーホテル「フォーシーズンズホテル」を誘致している。京都市内には既存ブランドですでに3ホテルを運営。今回開業した「ホテル ザ セレスティン」はアッパーミドルとラグジュアリーの中間にあたるハイクラスに位置付けられるという。

 新ブランドでの出店となった理由について、同社ホテル・リゾート本部ホテル事業部事業グループの小田祐グループ長は、訪日外国人の顧客ニーズが多様化していることを挙げる。

 「アジアからだけでなく、欧米からの旅行者も増えつつある。また、個人客が再来日で地方を訪れるようになり、旅の目的も変化している。こうした多様化するニーズに対応するため、幅広いカテゴリーの宿泊施設が必要になってきた。宿泊主体型でありながらリゾート型ホテルのような、滞在そのものが旅の目的になるディスティネーションホテルを目指している」

 主なターゲットは、訪日外国人と国内のアクティブシニア、女性同士の旅行客などで、滞在の目的や体験を重視する層。「地域を象徴するロケーションにふさわしい上質なデザインとその土地ならではの滞在体験」「我が家のようにくつろげる心地よい規模のプライベート空間」「心配りの効いたさりげないおもてなし」の提供をコンセプトに掲げる。

 例えば、ロビーのソファーに座ってチェックインを行い、スタッフ名が書かれた手書きのメッセージカードを手渡す。さらに、チェックインから部屋までの案内と誘導を1人のスタッフが対応するなど、顔の見える細やかなサービスを特徴としている。

京都・祇園に開業した「ホテル ザ セレスティン」の1号店。「東山悠遠の邸」を開発コンセプトに、外観は伝統的な入母屋屋根と現代建築を調和させたデザインに。ホテルまでは京都市バス清水道より徒歩約5分、京阪電車祇園四条駅より徒歩約10分、JR京都駅八条口より無料シャトルバスで約20分
京都・祇園に開業した「ホテル ザ セレスティン」の1号店。「東山悠遠の邸」を開発コンセプトに、外観は伝統的な入母屋屋根と現代建築を調和させたデザインに。ホテルまでは京都市バス清水道より徒歩約5分、京阪電車祇園四条駅より徒歩約10分、JR京都駅八条口より無料シャトルバスで約20分
エントランスには、湖を感じさせる三木瑛子作銅板アート「水の鉢」を設置。旅館のように、着物を着たスタッフが客を出迎える
エントランスには、湖を感じさせる三木瑛子作銅板アート「水の鉢」を設置。旅館のように、着物を着たスタッフが客を出迎える
高さ約6mの吹き抜け空間が広がる地下1階のロビーラウンジ。花器のアートや枯山水をモチーフにしたオブジェ、立体アートパネルなどを配置。正面の大きな窓には竹林の緑が映し出され、柔らかな光が差し込む
高さ約6mの吹き抜け空間が広がる地下1階のロビーラウンジ。花器のアートや枯山水をモチーフにしたオブジェ、立体アートパネルなどを配置。正面の大きな窓には竹林の緑が映し出され、柔らかな光が差し込む
客室に囲まれた庭園は東山の「山中の庭」をテーマとし、四季の変化を体感できる。枯山水の様式を取り入れ、砂利で山の中を流れる渓流を表現
客室に囲まれた庭園は東山の「山中の庭」をテーマとし、四季の変化を体感できる。枯山水の様式を取り入れ、砂利で山の中を流れる渓流を表現
目の前には国宝を有する京都最古の禅寺である建仁寺があり、通りには有名な料理店が軒を連ねる
目の前には国宝を有する京都最古の禅寺である建仁寺があり、通りには有名な料理店が軒を連ねる
京都のなかでも古都の風情が色濃く残り、自然と名所に囲まれた東山・八坂通。京都市の祇園町南歴史的景観保全修景地区に指定されている
京都のなかでも古都の風情が色濃く残り、自然と名所に囲まれた東山・八坂通。京都市の祇園町南歴史的景観保全修景地区に指定されている

客室で靴を脱いでくつろげる、旅館のようなホテル

 ホテル ザ セレスティン京都祇園は、地下1階から地上5階までの6フロア構成。フロントのある地下1階のロビーには高さ約6メートルの大きな吹き抜け空間が広がり、同じフロアには大浴場とレストランがある。客室は1~5階で、ツインベッドルームを中心に全157室。インテリアは、日本の伝統様式や京都の歴史と風景を現代風に解釈したデザインを採用。旅館のように、靴を脱いでくつろげるスタイルを全室に採用したのも大きな特徴だ。

 なかでも注目は、テーマに沿ったインテリア空間と特別なサービスを体験できるコンセプトルーム。部屋の広さは60平米以上あり、八坂通りの建仁寺を望む「セレスティンデラックス八坂」と、東山を一望できる「セレスティンデラックス東山」の2タイプを用意した。ティールームをテーマにした前者では、京都の老舗日本茶専門店「一保堂茶舗」で専門知識を学んだスタッフが茶を振る舞うという。客室には豊富な種類の茶葉が用意され、好みの一品を選べる。

 一方、「京の気韻」をテーマにした後者は障子のモチーフや畳、行灯(あんどん)の灯りといった京都らしい風情のあるしつらえが印象的だ。窓に面した文机には、オリジナルの葉書と毛筆を用意。東山を望みながらゆっくり手紙をしたためたり、広いドレッシングルームで着物の着付けをしたりできる。また、コンセプトルームだけに置かれた特別な花器やアート作品も、京都滞在をいっそう盛り上げてくれそうだ。

 気になる宿泊料金は平均3万~3万5000円に設定しているとのこと。例えば、10月の空室状況を見ると、120室あるスーペリアツインで大人1人2万2950円~4万5890円、スーペリアダブル、コンフォートダブルで同2万2540円~(ただし9月末時点でほぼ満室)、セレスティンデラックス八坂・東山は同7万7810円となっている。

2室しかないコンセプトルーム「セレスティンデラックス八坂」は「ティールーム」をテーマとし、祇園ならではのおもてなしスタイルを体感できる。ベッドルームとリビングルームは独立タイプ
2室しかないコンセプトルーム「セレスティンデラックス八坂」は「ティールーム」をテーマとし、祇園ならではのおもてなしスタイルを体感できる。ベッドルームとリビングルームは独立タイプ
約64~66平米とホテル内で最も広いコンセプトルーム「セレスティンデラックス東山」。ベッドはサータ社の最上級ラインを採用
約64~66平米とホテル内で最も広いコンセプトルーム「セレスティンデラックス東山」。ベッドはサータ社の最上級ラインを採用
「京の気韻」がテーマの「セレスティンデラックス東山」は障子のモチーフや畳、行灯(あんどん)など京都の風情を満喫できるしつらえ
「京の気韻」がテーマの「セレスティンデラックス東山」は障子のモチーフや畳、行灯(あんどん)など京都の風情を満喫できるしつらえ
窓からは東山を一望できる(セレスティンデラックス東山)
窓からは東山を一望できる(セレスティンデラックス東山)
1917年創業の西川貞三郎商店がプロデュースした清水焼の茶器や珈琲碗は全客室に用意されている
1917年創業の西川貞三郎商店がプロデュースした清水焼の茶器や珈琲碗は全客室に用意されている
セレスティンデラックス東山に備えられたホテルオリジナルの葉書と毛筆セット
セレスティンデラックス東山に備えられたホテルオリジナルの葉書と毛筆セット
総客室数はツインベッドルームを中心に157室。120室と最も多いスーペリアツインは約30~35 平米の広さ
総客室数はツインベッドルームを中心に157室。120室と最も多いスーペリアツインは約30~35 平米の広さ
約43平米とツインのなかでは最も広い「セレスティンツイン」は3室のみ
約43平米とツインのなかでは最も広い「セレスティンツイン」は3室のみ
アメニティはフランス発祥で茶道をテーマにした「THEMAE(テマエ)」のシャンプー、コンディショナー、ボディ ウォッシュ、ソープ、ボディローションがそろう
アメニティはフランス発祥で茶道をテーマにした「THEMAE(テマエ)」のシャンプー、コンディショナー、ボディ ウォッシュ、ソープ、ボディローションがそろう

八坂通りの老舗料理店が新店で朝食に挑戦

 高級旅館のような風情とサービスを提供する同ホテルには、都市型高級ホテルではあまり見かけない無料の大浴場が設置されているのも特徴のひとつ。浴槽に面して坪庭が設けられており、露天風呂感覚でバスタイムを楽しめる。

 さらに、茶室に見立てた1階の宿泊者専用ラウンジでは、無料のドリンクサービスを提供。室内には京都関連の書籍や一筆箋をそろえているほか、折り紙や紋切り遊びなど日本文化に触れることができ、外国人観光客にも喜ばれそうだ。ラウンジは、夜になると「バー近江栄」として営業し、宿泊客でなくても利用できる。

 祇園の奥座敷ともいわれ、閑静で風情あふれる八坂通りには、かつて東山界隈に別荘を所有していた各界の名士が訪れる老舗料理店が軒を連ねる。そのひとつ、天ぷらの名店「八坂圓堂」は1910年に「お茶屋近江栄」として創業。1991年からは京風天ぷらを中心とした日本料理店を開業したが、その新店が、ホテル内に出店した。

 数寄屋造りと現代建築が調和した店内には、花街ならではの演舞台も設置。米国のビバリーヒルズ店で好評の京都牛の天ぷらバーガーなど、「京都の朝」をテーマにしたビュッフェスタイルの朝食や、オリジナルのコース料理が味わえる。

 同ホテルは“セカンドハウスのようなプライベート空間”をうたっているだけに、ブライダル施設やバンケットは備えていない。また、京都市内に近年開業した外資系ラグジュアリーホテルに比べると、コンセプトルーム以外の客室はやや小ぶりだ。とはいえ、無料の大浴場や靴を脱ぐスタイルなど、日本のホテルだからこそ重視したもてなしのサービスを体験できることを考えれば、お得感がある価格設定だといえるだろう。

ロビーフロアの地下1階には宿泊者が無料で利用できる大浴場がある。暗く落ち着いた空間に浮かぶ坪庭が幻想的
ロビーフロアの地下1階には宿泊者が無料で利用できる大浴場がある。暗く落ち着いた空間に浮かぶ坪庭が幻想的
和紙職人や木工作家のアート作品が印象的な宿泊者専用ラウンジ。昼は無料でドリンクをサービス。19時以降は、宿泊客以外も利用できる「BAR 近江栄」に変わる
和紙職人や木工作家のアート作品が印象的な宿泊者専用ラウンジ。昼は無料でドリンクをサービス。19時以降は、宿泊客以外も利用できる「BAR 近江栄」に変わる
ゲストラウンジには京都関連の書物や折り紙なども用意
ゲストラウンジには京都関連の書物や折り紙なども用意
お茶屋だった先代から約100年にわたり祇園で愛され続けている天ぷらの名店「八坂圓堂」が出店
お茶屋だった先代から約100年にわたり祇園で愛され続けている天ぷらの名店「八坂圓堂」が出店
祇園花街の舞台をモチーフにしたレストラン「八坂圓堂」の店内。京都の朝をテーマにしたビュッフェスタイルの朝食や京懐石コースを味わえる
祇園花街の舞台をモチーフにしたレストラン「八坂圓堂」の店内。京都の朝をテーマにしたビュッフェスタイルの朝食や京懐石コースを味わえる
天ぷらや寿司を味わえる板前カウンターも設置
天ぷらや寿司を味わえる板前カウンターも設置

(文/橋長初代)

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