大手企業のオフィスビルは多いものの、目立つ飲食・娯楽施設が少なく、近辺のオフィスワーカー以外にはなじみが薄かった品川エリア。しかし、リニアモーターカー「東京都ターミナル駅」や山手線新駅の誕生、国際戦略総合特区「アジアヘッドクォーター特区」に指定されるなど、国内外企業の注目が高まりつつあり、新商業施設も増えてきている(関連記事:注目の品川エリアが“アスリートの街”に!? 広大な緑地がウリの「品川シーズンテラス」)。
そんな品川エリアに2016年7月15日、同エリア最大級となるニューヨークスタイルのフードコート「シナガワ ダイニングテラス(SHINAGAWA DINING TERRACE)」がオープンした。場所は品川駅高輪口目の前にあるシナガワグース2階。ワンフロアにカジュアルダイニング、食のセレクトショップ、コーヒースタンド、ステーキハウスの4つの要素をもつショップが集まり、自由なスタイルで利用できるという。運営するのは、全国22店舗でレストランの運営・プロデュースを手がけるポジティブドリームパーソンズ(東京都渋谷区)。
「シナガワグースの上階にはホテルがあり、成田・羽田空港を利用した国際色豊かな観光客が集まっている。また新幹線を利用して上京してきたビジネスパーソンや、港南口周辺のビルに勤めるオフィスワーカー、白金など近隣に暮らす主婦層など、多様な人々も集う。そうした多様な属性を持つ人々が、自由なスタイル食を楽しめる空間を提供する、コンプレックスダイニングが必要だと考えた」(同社)
フードコートといえば、異なる企業が運営する多様な飲食店を集めているのが一般的なイメージ。1社だけで運営している同施設で、そうした多様性が出せるのか。また飲食スポットとしては地味なイメージのある品川エリアで、どのような戦略で集客していくのか。
グランピング気分に浸れる空間に五段重ねピザ、肉刺しカクテル!?
同施設が入る「シナガワグース」は、品川駅高輪口の目の前。ホテル「京急EXイン 品川駅前」を中心とした複合施設だ。日本を代表する企業のオフィスビルが立ち並ぶ港南口の反対側で、宿泊客以外の人の流れは多いとはいえない。
シナガワ ダイニングテラス内に足を踏み入れてまず驚いたのが、品川駅から徒歩3分の屋内と思えない開放感。892平米(延べ床面積)という広さを生かし、国内最大級という長いカウンターを中心に、キャンプチェアやハンモックが並び、ちょっとしたグランピング気分。
さらにナッツやドライフルーツ、スイーツなどの量り売りスタンドや、スイーツ、アイスキャンディーを販売するスタンドがあるのも、従来のフードコートとひと味違う。これは穴場的おしゃれスポットかもしれない、とワクワクしていたところ、提供される料理を見て仰天した。
最も人目を引いていたのが、ピザ&タパス チーボの、ホールケーキのような5段重ねピザ(夏野菜とシャルキュトリーのミルフィーユピザ)。その隣には、生野菜が山盛りになった「三浦野菜のバーニャカウダピザ」があり、こちらは野菜をプレーンなピザ生地でくるんで食べるものだそうだ。ピザの概念が覆されそうな料理だが、パーティーでは盛り上がりそうだ。
ステーキハウス「カジュアルステーキハウス リブ」で最も驚いたのは、串に刺したグリルビーフを添えたカクテル。「ウォッカをトマトジュースで割ったブラッディメアリーがもともと肉と相性が良いことから思いついた」(同店)。トウモロコシを軸ごとグリルし、チリパウダー、粉チーズなどで風味をつけた「グリルドコーン」も肉との相性が良く、ニューヨークで人気のメニューとのこと。
フードコートではなく、食の新トレンドが見つかる「フードマーケット」!?
それにしてもなぜ今、ニューヨークでこうしたフードコート業態のレストランに人気が集まっているのか。
同社によると、最大の理由は、ニューヨークの地価の値上がり。1店舗だと土地代が高すぎるため、共同で出店するケースが増えているのだという。だからチェーン店が集まった郊外型のフードコートと違い、洗練された雰囲気で本気度の高いフードを、カジュアルな価格で気取らず楽しめる店の集合となっているのだそうだ。新たな食のトレンドを発信する食のテーマパーク的な雰囲気になるため、フードコートではなく「フードホールマーケット」と呼ばれているとのこと。
“ニューヨークスタイルのフードコート”といえば、思い出されるのが2015年4月29日「ラフォーレ原宿」にオープンした「GOOD MEAL MARKET」(関連記事:原宿に“プレミアムフードコート”出現!? 新感覚メキシカン、高級フレンチフライの行列店も)。しかし品川の場合、原宿と違って飲食のトレンドスポットという印象は薄い。いかにもSNS映えしそうなグランピングをイメージさせる空間、インパクトのあるビジュアルのフードなどの演出は、認知度を高めるための戦略なのだろう。
ただ「ステーキハウス」「ピザ&タパス」と業態は違っても、同じ会社の運営とあって、やはり似た系統の料理になっている気がした。また、ピザ&タパス チーボは一品料理をオーダーする場合はスタッフが席まで案内してオーダーを取るフルサービス形式、ドリンクやデリのみの利用の場合はセルフサービス形式と、1店で異なるサービス形式になるとのこと。利用者が慣れれば問題ないだろうが、最初は少々、混乱があるかもしれない。
意外に掘り出し物の宝庫だったのが、食のセレクトショップ「カンドウニッポン リアルストア」。水だけで作れるグルテンフリーのパンケーキミックス、軸ごと食べられるポップコーンなど、ここに寄るために品川に来る価値があると思える品ぞろえだった。
(文/桑原恵美子)