近年のはしご酒ブームで、昭和の雰囲気を感じさせる「横丁」人気が再燃。カジュアルな価格と雰囲気の飲食店が集合した“ネオ横丁”が全国的に数多くオープンしている。そんななか、2017年7月14日、秋葉原駅高架下に「TOKYO UMAI YOKOCHO(東京うまい横丁)」(以下、うま横)が10月31日までの期間限定でオープンした。運営は「肉フェス」などのイベントを手がけるAATJ(東京都港区) で、「日本初の毎月テーマと店舗が変わる横丁」(同社)だという。
7月のテーマは「餃子」、8月は「肉」で、2 大フードフェスと呼ばれる「餃子フェス」と「肉フェス」がそれぞれプロデュース。「アットホームな雰囲気が魅力の“横丁”は、女性や外国人観光客にも人気。また肉食女子も増加しており、肉フェスや餃子フェスでも約6割は女性客という状況。『うま横』は、ガッツリ食べたい肉食女子と、和気あいあいの雰囲気で飲みたい横丁女子の両者の心を掴むスタイルであり、清潔感のある空間を重視して作り上げているので、女性や、横丁初心者の方にも楽しんでいただけるのでは」(AATJマーケティング本部の福澤佑美氏)。
テーマが毎月変わる進化系横丁「うま横」とは、いったいどんなところなのか。オープン直前の内覧会に足を運んだ。
近江牛を食べるための餃子、“肉の爆弾”餃子!?
うま横があるのは、秋葉原駅の電気街口を出た高架下沿い。AKB48 劇場、全国の物産を集めた商業施設「CHABARA ちゃばら」を通り過ぎて少し歩くと、高架下にキッチンカーが見えてくる。秋葉原駅寄りのエリアに8店舗のキッチンカーが並び、奥の末広町方面に3か所のドリンク売り場がある。ここでまず飲み物を購入してから各店舗をチェックすると効率的だろう。
「せっかく来たからには、8店舗の餃子すべてを制覇したい」と意気込みつつも、「味の違いが分かるだろうか」「途中で飽きて、食べるのが嫌になるのでは」という不安もあった。だが全種類食べてみると、8店中4店は「肉巻き餃子」「水餃子」「えび餃子」「羽根つき焼き小籠包」という変わり餃子で、スタンダードな餃子もそれぞれに個性が強く、違いは明らか。餃子好きなら、食べ飽きることなく全種類を制覇できそうだ。
特に印象に残っているのが、「近江牛餃子 牛とんぽう」(近江牛餃子 包王)。近江牛の味わいが強烈で、餃子というよりは肉料理を食べているよう。サイズにも驚いた。聞けば最初は通常のサイズで作ったが、それだと近江牛の味わいが伝わりにくかったので、思い切って大きなサイズにしたそうだ。「近江牛のおいしさを知ってほしいので、餃子1個に近江牛を使ったあんを40gも入れており、原価が高くて大変」とのこと。「サッポロマルエス食堂」の「肉の爆弾 肉巻き餃子」は餃子を巻いた豚バラ肉が非常に柔らかく、肉と餃子の一体感に面白さを感じた。
「四川香る!旨辛チリソース水餃子」(新宿駆け込み餃子)や「羽根つき焼小籠包」(羽根つき焼小籠包 鼎’s(Din’s))など、たれに工夫がある餃子のおいしさも印象に残った。特に「羽根つき焼小籠包」はさっぱりした酢味噌ダレが肉汁とからみ、夏向きの味。辛みを極力抑えた香港ラー油が、酢味噌の爽やかさを生かしている。「えび餃子 秘伝九条ネギラー油かけ」(西麻布 炙り家 縁)も、「秘伝九条ネギラー油」のインパクトが強烈だった。
だが同横丁には、餃子以外にもうひとつの目玉がある。それが“餃子屋がつくる本気飯(めし)”だという。いったいどんなものなのか。
裏テーマは“餃子屋が作る本気飯”!?
同横丁では、メインのテーマに付随したご飯モノにも力を入れていて、ここでしか食べられないオリジナルメニューも多い。餃子のあんを炊き込んだご飯「わらしべ餃子飯(餃子の炊き込みご飯)」(WARASHIBE GYOZA)、低温調理のローストビーフが山のように乗った「メガローストビーフのガーリック炒飯」(新宿駆け込み餃子)、特製パクチー醤油の隠し味を利かせた「イベリコ焼豚入りパクチーマヨチャーハン」など、ご飯もの好きな男性には餃子よりも受けそうなメニューが並んでいる。ご飯ものはおしなべてボリュームが多いため、餃子は2~3店に絞り、オリジナルのご飯ものを攻めるという作戦もアリだろう。
ちなみに8月のご飯モノのテーマは「肉屋が作る本気のカレー」。肉よりもむしろカレーのほうに人気が集まるのではないか。
”移動式横丁”として各地での開催も視野に
今回のテーマに参加した8店は、過去に計3回開催された餃子フェス参加店の中で、特に人気の高かった店舗を中心に参加を呼びかけたという。「飲食店は今空前の人手不足なので、人気店に2週間もスタッフを配置してもらうことが一番大変だった。餃子フェスで築いた信頼関係があったので実現できた」(同社)とのこと。
同スペースの賃借期限は10月末までだが、その後は”移動式横丁”として各地での開催を視野に入れているという。つまり同横丁は「うま横」ブランドの1店舗目というわけだ。店名に「東京」と入っているが、東京の店舗に限定しているわけではない。海外展開も視野に入れているため「東京」という分かりやすい地名を入れたのだという。
「和牛や寿司、餃子などの、日本が誇る”おいしいもの”と”日本の食文化”を世界へ発信していくことがコンセプト。年々増加する来日外国人に向け、日本の食そのものはもちろん、日本の食文化のひとつである“横丁”も楽しめる空間を提供したい」(福澤氏)。
高架下といえば、中目黒高架下の全長700メートルの商業エリア「中目黒高架下」、新宿駅の甲州街道高架下のカフェ&クリエイティブスペース「サナギ 新宿」など、乗降客の多い駅の高架下のスペースを利用した新商業施設のオープンも2016年に相次いだ(関連記事:「“超個性派店”がゆるやかにつながる「中目黒高架下」」、「新宿駅高架下に“驚きのアート空間×アジア風屋台村” 」)。
「ガード下」「横丁」といった昭和カルチャーを取り入れた飲食店がこれだけ増えてくると、陳腐化が進むのも早い。そこで「専門店」「期間限定」のありがたみをプラスしたのがうま横の業態といえそう。
だが、不安も残る。9月、10月のテーマは未発表だが、餃子や肉、カレーといった、フェスで集客できるほど人気が高いテーマがまだあるのか。また短期間のフェスと違い、1カ月もの間、人気店のスタッフを配置するのは至難の技だろう。うま横の正念場は秋以降になりそうだ。
(文/桑原恵美子)