讃岐うどん専門店「丸亀製麺」などを展開しているトリドールホールディングス(以下、トリドール)は、ハワイのノースショアで大人気のフリフリチキン専門店「レイズ・キアベ・ブロイルドチキンとフランチャイズ契約を締結。2017年7月1日に日本第1号店となる「レイズ・オリジナル・ブロイルドチキン(以下、レイズ・オリジナル)を、神奈川・鎌倉の由比ガ浜にオープンした。
「フリフリチキン(HULIHULI CHICKEN)」とは、チキンを一羽まるごと開いて串に刺し、回転させながら炭火で焼き上げるハワイの伝統的なバーベキュー料理(フリフリはハワイ語で「回す」という意味)。このハワイのローカル料理をブレークさせたのが、ハワイ州ノースショア・ハレイワで1984年から営業しているレイズ・キアベだという。
家族経営の小規模な店舗で週末のみの営業、テイクアウト限定でありながら、今や地元住民だけでなく、わざわざこの店のために遠くから訪れる観光客で行列ができているという。オープンからこれまでハワイ本店のみの営業だったため、レイズ・オリジナルは日本1号店かつハワイ以外では初出店ということになる。
フリフリチキンを目玉にする飲食店は増えている印象で、2017年6月にすかいらーくが新業態としてオープンした「ラ・オハナ」もそのひとつ(関連記事「すかいらーくハワイ料理専門店の“本気すぎる”中身」)。その人気の火付け役であるレイズ・キアベ直伝のフリフリチキンとはいったいどんな味なのか。オープン直前のプレス内覧会でいち早く検証した。
丸亀製麺の“湯気”と同様に「煙で集客」
レイズ・オリジナルがあるのは、江ノ電の由比ヶ浜駅から徒歩7分の由比ガ浜海水浴場。由比ヶ浜駅は単線の無人駅で駅前も閑散としており、タクシー乗り場もない。だいたいの方角を目指して進み、住宅街を歩いていくと、数分で目の前に海が見えてきた。
広い海水浴場のどこにあるのか分からず、キョロキョロ探すと、紺地に黄色で目立つ「CHICKEN」の文字が! 砂浜に降りていくと、黄色のパラソルが並んだデッキがあり、向かって右側がグリルスペースだ。卓球台ほどの巨大なグリルの下には炭火があり、その上では大量の丸ごとチキンが串にささった状態でクルクル回っている。鶏から落ちた脂が炭に落ち、煙がもうもうと店内にも浜にも広がっていく。このインパクト満点のビジュアルだけで、集客効果はすごそうだ。うどんをゆでる“湯気”でおいしさを演出する丸亀製麺と同じ戦略なのだろう。
同じ鶏の丸焼きでもロティサリーチキンと大きく違うのは、オーブンではなく炭火で焼いている点。レイズ・キアベは特に炭を重視しており、店名の「キアベ」は本店で使用している炭の名前だという。だが日本では同じ炭が手に入らないので、同等の火力の炭を使用している。そのため、店名にキアベの名が入らず、レイズ・オリジナルとなっているとのこと。
日本のハワイアンレストランで食べるフリフリチキンは、おしなべてスパイスを強めに利かせていて、ビールが進むような濃いめの味付けにしているところが多い。だが同店で焼きたてのフリフリチキンを味わってみて驚いたのは、「意外にあっさりしている」ということ。そのため最初はやや物足りなさも感じたが、スパイスが主張しすぎない、甘めの味付けなので非常に食べやすい。炭火で焼いて余分な脂が落ちているためか、あっさりしていて、いくらでも食べられそう。また回転させながら炭火で焼いているため、皮が均一な香ばしさで、パリパリ感を強く感じた。現地の味を知らないので比較できないが、こうしたシンプルで素朴な味わいが、幅広い層に受けている要因なのかもしれない。
だが全国に約800店舗の丸亀製麺を展開しているトリドールがなぜ今、フリフリチキンを展開しようとしているのか。またなぜ、20年以上も店舗展開のオファーを断ってきたレイズ・キアベがトリドールとの提携を決断したのか。
なぜ今フリフリチキンなのか?
トリドールは2015年に「2025年度に世界6000店・売上高5000億円を達成し、外食企業世界ランキングで世界のトップ10入りを目指す」というグローバル戦略を発表。2015年以降は海外出店が国内出店を上回っている。海外展開を担うプロジェクトチームでは、うどん以外に柱となる業態として、世界中で人種や宗教を超えて普遍的に好まれている食材である鶏肉に注目。世界展開できる鶏料理を模索していた。
同社は2011年に、丸亀製麺の海外1号店となる「丸亀製麺ワイキキ店」をオープンしているが、粟田貴也社長はそのためにハワイに視察に訪れた際、レイズ・キアベのフリフリチキンに出合い、その味に感動したという。「ぜひ日本にも紹介したいと思い、創業者のレイ氏にオファーをしたが、素朴で堅実な人柄で家族経営に満足しており、オリジナルのチキンの味を守りたいという意思が強かったレイ氏は、事業を広げることは全く考えていなかった」(粟田社長)。
一時は交渉をあきらめ、プロジェクトチームがさまざまな国の鶏料理を検討したが、「やはりレイズ・キアベに勝る味はない」と再認識。約6年間にわたって交渉を繰り返し、買収ではなくフランチャイズという形にし、味を変えないという条件で日本への出店が実現した。
トリドールが日本での今後の展開の足掛かりにするのが、全国で7店舗あるハワイアンカフェ「コナズ珈琲」。「大きな駐車場を備えている郊外店舗にレイズチキンを併設していく」(粟田社長)。ハワイのレイズ本店と同様に移動式グリルを使えば、既存店への併設も可能だという。苦労しているのは、大きくてサイズがそろった鶏の入手。「最近の鶏はおしなべてサイズが小さいものが多くなっている。フリフリチキンに用いる鶏は大きいほどいいが、日本では入手が難しい。購買部は今、この店のために日本中を駆け回って、良質で大きな鶏を集めている」(粟田社長)とのことだ。
由比ガ浜のショップは8月末までの営業だが、2018年早々に神奈川県綾瀬市、2018年3月には埼玉県加須市でのオープンに向けて準備を進めており、その後も3店舗を検討中だという。
(文/桑原恵美子)