最近、インターネット上で話題になっている中華料理店がある。2018年6月9日にオープンした「沙県小吃(サケン・シャオチー)」だ。沙県小吃は中国で約6万3000店舗を展開している庶民派食堂の巨大ブランドで、同店はその日本1号店。
この店が話題となったきっかけは、ツイッターへのある投稿だ。中国での多店舗展開を知る人が通りすがりに店の看板を見かけ、オープン前に写真をツイッターに載せたところ、「高田馬場についに沙県小吃が登場」「祝 沙县小吃 日本進出」という反応が相次いだ。さらに、2018年6月2日に中国版ツイッター・微博(ウェイボー)が日本1号店オープンを伝える動画を配信し、中国のネットユーザーの間でも話題になっていた。
だが、中国巨大チェーンの日本1号店にもかかわらず、全くと言っていいほど情報が見つからない。店名で検索しても出てくるのは店の前を通りかかった人のツイートのみ。それなのにこれだけ話題を集めるのは一体どんな店なのか。住所もはっきりと分からないまま、ツイッターの情報を手掛かりに店を訪ねた。
480円メニューがずらり
店舗があるのは、JR高田馬場駅の早稲田口から徒歩数分。映画館「早稲田松竹」と道路を挟んでちょうど向かい側だ。中国本土での店舗数の多さから、かなり大きな店を想像していたのだが、実際に行ってみると間口一間ほどの小規模な構えだった。
店構えもミニマムなら、メニューも超シンプル。メインメニューは中国風のあえそば「拌麺(バンメン)」「ワンタン」「蒸し餃子」「蒸しスープ」で、価格はすべて480円均一。看板メニューだという蒸し餃子とワンタンを食べたが、どちらも値段の割にかなりボリュームがある。味も本格的で割安感があるので、日本で多店舗展開して牛丼チェーンやファストフードとも対抗できるかもしれない。
だが、万人に好まれそうな味である一方、この店でしか味わえないというようなインパクトは特に感じない。なぜこの店が中国でこれほどまでに多店舗展開しているのだろうか。
中国全土に6万店以上あるが、チェーンではない
同店を運営する「キング・テック」(東京都文京区)の王遠耀社長は「沙県小吃はそもそもチェーン店ではない」と話す。
王社長によると、沙県小吃というブランドが生まれたのは福建省の沙県という地方。「小吃」と呼ばれる軽食が名物で、沙県出身者が「沙県小吃」の屋号で中国各地に軽食店を展開するようになったのがブランドの発祥だという。
だが、「組合に登録すれば誰でも開店できるシステムを取っているため、6万3000店以上ある店舗のほとんどが個人商店。乱立状態が続くなかで、中国政府が出資した運営企業『沙県小吃集団』に出店の公認を得て、日本1号店を開店した。今後は日本での店舗を増やしていきたい」(王社長)。
取材をしたのはオープンの2日前だったが、取材中に何人もの人が看板を見ては興奮した様子で店に入ってきて、王社長に話しかけていたのが印象的だった。いかに中国での認知度が高いかということだろう。オープン後は中国人が殺到したが、日本人客も日ごとに増えているという。「日本人は2割程度ではないか」(王社長)
「ファスト中華」が早稲田通りに続々登場
実は今年に入ってから沙県小吃のある高田馬場と早稲田を結ぶ早稲田通り沿いに、次々と中華料理店がオープンしている。ここ最近、「麻辣湯(マーラータン)」という辛いスープで食べる春雨料理の人気が高まっているが、「胡家小館 張亮麻辣湯(フーチャマオカン ヂャンリョウマーラータン)」はその専門店だ。中国で2008年に創業し、10年足らずで約3300店舗を展開しているという。
さらに、昨年から人気が高まりつつある蘭州ラーメンの店「蘭州 牛肉麺」もある(関連記事「“中国で最も有名なラーメン”が日本に! 連日大行列」)。
東西線早稲田駅出口前には「香港華記焼味&米線(ホンコンワーキーシュウメイアンドベイセン)」もオープン。同店は香港出身のオーナーによる香港式カフェレストラン「香港華記茶餐廳(ホンコンワーキーチャサンチョ)」の3店舗目だが、早稲田駅前の店舗は香港で人気の屋台の味を再現したカジュアルな業態だという。
店名にもある「焼味(シュウメイ)」は肉のローストのことで、それをご飯にのせた「焼味飯」は香港の代表的B級グルメともいわれる。「米線(ベイセン)」は中国ではメジャーなライスヌードルのこと。さっぱりしているので、酒の後のシメとしてもよく食べられているそうだ(関連記事 「中国で大人気“1人鍋ラーメン”上陸 食べ方に衝撃」)。
「汁ワンタン」「麻辣湯」「蘭州ラーメン」「焼味飯」「米線」など、中国版ファストフードの店が集まり始めた早稲田通り。今後は“ファスト中華”のメッカになるかもしれない。
(文/桑原恵美子)