イオンがアウトレットモールで地方創生――。2018年4月27日、広島市郊外にイオンモールが手がける大型商業施設「ジ アウトレット広島」がオープンした。アウトレットモールでありながら、これまでになかったテナント構成で、従来型のショッピングモールとも一線を画す。
出店テナントは中国・四国初出店が96店舗、広島県初が60店舗、地元企業が40店舗で計約200店舗(うちアウトレットは127店舗)。イオンでは“地域創生型商業施設”の1号店と位置付けており、地域の日常に寄り添うとともに、国内外の観光需要にも広く対応していくという。
いまや使い古された感のある“地方創生”ならぬ、地域創生型の商業施設とは、いったいどのような施設なのだろうか。
ありそうでなかった“三刀流モール”
JR広島駅から山陽本線に乗り換え、JR西広島駅から路線バスで約20分。クルマの場合だと、山陽自動車道五日市ICから約10分で「ジ アウトレット広島」に着く。
敷地面積約26万8000平方メートルの広さに、約4000台を収容する駐車場と、地上2階建て、総賃貸面積約5万3000平方メートルのモール棟が並ぶ。想定商圏とターゲットはクルマで110分圏内と国内外の観光客に設定。商業施設のタイプでいえば、広域型ショッピングセンター(RSC)であり、グランドフロアとなる2階には本格的なアウトレットモールが広がっている。
2階だけを見ると一般的なアウトレットモールと変わりはないが、実はその下の1階フロアに、同モールが注目されるワケがあった。
ひとつは、ショッピングモールではすでに定番ともいえる“コト消費”のコンテンツとしてエンターテインメントの要素を取り入れたこと。ショッピングだけではなく、半日もしくは一日中遊べる滞在型の商業施設を目指している。
ふたつめは食やものづくりを通して地域の文化や魅力を発信していることだ。特に、最近のトレンドともいえるフードホールやイートインを充実させ、地域性を追求した一大飲食ゾーンを作り上げた。
つまり、エンタメとアウトレットとフードコートという、いまのショッピングモールにとってはキラーコンテンツといえる施設を合体し、ありそうでなかった“三刀流モール”に昇華させたのがジ アウトレット広島なのだ。
広島にはすでに中四国最大級のイオンモール広島府中やイオンモール広島祇園といったRSC型の大規模ショッピングモールがある。新業態での出店は自社内競合を避け、地域ナンバーワンモールのポジションを確立する狙いもある。
オープン日の記者会見で、イオンモールの吉田昭夫社長は「広島市は人口120万人の中心都市であり、インバウンドを含めて観光客が増えている。その副都心として開発が進むひろしま西風新都は交通インフラが整い、アプローチに優れていることから、従来型と異なる新たなフォーマットにチャレンジした」と、改めて出店の理由を語った。
カープファン必見のエンタメ施設
ジ アウトレット広島のコンセプトは「本格的アウトレット」「エンターテインメント」「地域との出会い(ローカリゼーション)」の3つ。なかでも注目は、広島最大級のエンターテインメントゾーン「ほしかげシティ」だ。
通年型の屋内アイススケートリンク「ワンダーリンク」ではスケートだけでなく、カーリングや滑りながらぶつかって遊ぶ乗り物「アイスバンパーカー」を楽しめるほか、巨大トランポリンパークも併設。さらに総合アミューズメント施設「プラサカプコン」には、ボウリングや最新VR、スポーツシミュレーションゲーム、カラオケなど多彩なアミューズメントを集めた。
ボウリング場ではカープ球団をデザインモチーフにしたカープレーンがあったり、球団マスコットのカープ坊やがゲームを盛り上げてくれたりと、カープファンにはうれしい演出も用意。マルチVRを多数導入したコーナーでは、6人同時にプレーを楽しめる国内初登場の「ゾンビウェイ」などを楽しめる。バーチャルとリアルを融合した野球ゲーム「レジェンドベースボール」は、ココにしかないカープ球団デザインの特別仕様だ。近隣に住む若いカップルは「なんでもそろっていて一日中遊べるので毎日でも来たい。スポーツが好きなので、カーリングやVRに挑戦したい」と笑顔で話す。
スケートリンクのあるワンダーリンクは、愛知県の「イオンモール常滑」にも導入されている。イオンはインドネシアの「イオンモールジャカルタガーデンシティ」にスケートリンク、ベトナムの「イオンモールビンタン」にボウリング場を設けるなど、東南アジアのモールではエンタメ施設を充実させ、コト消費への対応を強化してきた。「ジ アウトレット広島にも体感型エンタメ施設を作れないか検討し、東南アジアで培ったノウハウを導入した」と吉田社長。ほしかげシティは飲食ゾーンとつながっており、家族づれや若者の集客に大きな効果が期待できそうだ。
地域色を強めた約2000席の飲食ゾーン
フードコートとレストラン、イートインスペースを集積した食のゾーンも、圧倒的な規模とバラエティーの豊富さが印象的だ。レストランとフードコートを融合したような開放的な店づくりが、フロア全体ににぎわいをもたらしていた。
エンタメゾーンから続く「にしかぜダイナー」には、瀬戸内地方や広島ならではの食を提供する人気店など全31店が出店。ローカリゼーションを追求した結果、モール初出店のテナントが多い。
特に約1000席の客席数を有し、11店舗が軒を連ねるフードコートは観光ツアーで訪れた団体客にも対応可能な広さだ。オープン初日に訪れたときは、揚げたて天ぷらの専門店「博多天ぷら たかお」や、インパクトのある定食がウリの「とり専門店 鳥さく」、広島流お好み焼きをメインに鉄板焼き料理を提供する「鉄ぱん屋 弁兵衛」などが人気で、長い行列ができていた。
アウトレット初出店のイオンスタイルも、イートインコーナーを充実させている。1階中央の食物販ゾーン「よりみちマルシェ」に位置し、約280席を用意。中国地方初のステーキショップ「ガブリングステーキ」や魚屋の海鮮丼「魚魚彩」など、売り場の食材を使ったメニューをオーダー形式で提供する、いわゆるグローサラントの「ここdeデリ」を展開している。
“地域創生”を象徴するゾーンは1階「なみのわガレージ」で見つけることができた。瀬戸内・広島のものづくり企業やクリエーターが作る雑貨の編集型ショップ「サッカ ザッカ」のほか、広島市の縫製工場「八橋装院」が展開するファクトリーブランド「フクナリー」、明治30(1897)年創業の「石田製帽」などが出店。地域のものづくり文化の発信拠点の役割を担う。また、なみのわガレージの広場には、広島電鉄の路面電車・70系が展示され、プロジェクションマッピングも楽しめるので、電車好きには必見だ。
土日来館者のリピートで客数を上げる
肝心のアウトレットモールは三井不動産が岡山県で展開する「三井アウトレットパーク倉敷」(約120店舗)とほぼ同じ規模だが、「エルメネジルド ゼニア」「サルヴァトーレ フェラガモ」「ラペルラ」などのラグジュアリーブランドや、「アグ」「H&M」「ジル スチュアート」などの人気ブランドは中国・四国初出店。ほかにも「ビームス」「アーバンリサーチ」「アンブロ」「ナイキ」などセレクトショップやスポーツブランドも充実したラインアップだ。
なかでもコーチの人気が高く、コーチで十数万円分購入した広島市内在住の夫婦は「これまでは倉敷の三井アウトレットパークまで足を延ばしていたが、近いし好きなブランドがそろっているのでこれからはここに来ると思う」と話す。山口県岩国市からクルマで来た女性2人も「いつもは広島市内で買いものしていたが、ココなら車で40分くらいで来られる。しかも安いので、次回は家族と来たい」と、早速気に入った様子だ。
オープン初日は平日にもかかわらず、10時の開店前に約5500人が殺到。GWは九州や四国など遠方からの客も多く、順調なスタートを切った。ただ、郊外のアウトレットモールの場合、商圏が広いぶん、平日と週末の集客力の差は大きい。
吉田社長は「われわれがベストチョイスと思う業態ミックスのフォーマットが支持されるかどうかは、土日の来館者にリピートしてもらい、客数を上げることが重要。中国、東南アジアのイオンモールでも告知し、インバウンドの誘客にもつなげていきたい」と意気込む。
広島の観光客は9割が日帰りで、インバウンドの6割は欧米人だという。しかも、広島県内には魅力的な観光スポットが多数点在している。いまのところ、イオンアウトレットへの公共交通は路線バスのみで、観光客にとってはアクセスが良いとはいえない。国内外の観光客を呼び込むためには、郊外のアウトレットにわざわざ立ち寄りたくなる仕掛け作りが今後必要になりそうだ。
(文/橋長初代)