たこ焼きチェーン「築地銀だこ」を展開するホットランド(東京都中央区)は有名パティシエの鎧塚俊彦氏が代表を務める「サンセリーテ」(東京都渋谷区)との合弁会社「1016」(東京都中央区)を設立し、2016年4月21日にキッシュ&ワインバー「キッシュヨロイヅカ」を湘南・江の島にオープンした。鎧塚氏がパティシエならではの工夫を凝らした独自のキッシュなど約20種類のメニューを提供するという。
スイーツが専門のパティシエである鎧塚氏がキッシュの店を手掛けたきっかけは、欧州で修業をしていた29歳のころに働いていたスイスのケーキ屋。その店では素材の味を活かしたシンプルなキッシュを焼きたてで販売し、毎日売り切れるほど大人気だったという。鎧塚氏も賄いとして毎日そのキッシュを食べては感動し、「いつか自分もキッシュ専門店を作りたい」と構想を練り続けてきたとのこと。その中身とは?
パイのなかに別の一品料理!?
キッシュヨロイヅカがあるのは、小田急江ノ島線片瀬江ノ島駅から歩いて3分ほどの、国道134号沿い。隣にエッグスシングス、二軒先にアロハテーブルがあり、新江ノ島水族館への通り道という、江の島の外食激戦地だ。店はこぢんまりとした一軒家で、1階奥にキッチンがあり、焼き立てのキッシュやタルトが次々に並べられては売れていく。オープンと同時にどっと女性客が入り、たちまち2階席が半分ほど埋まる盛況ぶりだった。取材日はオープン1週間後だったが、「1日で1000個以上売れる日もある。特にテイクアウトが好調で、予想以上に伸びている」(広報担当の菊地紗矢香氏)とのこと。
さっそく目当てのキッシュを食べてみた。「エビリゾット ビスクソース」は、プリプリのエビの下にリゾットがあり、小さなパイなのに複雑な味わい。「シラスと青ネギ」は見た目こそ地味だが、シラスがイメージ以上にたっぷり入っていて驚いた。中に焼き込まれたシラスとカリカリに焼かれた表面のシラスの食感の違いが面白い。
数種類食べて共通して感じたのは、どれも意外性があること。キッシュといえば焼き込む具が違っても、食感や味は似た印象になるもの。しかし同店のキッシュは、食材や料理がそのままパイシェルの上にのっているものが多く、キッシュの型の中に別の一品料理がそのまま入っているようなイメージなのだ。
同店で飛びぬけて売れているのが、パイ生地の中に濃厚なプリンを焼き込んだ「キッシュプリン」(280円)だという。2016年2月、東武百貨店池袋本店にオープンしたカジュアルフレンチカフェ&レストラン「TOSHI STYLE(トシスタイル)」で先行限定販売し、毎日完売している大人気商品でもあるとのこと(関連記事「池袋東武レストランフロアが全面改装、人気パティシエがフルコースに挑戦!」)。商品は全20種類ほどあるが、売り上げの約1割はキッシュプリンが占めているほどの人気だそうだ。
なぜ「銀だこ」が江の島でキッシュ?
ホットランドは近年、グループ事業の一つ「スイーツ&カフェ事業」を強化している。2014年1月には米国の高級アイス専門店「コールド・ストーン・クリーマリー」をグループに迎え、2015年5月にはイオンモールと合弁で世界29カ国で1050店舗を展開するカフェブランド「コーヒービーン&ティーリーフ」を日本に上陸させた(数字は2016年5月現在)。同社がキッシュヨロイヅカをオープンさせたのは、料理としての専門性が高く新奇性の高い業態を成功させることで、そのノウハウを既存の業態に落とし込み、より大きな市場に反映させることが目的だという。
江の島という立地を選んだのは、鎧塚氏が小田原の石垣山山頂に約2000坪の農園を併設したパティスリー&レストラン「一夜城Yoroizuka Farm」を開設しており、「かながわ観光大賞」(観光による地域活性化部門)を受賞するなど神奈川県と縁が深いことも理由のひとつだという。またホットランドの佐瀬守男社長が「海沿いに店を出し、リラックスした雰囲気の中で食を楽しんでもらえるような店を作りたい」という願いがあったことから江の島にしたという。
同社では今後も同業態の出店を計画しており、「一号店の江の島で名物のシラスを使って『シラスと青ネギのキッシュ』を作ったように、その土地に合わせてキッシュとワインを楽しんでいただける店を展開していきたい」(広報担当の菊地氏)そうだ。
(文/桑原恵美子)