「星のや」「界」「リゾナーレ」などの旅館・ホテルを運営する星野リゾートが、新ブランド「OMO」を立ち上げた。コンセプトは「寝るだけでは終わらせない、旅のテンションを上げる都市観光ホテル」だ。2018年4月に北海道旭川市に開業した1棟目に続き、2018年5月9日にはJR山手線の大塚駅前に「星野リゾート OMO5(オモファイブ) 東京大塚」を開業した。

7 同じ都市型のホテルでも、2016年開業の「星のや東京」の宿泊費は1室7万8000円から。だが、OMO5東京大塚は1泊約7000円からと10分の1以下で宿泊できる (関連記事「『星のや東京』は旅館というより“ぜいたくなオレんち”」 )。

2018年5月9日にオープンした「星野リゾート OMO5(オモファイブ) 東京大塚」(東京都豊島区北大塚2-26-1)。JR山手線・大塚駅北口から徒歩約1分。4階がパブリックスペースの「OMOベース」で5~13階が客室。部屋数125室。チェックイン15時~、チェックアウト11時~。宿泊料金は7000円~(2人1室利用時の1人あたりの料金。消費税、サービス料込み)
2018年5月9日にオープンした「星野リゾート OMO5(オモファイブ) 東京大塚」(東京都豊島区北大塚2-26-1)。JR山手線・大塚駅北口から徒歩約1分。4階がパブリックスペースの「OMOベース」で5~13階が客室。部屋数125室。チェックイン15時~、チェックアウト11時~。宿泊料金は7000円~(2人1室利用時の1人あたりの料金。消費税、サービス料込み)

 客室は全125室だが、1室(ユニバーサルデザインのシングルルーム)を除いて「YAGURA Room」の1タイプのみ。YAGURA Roomは3人まで対応可能な19平方メートルの小さな客室の中に、滞在を楽しむための仕掛けをデザインしているという。星野リゾートの星野佳路社長が「世界のホテルで見たこともないようなレイアウト」と胸を張る客室は、いったいどんな中身なのだろうか。

ホテル4階のパブリックスペース「OMOベース」
ホテル4階のパブリックスペース「OMOベース」

寝室は「2階建て」。まるで秘密基地のような空間

 OMO5 東京大塚があるのは、JR山手線大塚駅の北口すぐ目の前。改札を出ると前方に建物が見える距離だ。建物1階にあるレストラン「eightdays cafe」の向かって左側にホテルのエントランスがあり、エレベーターで4階に上ってパブリックスペース「OMOベース」でチェックインする。5階から13階が客室だ。

 早速、YAGURA Roomを見学する。広さが19平方メートルと聞いて「ツインベッドと小さめの椅子とテーブルがやっと入る広さ」をイメージしていたが、中に入ってみて驚いた。室内は畳敷きで、入り口で靴を脱いで入る。だが、旅館のような和室ではなく、窓際には大きなソファスペースがある。同社によると、このレイアウトは和風旅館を数多く手がけた経験を生かしたという。「畳敷きの和室で靴を脱いでゆっくりしたいという要望もあるが、現代の日本人のライフスタイルでは、畳に座るスタイルではくつろげない」と星野社長は話す。

 部屋の中央にはベッドスペースにつながる階段があり、同社オリジナルのヒノキ材の高床式ベッド「櫓(やぐら)寝台」が置かれている。「建築面積が限られる街のホテルにおいて息苦しさを感じることがないように、天井の高さや大きな窓がもたらす空間の広がりに着目してデザインした」と、同ホテルを設計した佐々木達郎建築設計事務所の佐々木達郎氏は話す。

5階以上に位置するOMO5 東京大塚の客室「YAGURA Room」。広さは19平方メートルだが、寝室とリビングが分かれているので狭さを感じない。中央に見えるのがベッドスペースにつながる階段。階段は収納スペースも兼ねており、冷蔵庫や金庫が収められている
5階以上に位置するOMO5 東京大塚の客室「YAGURA Room」。広さは19平方メートルだが、寝室とリビングが分かれているので狭さを感じない。中央に見えるのがベッドスペースにつながる階段。階段は収納スペースも兼ねており、冷蔵庫や金庫が収められている
「櫓(やぐら)寝台」は大人が立つと頭がぶつかる高さだが、屋根裏部屋か寝台列車で過ごしているかのような落ち着ける空間だった
「櫓(やぐら)寝台」は大人が立つと頭がぶつかる高さだが、屋根裏部屋か寝台列車で過ごしているかのような落ち着ける空間だった
ソファスペース「くつろぎ寝台」は3人での宿泊時はベッドとしても使える
ソファスペース「くつろぎ寝台」は3人での宿泊時はベッドとしても使える

 面積が19平方メートルで1泊7000円となると、ユニット式のバス・トイレを採用しているホテルがほとんどだろう。だがYAGURA Roomは浴室とトイレが別で、浴室には洗い場があり、浴槽は肩まで漬かれる深さだ。さらに、木製の風呂椅子とおけも用意されている。

 また、部屋の細部をよく見ると、収納にさまざまな工夫があることが分かる。階段は収納を兼ねた「箱階段」で、江戸時代の町屋などに見られる収納家具を現代的にアレンジしているという。壁面は90cm角の角材を組み合わせてデザインされた「仕掛け壁」だ。ベッドスペースは屋根裏部屋か寝台車のようで、多機能な部屋の仕掛けはコックピット、バスルームは日本旅館風と、決して広くはない空間にさまざまなアイデアを凝縮した秘密基地のような客室だった。

YAGURA Roomの見取り図。室内中央にヒノキ材を使った櫓(やぐら)を設け、上がベッドスペース、下がソファスペースの2層構造にしている
YAGURA Roomの見取り図。室内中央にヒノキ材を使った櫓(やぐら)を設け、上がベッドスペース、下がソファスペースの2層構造にしている
壁面は枠組みを利用してさまざまな収納ができる「仕掛け壁」
壁面は枠組みを利用してさまざまな収納ができる「仕掛け壁」
ポップな市松模様をデザインした浴室
ポップな市松模様をデザインした浴室
バスタオル、フェースタオル、歯ブラシは部屋にあるが、その他アメニティーは各フロアにある自販機やショップで購入するシステム。スキンケアセットが税込み540円~と、価格はやや高めの印象。ルームウェアはレンタル(税込み200円)
バスタオル、フェースタオル、歯ブラシは部屋にあるが、その他アメニティーは各フロアにある自販機やショップで購入するシステム。スキンケアセットが税込み540円~と、価格はやや高めの印象。ルームウェアはレンタル(税込み200円)

日本人の都市観光旅行をターゲット化できていなかった

 洗い場のある浴室や、畳、ヒノキなどの和の素材を生かした客室から、ターゲットは訪日客のように見える。だが、「メインターゲットは日本人旅行者」と星野社長は説明する。

 2016年の国内の訪日客を含む国内旅行消費額は、2010年以降で過去最高の約25兆8000億円。そのうち訪日外国人旅行消費額は約3兆7000億円なのに対し、日本人の国内宿泊旅行消費額は約16兆円にも上る(2017年の観光庁「旅行・観光消費動向調査」「訪日外国人消費動向調査」)。だが、「地方都市には日本人旅行者のニーズを満たす都市型ホテルはほとんどなく、多くはビジネス客をターゲットにしたビジネスホテルを利用しているのが現状」(星野社長)だという。

 また、星野リゾートが展開するホテルのうち、ラグジュアリーブランドは「星のや」、温泉旅館は「界」、ファミリー向けリゾートは「リゾナーレ」とターゲット化できているが、「日本人の都市観光旅行をターゲット化できていなかった」と星野社長は振り返る。そこで、これからさらに伸びる可能性がある日本人の国内宿泊旅行市場を意識し、ビジネス客ではなく、観光客だけをターゲットにした宿泊施設をブランド化する必要があると考えたという。

「1泊7000円という料金設定は、会社の経費ではなく自分で払う場合の値ごろ感を狙った」と星野リゾートの星野佳路社長は話す
「1泊7000円という料金設定は、会社の経費ではなく自分で払う場合の値ごろ感を狙った」と星野リゾートの星野佳路社長は話す

ホテルから500歩圏内をひとつのリゾートとして提案

 また、部屋というスペースに対してではなく“滞在”という経験にお金を払ってもらうコンセプトのもと、旅行者が入りにくい地元の店などに案内するガイド「ご近所専隊 OMOレンジャー」などのユニークなサービスが充実しているのも特徴的だ。「これまでのホテルは、施設内で飲食やショッピングをしてもらうため、周辺の店舗と競合関係にあった。だが、OMOはホテルから500歩圏内をひとつのリゾートとしてとらえ、周辺の街歩きを積極的にサポートしていく」と星野社長は話す。

 今後は季節のイベントなどを積極的に情報発信していき、「このイベントに行きたいからOMOに泊まる」という流れを作る戦略。「OMO5東京大塚が成功すれば、OMOのコンセプトを採用したいという地方都市は増えるだろう」と星野社長は期待を語った。

ホテルから徒歩圏内の「街」を深く知るためのサービス「Go-KINJO」のひとつ、「ご近所専隊 OMOレンジャー」。OMOグリーンは「散歩」、OMOレッドは「はしご酒」、OMOイエローは「昭和レトログルメ」、OMOブルーは「大塚のニューグルメ」、OMOパープルは「ナイトカルチャー」と得意分野がある。グリーンは無料だが、その他はガイド料として2時間につき税込み1000円かかる(1人あたり)
ホテルから徒歩圏内の「街」を深く知るためのサービス「Go-KINJO」のひとつ、「ご近所専隊 OMOレンジャー」。OMOグリーンは「散歩」、OMOレッドは「はしご酒」、OMOイエローは「昭和レトログルメ」、OMOブルーは「大塚のニューグルメ」、OMOパープルは「ナイトカルチャー」と得意分野がある。グリーンは無料だが、その他はガイド料として2時間につき税込み1000円かかる(1人あたり)
OMO5東京大塚が作成したご近所マップ。2次元コードをスマートフォンで読み取ると、グーグルマップにリンクしてルート検索できる
OMO5東京大塚が作成したご近所マップ。2次元コードをスマートフォンで読み取ると、グーグルマップにリンクしてルート検索できる

(文/桑原恵美子)

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