セブン&アイ・ホールディングスは2016年4月25日、同社の商業施設としては最大規模となる「セブンパークアリオ柏」をオープンさせた。敷地面積はなんと約13万平米、売り場面積は約6万5000平米で、テナント数は約200。約1万3千平米の大型公園「スマイル・パーク」を併設している。

 店舗棟は東西のエリアに分かれており、西エリアは「自然」、東エリアは「都会」をイメージした店舗配置になっている。また1階が食を中心としたゾーン、2階がファッションや雑貨のゾーン、3階がキッズや飲食店のゾーンに分かれている。初年度の売り上げは300億円が目標だ。

 まず気になるのが、交通の便。国道16号線と県道8号線の交差するポイント近くなのでクルマなら便利だが、周辺のどの駅からも遠い。柏駅からバスで20分、新鎌ヶ谷駅からバスで30分、柏駅からタクシー利用でも約15分かかる。同社ではオープン時よりJR我孫子駅北口から平日は1時間に1~2本、休日は1時間に2~3本程度の無料シャトルバスを運行させるが、そのバスも片道約25分かかるのだ。

 同社でもその点は考慮のうえで、「地の利が悪いぶん、より広域から集客しなくてはならない。これまでのSC(ショッピングセンター)以上に魅力のある取り組みが必要になる」(イトーヨーカドーの野口信行執行役員)。どのような方法で往復で1時間弱という地の利の悪さをカバーしようとしているのか。オープン直前の内覧会に参加した。

アリオとしては18店目となる「セブンパークアリオ柏」(千葉県柏市大島田950番地1号)。敷地面積約13万平米、商業施設面積6万5000平米。店舗は1~3階、店舗数約200、駐車台数4000台(臨時駐車場含む)、駐輪台数1500台
アリオとしては18店目となる「セブンパークアリオ柏」(千葉県柏市大島田950番地1号)。敷地面積約13万平米、商業施設面積6万5000平米。店舗は1~3階、店舗数約200、駐車台数4000台(臨時駐車場含む)、駐輪台数1500台
約1万3千平米の大型公園「スマイル・パーク」を併設。大規模な野外舞台やバーベキュー場、ドッグラン、ウオーキングコースなどを設ける。夏には大きなサーカスの誘致も予定している
約1万3千平米の大型公園「スマイル・パーク」を併設。大規模な野外舞台やバーベキュー場、ドッグラン、ウオーキングコースなどを設ける。夏には大きなサーカスの誘致も予定している
1階中央の入口を入ってすぐ目に入るのが、1階から3階までの広大な吹き抜け空間に巨大オブジェが配置された「ビッグ・ワンダー」。いろんなものが実物の20倍のサイズになっているという。自分が小人になったような錯覚をおぼえる
1階中央の入口を入ってすぐ目に入るのが、1階から3階までの広大な吹き抜け空間に巨大オブジェが配置された「ビッグ・ワンダー」。いろんなものが実物の20倍のサイズになっているという。自分が小人になったような錯覚をおぼえる
「自然」をテーマにした西エリアでは森をイメージしたカラーを採用
「自然」をテーマにした西エリアでは森をイメージしたカラーを採用
「都会」をイメージした東エリアには「ZARA」などの衣料ブランドや生活雑貨店などが多い
「都会」をイメージした東エリアには「ZARA」などの衣料ブランドや生活雑貨店などが多い

“子供”が集客の最大ポイント!?

 「物販だけで集客できる時代ではなく、お客様の遊びの場と考えて、遊び心あふれる売り場作りをした」(野口執行役員)。その遊び心の象徴ともいえるのが、1階中央の入口近くにあり、実物の20倍サイズの巨大オブジェが配置された「ビッグ・ワンダー」。撮影スポットとして利用してもらい、SNSで情報の拡散を狙うのが目的だ。

 また「子供は集客の一番のポイント」(モール・エスシー開発の近藤悦啓社長)という観点から、親子連れのための施設も充実させている。

 その代表が、西エリア3階にある子供連れの家族のための多目的スペース「スカイ・キッズ」だ。大型遊具を配したキッズ向けの施設は、2015年12月オープンの「三井ショッピングパーク ららぽーと立川立飛」にも見られた(関連記事:「西東京エリア初の「ららぽーと」は子育てファミリーに“至れり尽くせり”」)。だがこちらは、効果音が出る滑り台、触るとカエルの擬音語が聞こえる楽器など、さらに進化している印象。セブン&アイグループが運営する「グランツリー武蔵小杉」の親子連れ重視路線が好調なことから、そのキッズ向けの施設をバージョンアップさせているという(関連記事:「ムサコママも納得!? セブン&アイの“都心的”商業施設『グランツリー武蔵小杉』」)。

 また、話題になりそうなのが、世界的な玩具収集家・北原照久氏プロデュースの「北原コレクションミュージアム」。SC内なので単なるミュージアムショップかと思っていたが、これを見るためだけに訪れる価値があると思うほど本格的な展示だった。

 3つのゾーンに分かれているが、なかでも注目は、1925から59年にかけて米国の貴金属店のショーウインドウを飾った「モーションディスプレイ」を展示したゾーン。カップルが中心顧客の貴金属店だけに恋愛をテーマにしたロマンティックな作品が多く、SCには珍しいデート向けのスポットだ。40代以上には懐かしい、昭和アニメの貴重な資料ゾーンもあり、幅広い世代が楽しめそう。

SC内初出店となる「北原コレクションミュージアム」(西エリア2階)。入場料は大人(中学生以上)500円。アメリカングラフティをテーマにしたゾーン、モーションディスプレイを展示したゾーン、昭和のアニメ黎明期のグッズを展示したゾーンに分かれている。モーションディスプレイは実際に動く様子も見られる
トキワ荘にあった伝説的な漫画家たちの無名時代の寄せ書きカーテンや、手塚治虫が記憶だけで描いたバンビの絵(ディズニー公認)など、文化史的に貴重な展示も
子供連れ家族のための多目的スペース「スカイ・キッズ」(西エリア3階)。自分の画像と一緒に等身大の野生動物が映し出されるビジョン、触ると反応する4つの遊具など、親子が双方向で遊べる施設になっている
スカイ・キッズの向かいには広々とした休憩室。買い物に疲れたときやママ同士のコミュニケーションスペースとして利用してほしいという
スカイ・キッズの向かいには広々とした休憩室。買い物に疲れたときやママ同士のコミュニケーションスペースとして利用してほしいという
20以上のスポーツができる「ラウンドワンスタジアム」も千葉初出店
20以上のスポーツができる「ラウンドワンスタジアム」も千葉初出店
9スクリーン約1500席を有する「TOHOシネマズ柏」(東エリア3階)ではアトラクション型4Dシアター「MX4D」を採用。11種類の特殊効果が連動し、迫力のある映画体験ができる
9スクリーン約1500席を有する「TOHOシネマズ柏」(東エリア3階)ではアトラクション型4Dシアター「MX4D」を採用。11種類の特殊効果が連動し、迫力のある映画体験ができる

フード・バザールは子供がおびえるほどの熱気!?

 「過去最高益を更新しているとはいえ、本業のGMS(総合スーパー)は厳しい。チェーンストア依存を脱却して地域密着型に転換し、固定客を作りたい」(野口執行役員)。 その試みをよく表しているのが、西エリア1階の「フード・バザール」。旬の食材や地元の特産品を中心に“元気な商店街”をイメージして構成されており、千葉県産の野菜や魚介類などが豊富。同施設内でも最も活気があり、鮮魚やその加工品を販売する「タカマル鮮魚店」では魚河岸そのものの威勢のいい掛け声に、小さな子供がおびえていたほど。

 同エリア内にあるイトーヨーカドーでは初の試みとして、食品売り場3カ所に「ライブキッチン」を設置。洋風、軽食、米飯の3つのメニューの調理シーンを実演しながら販売する。商品の53%を生鮮食品にし、生鮮食品売り場では効率を度外視して対面販売を多くしたということからも、周辺住民の集客に直結する食物販への意気込みがうかがえる。

活気にあふれている「フード・バザール」(西エリア1階)のなかでも人が群がっていたのが「タカマル鮮魚店」
活気にあふれている「フード・バザール」(西エリア1階)のなかでも人が群がっていたのが「タカマル鮮魚店」
タカマル鮮魚店名物「サバサンド」(500円)
タカマル鮮魚店名物「サバサンド」(500円)
リンガーハットがフードコートではなく「食品物販店」エリアに初めて出店。ぎょうざ専門店「GYOZA LABO」はアーム型の餃子ロボットが注目を集めていた
リンガーハットがフードコートではなく「食品物販店」エリアに初めて出店。ぎょうざ専門店「GYOZA LABO」はアーム型の餃子ロボットが注目を集めていた
イトーヨーカドーでは農業が盛んな千葉県の特徴を取り入れ、生鮮食品を強化。全体の53%を生鮮食品が占め、経済的に効率が悪いとされる対面販売の売り場を多くしている
イトーヨーカドーでは農業が盛んな千葉県の特徴を取り入れ、生鮮食品を強化。全体の53%を生鮮食品が占め、経済的に効率が悪いとされる対面販売の売り場を多くしている
イトーヨーカドー初の試み「スイーツステーション」。旬の果実を利用したタルトやスムージー、カットフルーツなどを販売
イトーヨーカドー初の試み「スイーツステーション」。旬の果実を利用したタルトやスムージー、カットフルーツなどを販売
3つのテーマキッチンでは、「洋風」「軽食」「米飯」3カ所の総菜コーナーに、作っている様子が見えるライブキッチンを設置。ピザ、サンドイッチ、寿司などが作りたてで提供されていた
3つのテーマキッチンでは、「洋風」「軽食」「米飯」3カ所の総菜コーナーに、作っている様子が見えるライブキッチンを設置。ピザ、サンドイッチ、寿司などが作りたてで提供されていた

飲食店の目玉は“デンマークの熊”!?

 飲食店での注目は、日本初出店となる「ラスムスクルンプカフェ」。世界21カ国で2000万部以上も売れているデンマークの絵本キャラクター、ラスムス クルンプをテーマにしたカフェだ。

 また東西エリアにまたがる3階中央部分には、25店約2000席と地域最大級となる「レストラン&フードコート」がある。広さは目を見張るものがあるが、最近の商業施設でよく目にするラインアップが多く、新鮮さにはやや欠ける印象。

 同社では、さまざまなイベントや地域密着型の店舗運営によりSCとしての驚きを演出し、ほかのショッピングセンターとの差別化を図るという。初年度で年間1300万人の入場者数を見込んでおり、GWにかけては90万人を超える見込みで、5月中旬には100万人を達成できそうという。

日本初出店となる「ラスムスクルンプカフェ」。店内はデンマークのチボリ公園をイメージしており、熊のラスムスの好物のパンケーキをトッピングした「デコソフトクリーム」(500円)などを販売するほか、約300種類の雑貨を入れ替わりで販売
東西エリアにまたがる地域最大級の「レストラン&フードコート」(3階)は奥が見通せないほどの広さ
東西エリアにまたがる地域最大級の「レストラン&フードコート」(3階)は奥が見通せないほどの広さ
飲食店では「ハワイアンパンケーキ&カフェメレンゲ」「博多めちゃんこ亭」「Mama’s Kitchen」「GRAND GRILL」「雲龍一包軒」などが千葉初出店
子供連れ用のダイニングスペースも充実
子供連れ用のダイニングスペースも充実
各フロアに4カ所設置されているエレベーターは西から順番に「オレンジ」「レッド」「ブルー」「イエロー」と色分けしているので、フロアマップを見たときに自分のいる位置が分かりやすい
各フロアに4カ所設置されているエレベーターは西から順番に「オレンジ」「レッド」「ブルー」「イエロー」と色分けしているので、フロアマップを見たときに自分のいる位置が分かりやすい
JR我孫子駅北口からはシャトルバスが出ている
JR我孫子駅北口からはシャトルバスが出ている

(文/桑原恵美子)

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