百貨店の苦戦が続いている。状況を打開すべく、人々の関心が高い「食」への新しいアプローチで集客しようとする百貨店が増えている(関連記事「池袋東武レストランフロアが全面改装、人気パティシエがフルコースに挑戦!」)。そんななか、日本初の百貨店である三越日本橋本店が2016年3月16日、地下食品フロアのメインショップとして新たな食のスペース「自遊庵」をオープンした。
「人々の消費がコンビニやECなど身近で便利な販売チャネルに移っている今、百貨店が生き残るには“買う場所”から“感じる場所”へと変化しなければならない。感性を刺激し、『行くと気分が上がる』と言っていただけるようなフロアにし、食による自己実現、成長を目指す人が集う場所にしたい」(三越日本橋本店 営業統括部長 栗原憲二氏)
同ショップでは“二十四節気” (節分を基準に1年を24等分して約15日ごとに分けた季節の目安)をベースに、2~3週間ごとにテーマを設定。業務用食品メーカーのケンコーマヨネーズ、サントリーなどと協働し、女子栄養大学栄養クリニック監修のオリジナルの「手まり寿司」と「創作和食」コース、甘味、カクテルなどのドリンクを提供するという。
役割分担としては、三越日本橋本店がテーマ食材を設定。それに沿ってケンコーマヨネーズが最新の食のトレンドを反映したメニューを提案し、女子栄養大学栄養クリニックが栄養面や料理の背景といった視点から監修、サントリーは季節に合った創作カクテルを提案していく。同百貨店では自遊庵を“実験ショップ”と位置づけ、今後もさまざまなトライアルをするという。
いったいどのようなフードが提供されるのか。オープン前の内覧会に足を運んで確かめてみた。
甘味としても汁物としても食べられる“ボーダーレス雑煮”!?
自遊庵が設置されているのは、三越日本橋本店地下食品フロアの中央階段横。物販コーナーもあるが、メインとなるのは、21席のカウンター席からなるイートインスペース「自遊庵 嗜み処」。
内覧会で味わうことができたのは「桜カクテル」のほか、「手まり寿司」、「桜鯛の桜香るリゾット」、「桜餅の雑煮」、「桜のロールケーキ」など。手まり寿司は桜の花びらと岩塩をミックスした「桜塩」で食べる。リゾットは桜風味のエスプーマ(泡)と混ぜて味を変化させるなど、趣向をこらしていて面白かった。
あん入りの餅が入った白味噌雑煮は食べたことがあったが、桜餅の雑煮は汁に酒粕が入っていることでさらに甘みが強く感じられ、汁物なのか甘味なのかがボーダーレスな印象(「好みでどちらの食べ方もできるようにした」とのこと)。カクテルコーナーではスタッフがカクテル「桜のしぶき」に使用しているズブロッカ(バイソングラスを漬け込んだウォッカ)の香りをかがせてくれた。ロシアの植物なのに、桜の葉と香りとそっくりなのに驚かされた。
「これまで食品フロアの商品要素は『作る(生鮮食品売り場、グロッサリーなど)』『「食べる」(総菜、スイーツなど)』『贈る(ギフト用スイーツなど)』だった。今後、『体感する』という要素を加えることで、これまでにない食品フロアを作っていけるのではないか」(三越日本橋本店 食品レストラン営業部長の田中清氏)
三越日本橋本店ではこのスペースを中心に、食品フロア全体を同テーマで統一。同スペース利用者を接客スタイリストが案内し、放射状にフロアを回遊させることで買い回りを促進したい考えだ。オープン日3月16日から4月5日までは「桜」がテーマ。4月6日から12日までは「葛」、4月13日から5月3日までは「蕨・寒天」がテーマとなる予定だ。
便利さに“文化”で対抗!?
三越日本橋本店が目指しているのは、体験による食の再発見を通して身近な販売チャネルでは入手できない新たな食のニーズを掘り起こすことなのだろう。そのためのイベントやセミナーも今後、積極的に行っていくとのこと。コンビニやECなど“便利さ”への対抗手段として“文化”を打ち出すのは、老舗百貨店らしい戦略といえる。
気になったのは、“百貨店での消費行動を変える”という大きな目的に対して、21席と席数が少ないこと(予定されているいくつかの無料ワークショップの定員も先着10人)。また百貨店の食品フロアが季節感を重視した商品展開をするのは、ある意味王道。今後、どれだけ思い切った商品展開ができるかが、差別化のポイントとなりそうだ。
(文/桑原恵美子)