外食チェーン大手が相次いで新業態を出店し、餃子ブームも到来するなか、「餃子の王将」を展開する王将フードサービスが、女性狙いの新コンセプト店「GYOZA OHSHO」をオープンした。場所は同社発祥の地、京都のなかでもオフィス街で知られる烏丸御池。近隣で働くOL客やその同伴者などをターゲットに、これまで取り込めていなかった層を開拓するのが狙いだという。
餃子の王将といえば、男性客向けの中華料理店というイメージが強い。料理の量も多めで、女性客にはなかなか入りづらい雰囲気がある。「創業以来、男性には支持されてきたが、女性客はわずか2割。少子高齢化や女性活躍社会が叫ばれているなか、これまで来店してもらえなかった女性が入りやすい店づくりを目指した」と同社の渡辺直人社長は話す。
新店舗では同社としては初めて社外の人材を起用。店舗設計からオリジナルメニュー開発、ホールスタッフ指導まで女性の専門家に依頼し、社内の女子チームも関わった。といっても、奇をてらった店舗ではなく、親しみやすく、温かみのある店という考えは変わらないという。「従来からの男性客にも来てもらえるよう、気軽に入れて価格もリーズナブル、活気のある店といった王将らしさは残している」(渡辺社長)。
GYOZA OHSHO烏丸御池店の初年度売り上げ目標は約1億2000万円。この店舗で運営体制を固めながら店舗開発を進め、2号店は首都圏に出店する。今後、大阪、神戸、福岡、札幌など全国の主要都市にも進出し、1年以内に2ケタの店舗数を目指す。早期に海外にも出店する考えだ。
「油っぽい、床が滑る店」から「女性が自ら行きたくなる店」へ
油っぽくで床が滑りやすい――。これまでの餃子の王将の店舗は男性と同伴や家族全員で行くことはあっても、女性が一人で気軽に入れるような店ではなかった。そこで、新店舗では「女性が自ら行きたくなる店、女子会など女性同士で楽しめる店にした」と、店舗デザインを担当したインテリアデザイナーの折原美紀氏は語る。
まずは清潔感を第一に、白やナチュラルな色を基調にした。「桜や菊、矢羽根文様といった女性好みのかわいらしいデザインで日本らしさもアピールした」(折原氏)。一方、従来の店舗で目立つように張られていたPOP類は一切ない。その代わりにデジタルサイネージを導入し、メニューでも料理情報を丁寧に伝えるよう工夫している。
さらにオープンキッチンには、床に水を流さないドライキッチン方式を新たに導入。衛生的で清潔感のある厨房設備がホールから見えるようになっている。内装には女性らしさを感じさせるきゃしゃなラインを随所に取り入れたという。「女性は居心地の良さや感覚を大事にするので、音楽や光の採り入れ方、お手洗いや接客サービスについても、さりげなさを重視した」と折原氏。
うれしいのは、座席2~3つに一つの間隔でモバイル用コンセントが設置されていること。しかもWi-Fiも完備。一人で入ってもバッテリー切れを気にせずスマホを利用でき、その場で料理の写真をSNSにアップすることもできる。電源やWi-Fiは店選びの時の大きなポイント。居心地の良さはもちろん、実用面でも便利な設備を導入することで、集客力を高めようというわけだ。
トッピングの妙で、餃子がイタリアンに!?
「外食市場では安心、安全、健康、おいしいのバランスがとれた食事のニーズが高まっている」と渡辺社長。同店でも体に優しく、素材や栄養バランスにこだわりながら、見た目もおいしい料理を用意したという。同店限定のオリジナルメニュー開発はバランス料理研究家の小針衣里加氏が監修。大きく2つのポイントに重点を置いたという。
一つは、油が多くて胃がもたれるイメージのある中華料理の概念を払拭するため、「ヘルシーで軽いこと」を意識。軽く仕上がるうえ、胃もたれしにくい国産の米油を炒め物やドレッシングなどに採用している。実際に試食してみたが、どの料理もしつこくなくあっさりして食べやすかった。
2つめは見た目や香り、食感など五感で楽しめること。盛り付けはもちろん、切り方を工夫し、トッピングも数種類用意した。例えば、スープ餃子にはサワークリームと溶かしバター、大葉が添えてある。好みに合わせてサワークリームをスープに溶かし、味見してみると、不思議なことにイタリアンのさっぱりした味付けに変わった。
オリジナル料理には、和と中華の食材を融合したメニューも登場。京都のおばんざいを意識し、オイスターソースや豆板醤、ナンプラーなどの調味料で味付けしたきんぴらや煮物なども味わえる。小針氏一押しの杏仁豆腐や豆乳きな粉プリンなどのデザートは、すべて店内の厨房で一から作っているという。
オリジナルレシピのメニューは20数種類。もちろん、ニンニクの効いた餃子や麺類など従来の定番メニューも味わえる。「目でも楽しんでもらえるよう、王将の定番メニューも器や盛り付け方を変えている。量も女性向けに少なめ」と小針氏。また、いろんな料理を少量ずつ食べたいという要望や酒のつまみにも対応できる「ジャストサイズメニュー」も充実。しかも、価格は従来店と同じ設定。4個入りスープ餃子480円、杏仁豆腐380円と手ごろだ。
仕事帰りのちょい呑みなど酒を飲むシーンが多様化するなか、従来店には置いていないアルコール類も充実させた。女子会の利用を想定し、ワインやウィスキー、日本酒、焼酎、カクテルなど豊富にそろえている。
狙いは「首都圏攻略」
餃子の王将の店舗数は、2016年3月期末で708店舗。2018年までの中期計画では800店舗達成を目指しており、今期は729店舗を計画していたが未達となる。また、直営既存店の売り上げもここ5年間は前年割れが続き、苦戦を強いられている。背景には、外食産業の競争激化に加え、外食市場を侵食するコンビニエンスストアなど異業種の存在があげられるが、それ以上に、女性客の取り込みに出遅れたことも不振の大きな要因なのだろう。
成長を維持するためには「新しい価値創造と従来にない販売チャネルを模索していくことが必要」(渡辺社長)とし、今回の女性向け新業態はその第一歩と位置付ける。新たな顧客の取り込みと同時に、首都圏攻略が一番の狙いのようだ。
現在、首都圏の店舗数は150店舗にも満たない。「出店余地はまだあるが、現状の客単価は1000円未満で投資効率が悪化していた」(渡辺社長)。そこで、新業態では客単価を3倍近くに高め、コストを従来店より2割削減する。具体的には、厨房設備をコンパクトにし、光熱費も抑える。また、自社用に改良した自動餃子焼き機や自動ゆで麺機などを導入。可能な限り調理の省力化を図り、生産性を高めていく。
GYOZA OHSHOの2号店は首都圏の都心部に出店する予定だ。丸の内のオフィス街や二子玉川の住宅街など路面店で現在、物件を探しているという。「高い賃料でも客単価で十分吸収できるはず」と渡辺社長。計画通りにいけば、首都圏を中心に1年間で10店舗以上出店する方針で、昨今の餃子ブームにも一層拍車がかかりそうだ。
(文/橋長初代)