2018年2月1日、ロボットがハンドドリップしたコーヒーを提供するユニークなカフェ「変なカフェ」が渋谷にオープンした。手がけたのはエイチ・アイ・エスで、渋谷モディの地下1階にあるH.I.S.渋谷本店に併設する形での営業となる。

「変なカフェ」(渋谷区神南1-21-3 渋谷モディB1F H.I.S.渋谷本店内)。営業時間は11~21時。定休日は1月1日、そのほかにメンテナンスによる臨時休業あり
「変なカフェ」(渋谷区神南1-21-3 渋谷モディB1F H.I.S.渋谷本店内)。営業時間は11~21時。定休日は1月1日、そのほかにメンテナンスによる臨時休業あり
スタンド形式だが、H.I.S.渋谷本店内のテーブル席を使用できる
スタンド形式だが、H.I.S.渋谷本店内のテーブル席を使用できる

 H.I.S.グループはロボット事業会社「hapi-robo st(ハピロボ エスティ)」と連携し、ロボット、AI(人工知能)、IoT(モノのインターネット化)などの先端技術を利用したさまざまな事業をハウステンボスなどで積極的に展開している。なかでも「変なホテル」は特に外国人観光客に人気で、2018年2月開業の「変なホテル東京 銀座」で東京2拠点目、全国では5拠点目と拡大中(関連記事「『変なホテル』大解剖! 接客ロボットよりすごいものがいっぱい!?」。「『変なホテル舞浜』大解剖! 2軒目で何が変わった?」)。カフェ事業は今回が初参入となる。

 「窓口での旅行の問い合わせは時間を要し、行き先から決める場合は1時間以上かかることが珍しくない。その間においしいコーヒーをよりリーズナブルに楽しんでいただくために、ホテル事業で蓄積したロボットのノウハウを役立てたいと考えた」と同社経営企画本部 広報室の三浦達樹主幹は狙いを語る。

 同店で使用するロボットは、米Rethink Robotics社が開発・生産する、単腕型・高性能協働ロボット「Sawyer(ソーヤー)」と、最大5杯のドリップコーヒーを同時に入れられるバリスタマシンの「Poursteady(ポアステディ)」の2台。さっそく、コーヒーを注文してみた。

本格ドリップコーヒーを入れるロボット「Sawyer(ソーヤー)」。付属の画面に人の表情が映り、「いらっしゃいませ」などの音声で接客してくれる。製造元のRethink Robotics社はルンバでおなじみのiRobot創業者の一人が立ち上げた会社
本格ドリップコーヒーを入れるロボット「Sawyer(ソーヤー)」。付属の画面に人の表情が映り、「いらっしゃいませ」などの音声で接客してくれる。製造元のRethink Robotics社はルンバでおなじみのiRobot創業者の一人が立ち上げた会社

ロボットが接客や洗い物も担当

 券売機で好きなメニューを選んで購入すると、2次元コードリーダー付きのチケットが出てくる。そのチケットを隣の2次元コードリーダーにかざすと、オーダーが終了し、ソーヤーが動きだす。7つある関節を駆使して紙コップをバリスタマシンのポアステディに移し、コーヒー豆をひいて金属製のコーヒーフィルターにセットする。「コーヒーを入れますよ」と客に語りかけながらソーヤーがポアステディのボタンを押すと、お湯が出てきてコーヒーが抽出される。その後、ソーヤーが受け取りカウンターまでコーヒーを運び、お客に「本格ドリップコーヒーが出来上がりました」と知らせるという流れだ。

同カフェの「本格ドリップコーヒー」で使用するコーヒー豆はすべて農園指定で生産者の顔が見えることを重視した「パートナーズコーヒー」。ブラジル、グアテマラ、エチオピアの豆をブレンドし、2段階で焙煎しているという
同カフェの「本格ドリップコーヒー」で使用するコーヒー豆はすべて農園指定で生産者の顔が見えることを重視した「パートナーズコーヒー」。ブラジル、グアテマラ、エチオピアの豆をブレンドし、2段階で焙煎しているという

 オーダーしてからコーヒーを手にとるまでの時間は3~4分。一般的なコーヒースタンドならやや長く感じるが、ロボットの動きを目で追っているうちに、あっという間にできたという印象だ。ロボットの作業をハンドドリップと呼んでいいのかは微妙な気もするが、目の前でコーヒーをひき、フィルターを通してドリップしてくれているのは間違いない。また、コーヒーは文句のない味だった。

 コーヒー提供後は、フィルター内のコーヒー豆を捨て、フィルターを洗って元の場所に戻すところまでソーヤーが担当する。最初は少し怖かった触手のような動きが、最後にはかわいらしく見えてくるから不思議だ。三浦主幹によると、通常のカフェなら最低でも2~3人のスタッフが必要だが、ロボットを使った業態なら備品の補充などごく限られた範囲をサポートするだけで済む。「初期投資はかかるが人件費が抑えられる。そのため、コーヒーをリーズナブルな価格で提供できる」(三浦主幹)という。

 旅行窓口に来店する客へのサービスが目的なのであれば自動販売機や給茶機などを置くという手もある。だが、変なカフェの最大の狙いは話題性による集客だ。変なホテルは、開業以来、連日のように海外メディアが取材に訪れるという。変なカフェもホテル同様に注目を浴びることだろう。

メニューはソーヤーがハンドドリップする「本格ドリップコーヒー」(税込み320円、以下、価格は全て税込み。サイズはMのみ)のほかに「アメリカーノ」(290円)、「カフェラテ」(380円)、「カプチーノ」(380円)、「ココア」(380円)、「カフェモカ」(410円)、「抹茶ラテ」(410円)の6種類。本格コーヒー以外のメニューなら2~3分で提供できるとのこと
メニューはソーヤーがハンドドリップする「本格ドリップコーヒー」(税込み320円、以下、価格は全て税込み。サイズはMのみ)のほかに「アメリカーノ」(290円)、「カフェラテ」(380円)、「カプチーノ」(380円)、「ココア」(380円)、「カフェモカ」(410円)、「抹茶ラテ」(410円)の6種類。本格コーヒー以外のメニューなら2~3分で提供できるとのこと
ドリンク提供後には後片付けも行う
ドリンク提供後には後片付けも行う

産業用ロボットの可能性を探りたい

 狙いはほかにもある。ハピロボ エスティのシニアディレクター・ITの中野浩也氏は「変なカフェを通してアームロボットの小売店における活用、ロボットを利用した生産性の向上、さらに、カフェとして採算が取れるかどうかを追求したい」と説明する。

 ソーヤーは工場のラインで働くために開発されたロボットだが、ユーザーインターフェースと操作ボタンが非常に分かりやすいこと、さらに専門的なプログラミングが不要でロボットの腕を直接持って動かすことで動きを教えられるのが特徴だという。さらに「動作中に『顔』になるタブレット画面、ロボットのカラー、特徴のある造形がカフェでの作業に適している」とも中野氏は話す。また、ソーヤーは通るべき地点だけ指定すれば、AIによって効率的なルートを自分で見つけるとのこと。つまり作業時に最短距離を「自分で考えて動けるロボット」なのだ。

動作中に「顔」になるタブレット画面など、親しみやすいデザインもソーヤーが採用された理由の1つだという
動作中に「顔」になるタブレット画面など、親しみやすいデザインもソーヤーが採用された理由の1つだという

 だが、ロボットにも弱点がある。中野氏によると、左右に開くだけの機構で異なるサイズのものをつかむのは非常に難しいことなのだという。そこでカップとドリッパーの両方をつかめるように、ドリッパーに特注の筒をかぶせてカップと同じ幅にした。ロボット側の設計を変えるのではなく、つかむ対象をロボットの仕様に合わせることで問題を解決したというわけだ。

ソーヤーのアームの先端。異なるサイズのものをつかめないのでドリッパーに筒をかぶせてカップと同じ幅にしている
ソーヤーのアームの先端。異なるサイズのものをつかめないのでドリッパーに筒をかぶせてカップと同じ幅にしている

 今後の展開について、三浦主幹は、「現時点ではまだ具体的な予定は決まっていないが、H.I.S.の他店舗や変なホテルでも展開をしていきたい」と話した。

(文/桑原恵美子、写真/熊坂勉)

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