2015年10月15日、東京・渋谷にライスサンド専門店「ファンガス・ライス・サンドウィッチーズ(以下、F・R・S)」がオープンした。同店のライスサンドは、炊いた雑穀米を高圧でプレスし、こんがり焦げ目をつけた「おこげシート」にキノコや納豆などをサンドしたものだ。

 実は同店を展開するのは、吉野家ホールディングスグループで讃岐うどんチェーン「はなまるうどん」を運営するはなまる(東京都中央区)。“米飯を使った世界初の低カロリーファストフード”をうたう。

 「外食でも無理なく手軽にカロリーコントロールが可能であり、単品なら500円から食べられる」(はなまる 新規ビジネス創造本部 新規プロジェクト室 F・R・S青山店 浜田常吉スーパーバイザー)。早くも2016年1月19日にはハワイに海外1号店「ヘルシー・ライスタコス・トーキョー」を出店。2016年4月ごろからおこげシートのみの通販もスタートさせるという。

 讃岐うどんのはなまるがなぜ畑違いの新業態に乗り出したのか。またおこげシートを使用したライスサンドとはいったいどんなものなのか。

ライスサンド専門店「ファンガス・ライス・サンドウィッチーズ」(東京都渋谷区渋谷2-9-11 インテリックス青山ビル1階)。店名の「ファンガス」はラテン語でキノコの意味
ライスサンド専門店「ファンガス・ライス・サンドウィッチーズ」(東京都渋谷区渋谷2-9-11 インテリックス青山ビル1階)。店名の「ファンガス」はラテン語でキノコの意味
席数は15で、営業時間は平日10~20時、土曜11~18時、日祝11~15時。
席数は15で、営業時間は平日10~20時、土曜11~18時、日祝11~15時。
同店の看板商品で、店名の由来にもなっている「きのこタマゴ」(税込み550円、256kcal)。100円追加で各種野菜、キノコ、きんぴら、納豆、焼肉、カレー風味チキン、ツナのいずれかをトッピング可能
同店の看板商品で、店名の由来にもなっている「きのこタマゴ」(税込み550円、256kcal)。100円追加で各種野菜、キノコ、きんぴら、納豆、焼肉、カレー風味チキン、ツナのいずれかをトッピング可能

驚がくのかみ応えで意外な満腹感!?

 店舗は青山通りに面していて、渋谷駅の宮益坂口から徒歩10分、表参道駅から徒歩7分の距離。近くに青山学院大学のキャンパスがあるが、人通りはそれほど多くない。筆者が訪れた日は女性客2人のみ。看板商品である「きのこタマゴ」を注文すると、2~3分であふれるほどのキノコソテーをサンドした商品が出て来た。

 まず、おこげシートを単独で味わってみる。見た目は軟らかそうだが、ひとくち食べて弾き返すような力強いかみ応えに驚いた。かみしめるとモチモチした食感で、おこげの香ばしさ、米の甘さが感じられる。半割りのマッシュルームをはじめ、大きくカットしたキノコ類のソテーも食べ応えがあり、見た目よりずっとボリューム感があった。

 続いて、米と相性の良さそうな「納豆タマゴ」を食べてみた。相性の良さは想像以上で、かまど炊きご飯のおこげの部分で納豆ご飯を食べているような感覚。しかし際立つのは、やはりおこげシートのかみ応え。このかみ応えのせいか、食べ終わったあと、意外に満腹感があった。

まず「きのこタマゴ」(税込み550円)を注文。おこげシートはモチモチした食感でかみごたえ抜群。炒めた大きなマッシュルーム、シメジ、エノキがたっぷり。そのほか各サンド共通の素材として、トマト、ピーマン、レタス、タマネギが入っている
まず「きのこタマゴ」(税込み550円)を注文。おこげシートはモチモチした食感でかみごたえ抜群。炒めた大きなマッシュルーム、シメジ、エノキがたっぷり。そのほか各サンド共通の素材として、トマト、ピーマン、レタス、タマネギが入っている
「きのこタマゴ」と「彩りビーンズサラダ」(税込み180円、セットだと税込み150円、80kcal)、「太陽のマテ茶」(税込み180円、セットだと税込み150円)をセットにすると合計850円
「きのこタマゴ」と「彩りビーンズサラダ」(税込み180円、セットだと税込み150円、80kcal)、「太陽のマテ茶」(税込み180円、セットだと税込み150円)をセットにすると合計850円
おこげシートと相性抜群の納豆をサンドした「納豆タマゴ」(税込み500円、279kcal)。「日本人になじみのある味に仕上げ、満足感を追求した」とのことで、想像以上の相性の良さに驚いた
おこげシートと相性抜群の納豆をサンドした「納豆タマゴ」(税込み500円、279kcal)。「日本人になじみのある味に仕上げ、満足感を追求した」とのことで、想像以上の相性の良さに驚いた

うどんでは“ヘルシー化”に限界!?

 現在、はなまるが好調な理由のひとつが、健康志向を強く打ち出していること。例えば2011年夏、オルニチンをだしに用いた新商品「しじみひやかけ」を期間限定で発売。2013年4月には全ての麺を1玉あたりレタス1個分の食物繊維を含むものに変更した。さらに2015年4月には、油分を最大4割カットした「ヘルシー天ぷら」を発売するなど、さまざまな試みを行っている。

 しかし、既存のうどん商品ではどうしてもヘルシー感に限界がある。そこで違う発想でトライしてみたいと考えたとき、着目したのが「米」だったという。

 「欧米では米はヘルシーな食材ととらえられていて、ドイツでは健康志向が強い層におにぎりが人気となっている。そこで海外でも勝負できる“和のファストフード”を米を使って作りたいと考えた」(はなまる 新規ビジネス創造本部 冨田数英 新規プロジェクト室長)。満腹感を得るために丼物と同じくらい米を使うと、最低でも600~700kcalになってしまう。はなまるうどんではカロリーを抑えつつ栄養バランスを整えるために雑穀ご飯を出しているが、味に抵抗を感じる人もいたという。どうしたらおいしく食べてもらえるかを研究した結果、薄いシート状にしてこんがり焼き上げる方法に行きついたそうだ。

 圧縮して焼き固めているとはいえ、おこげシートは具の水分を吸うと崩れやすくなるため、粘度の高いソースを使用し、野菜にはドレッシングではなくぽん酢ジュレを使用するなど、工夫を凝らしている。にもかかわらず、オープン直後にはテイクアウト後に時間がたつと崩れる場合があることが判明。そこで、外側にライスペーパーを使用するようにした。

 また具材で重視したのは、ヘルシーであってもしっかりした味付けであること。全てのメニューの下味に使用しているオリジナルソースは、のりの佃煮にはなまるうどんで使用しているしょうゆをブレンドしたもの。焼き上がったライスシートの上に下味のオリジナルソースを塗り、野菜、ポン酢ジュレをのせ、具をのせて最後にマヨネーズで味をまとめている。ちなみに使用している野菜は全て国産、マヨネーズは65%カロリーオフ、ベーコンは糖質ゼロ、のりの佃煮も減塩タイプを使用しているという。

左はおこげシート、右は店内で炊き上げている雑穀ご飯。雑穀ご飯は白米にコンニャクの加工品であるマンナンライスを50%、食感の物足りなさを補うために麦、アワ、キビ、玄米、コーングリッツの五穀を加えている
左はおこげシート、右は店内で炊き上げている雑穀ご飯。雑穀ご飯は白米にコンニャクの加工品であるマンナンライスを50%、食感の物足りなさを補うために麦、アワ、キビ、玄米、コーングリッツの五穀を加えている
店内で炊き上げ、小さな茶碗に盛ったご飯をプレスし、シート状にする。その上にライスペーパーをのせて、プレスしながら5分ほどこんがり焼き上げている
店内で炊き上げ、小さな茶碗に盛ったご飯をプレスし、シート状にする。その上にライスペーパーをのせて、プレスしながら5分ほどこんがり焼き上げている
おこげシートの外側がライスシートになっているので、時間がたっても崩れにくい
おこげシートの外側がライスシートになっているので、時間がたっても崩れにくい
全てのメニューの下味に使用しているオリジナルソース(のりの佃煮にしょうゆをブレンドしたもの)。これだけでもご飯が進みそうな味で、おこげシートとの相性は抜群
全てのメニューの下味に使用しているオリジナルソース(のりの佃煮にしょうゆをブレンドしたもの)。これだけでもご飯が進みそうな味で、おこげシートとの相性は抜群

若い女性よりオジサンに受けている!?

 話を聞いていると、ヘルシーさや味に工夫を凝らした商品であることが分かるが、オープンして3カ月たった今も、「今までにない業態なので知ってもらうのが難しく、やや苦戦している」(浜田氏)という。またオープン前は健康とダイエットに興味のある20~30代女性をターゲットに考えていたが、通りを歩いている人の約7割が健康よりもボリューム重視の学生。ターゲットを見誤ったことも、認知度がなかなか上がらない理由のひとつのようだ。

 しかし、明るい展望もある。グルーポンに参加してみたところ、意外な結果が出た。40代男性が全体の利用者の3分の1、30~50代が全体の7割を占めていたのだ。「リピート客の半数以上は生活習慣病を気にしていて、経済的にややゆとりのある30代以上の男性だった。予想していたよりターゲット層は広かった」(冨田室長)。「青山は女性客が多いイメージが合ったが、オフィスも多く、意外に男性も多いことに気がついた」(浜田氏)。見た目はボリューム不足に感じるが、おこげシートにかみ応えがあるせいか、食べてみると意外に腹持ちがいいことも、男性リピーターが多くついた理由のひとつではないかという。

 また、2015年にヨガイベントで無料サンプリングを行った際も、約3割が「家でもこのおこげシートを使って料理をしたい」と答えたという。「こうした調査では、約1割のアクティブユーザーがいれば成功といわれており、非常に大きな手応えを感じた」(冨田室長)。おこげシートは1枚108kcalと低カロリーで、残り物を挟めば手軽にヘルシーなランチメニューが完成するため、主婦に受けそう。おこげシートの通販がスタートすれば、ここからブレイクする可能性もありそうだ。

ベーコン、大きめにカットした野菜が入った「トマト風味スープ」(税込み200円、30kcal)
ベーコン、大きめにカットした野菜が入った「トマト風味スープ」(税込み200円、30kcal)
左は国産キャベツとタマネギ、ニンジンが入っている「ピクルスサラダ」(180円、52kcal)。酸味がほとんどなく、甘口で食べやすい。、右は一番人気のドリンク「カシスビネガー入り炭酸水」(税込み180円)。さっぱりした味わいで食中にぴったり
左は国産キャベツとタマネギ、ニンジンが入っている「ピクルスサラダ」(180円、52kcal)。酸味がほとんどなく、甘口で食べやすい。、右は一番人気のドリンク「カシスビネガー入り炭酸水」(税込み180円)。さっぱりした味わいで食中にぴったり

(文/桑原恵美子)

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