11月8日、NTTドコモ(東京都千代田区)が新たに打ち出したプロジェクト「FUTURE-EXPERIMENT」は、NTTグループの最新技術を駆使し、新しい体験を伴うエンターテインメントに挑戦するというものだ。この企画の第1弾「VOL.01 距離をなくせ。」として、女性歌手グループPerfumeのパフォーマンス映像を特設サイトでストリーミング配信した。Perfumeのメンバーは世界の3都市に分かれてダンスパフォーマンスを披露し、それをリアルタイムで1つの映像に合成してネット配信するという試みだ。

 このプロジェクトには、次世代の通信方式「5G」の実力とその存在をアピールする狙いがあったようだ。かつて「3G」から「4G」へ移行した際は、ここまで大規模なプロモーションは見られなかった。なぜ、ドコモは5Gのアピールにこれほどまでに力を入れているのだろうか。そして、どのような形で5Gが使われていたのか。

世界3都市でのパフォーマンスをリアルタイムで合成

 VOL.01 距離をなくせ。では、Perfumeの3人が東京、ニューヨーク、ロンドンの3都市に分かれて同時にパフォーマンスを披露し、その映像を次世代通信方式の5Gなど、さまざまな最新テクノロジーを用いて1つにまとめ、ストリーミング配信した。3カ所で撮影された映像をリアルタイムに合成・加工することで、距離を超えたライブパフォーマンスが実現したわけだ。

 筆者も東京の会場を訪れたのだが、目の前でパフォーマンスしているのはあ~ちゃん1人だけ。ところが途中からロンドンで撮影されているかしゆかと、ニューヨークで撮影されているのっちの2人が映像上に現れ、息の合ったパフォーマンスを繰り広げる3人の姿を楽しむことができた。

NTTドコモによる「FUTURE-EXPERIMENT」の第1弾は、Pefumeとのコラボレーション。異なる場所でパフォーマンスを披露する3人の映像をリアルタイムで合成し、1つの映像としてストリーミング配信した (c)docomo FUTURE-EXPERIMENT VOL.01 距離をなくせ。
NTTドコモによる「FUTURE-EXPERIMENT」の第1弾は、Pefumeとのコラボレーション。異なる場所でパフォーマンスを披露する3人の映像をリアルタイムで合成し、1つの映像としてストリーミング配信した (c)docomo FUTURE-EXPERIMENT VOL.01 距離をなくせ。
Perfumeの3人がそれぞれ東京、ニューヨーク、ロンドンの3都市でパフォーマンスを披露した (c)docomo FUTURE-EXPERIMENT VOL.01 距離をなくせ。
Perfumeの3人がそれぞれ東京、ニューヨーク、ロンドンの3都市でパフォーマンスを披露した (c)docomo FUTURE-EXPERIMENT VOL.01 距離をなくせ。

 このストリーミング配信のポイントは、各都市にいる3人の映像をタイムラグなしで合成してパフォーマンスを表現できたこと。通常のインターネット配信では、距離や通信上の仕組みから生じるネットワーク遅延の影響で、映像にずれが生じてしまうのだ。実際、その後に通常のインターネット回線で配信された3人のトークでは、ネットワーク遅延の影響で会話がかみ合わないことが何度かあった。

 一方、今回のパフォーマンスのために特別に設けられたネットワークでは、無線回線を経由しているにもかかわらず、遅延のないライブ映像が配信された。その実現に大きく寄与したのが5Gをはじめとする最新技術だ。

東京の会場にいるのは1人だけだが、他の2人のパフォーマンスも会場の映像で確認できた (c)docomo FUTURE-EXPERIMENT VOL.01 距離をなくせ。
東京の会場にいるのは1人だけだが、他の2人のパフォーマンスも会場の映像で確認できた (c)docomo FUTURE-EXPERIMENT VOL.01 距離をなくせ。

ネットワークに5Gを用い「低遅延」をアピール

 今回のストリーミング配信は、ニューヨークとロンドンの映像および音声を、専用のネットワークを通じて東京の会場に送り、それらを東京でのパフォーマンスと合成して配信する仕組みになっている。そこに用いられている技術は大きく2つある。

 1つは、NTTグループが研究を進めている、あたかもその場にいるかのような臨場感を実現するという伝送技術「Kirari!」。今回はその中核となる映像・音声の同期技術「Advanced MMT」を用いることで、遅延のない映像を実現したという。

 そしてもう1つは、次世代の通信方式である5Gだ。実はニューヨークのネットワークはすべて固定回線を利用していたのだが、ロンドンは固定回線に加えて、会場に設けられた5Gの試験ネットワークを間に挟む構成だった。あえて5Gを挟んだのは、その特徴の1つである「低遅延」の実力をアピールする狙いがあったという。

ロンドンの会場の一画に設置された5Gの基地局。28GHz帯の電波を用いている。写真は11月8日の「FUTURE-EXPERIMENT VOL.01 距離をなくせ。」より
ロンドンの会場の一画に設置された5Gの基地局。28GHz帯の電波を用いている。写真は11月8日の「FUTURE-EXPERIMENT VOL.01 距離をなくせ。」より
十数メートル離れた位置で基地局からの電波を受信していた5Gの移動機。通信速度は常時10Gbps前後を保っていたようだ。写真は11月8日の「FUTURE-EXPERIMENT VOL.01 距離をなくせ。」より
十数メートル離れた位置で基地局からの電波を受信していた5Gの移動機。通信速度は常時10Gbps前後を保っていたようだ。写真は11月8日の「FUTURE-EXPERIMENT VOL.01 距離をなくせ。」より

 5Gは下り最大20Gbpsの高速・大容量通信だけでなく、1平方キロメートルの範囲内で100万台もの端末を同時接続できる「多接続」、そしてネットワーク遅延が0.5ミリ秒と小さいことも大きな特徴。そのため5Gは、自動運転や遠隔医療など、遠隔地から機器を操作する目的での利用が期待されている。繊細な操作が求められる場面ではネットワーク遅延によって機器の操作にずれが生じると、大きな事故にもつながりかねないからだ。

 もっとも5Gによる商用サービスはまだ始まっておらず、現状は試験的な利用にとどまる。今回5Gが用いられた区間も会場の端から端まで、せいぜい数十メートル程度の距離だ。ところが仮にこの区間を現在主流の4Gに置き換えた場合、50ミリ秒ほど、つまり100倍近いネットワーク遅延が発生するという。今回のライブ配信でロンドンからの映像に遅延が生じなかったことは、5Gが固定回線並みの低遅延を実現していることを証明していると言えよう。

5Gの機運を高めるNTTドコモの模索

 FUTURE-EXPERIMENTプロジェクトは今後も継続していく。そこにはやはり、NTTドコモがいま最も力を入れている5Gの実力をアピールする内容が盛り込まれるようだ。ちなみにドコモは、今回のストリーミング配信の翌日の11月9日から11日まで、東京都江東区にある日本科学未来館で5Gをテーマにした最新技術の展示・体験イベント「見えてきた、“ちょっと先”の未来~5Gが創る未来のライフスタイル~」も開催していた。同社が5Gのプロモーションに熱心な様子がうかがえる。

11月9~11日に開催された「見えてきた、“ちょっと先”の未来~5Gが創る未来のライフスタイル~」では、低遅延を生かしてロボットを遠隔操作するデモなども披露された。写真は同イベントより
11月9~11日に開催された「見えてきた、“ちょっと先”の未来~5Gが創る未来のライフスタイル~」では、低遅延を生かしてロボットを遠隔操作するデモなども披露された。写真は同イベントより

 ドコモが5Gのプロモーションに力を入れているのは、2020年の東京五輪に合わせて5Gの本格導入を目指しているからだ。とはいえ、かつて3Gから4Gへ移行した際は、これほど大規模なプロモーションは実施していなかった。

 その違いは、5Gに対して利用者の関心が高まっていないという背景がありそうだ。通信速度が飛躍的に向上するという明確なメリットがあった4Gに関しては、スマートフォンの通信が高速になるという利点があったことから高い関心が寄せられており、積極的にアピールしなくても認知を得られていた。ところが現在は、4Gで既存のネットサービスを利用するのに十分な通信速度を得られるため、大きな不満が生まれていない。だから、わざわざ5Gに移行する必要性は乏しいというのが正直なところだ。

 ドコモは、5Gだからこそ実現できる新規性を積極的にアピールしてユーザーの関心を高めようと考えているように見える。しかし、5Gを使いたいと思わせるキラーデバイスやサービスはまだ登場していない印象だ。利用者の関心を高めるためのドコモの模索は、今後もしばらく続きそうだ。

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