エリア整備への真摯な姿勢が問われる

 三木谷氏は「Mobile World Congress」で携帯電話事業参入の勝算について聞かれた際、「勝算がなかったら始めないでしょう?」と、参入に強い自信を持っている様子を見せた。それでもなお懸念がつきまとうのは、冒頭でも触れた通り、圧倒的に不利な状況からのスタートとなるからだ。

 特に多方面から懸念の声が上がっている資金面を見てみよう。楽天の2017年度通期および第4四半期決算に関する公開資料や説明会のオンデマンド配信の内容を見ると、同社が調達するとされる6000億円前後の設備投資でも、全国をカバーするのに十分としている。元イー・アクセス(現在はソフトバンクのワイモバイルブランド)やUQコミュニケーションズ(東京・港)などが、4000億円から5000億円の投資額で全国をカバーするネットワークを構築していたというのがその根拠のようだ。

 また三木谷氏は自社の携帯電話事業を格安航空のLCC(ローコスト・キャリア)になぞらえ、「プランやネットワーク構成をシンプルにすることで投資額を安くする」と述べている。大手3キャリアと違って3G通信に向けた投資や古い設備の更新が必要ないこと、数年後のユーザー数を1500万人としているため既存キャリアほどのキャパシティーが必要ないことを、投資額を抑えられる要因と考えているようだ。

 また時間がかかるエリア整備に関しては、数年間は既存キャリアにネットワークを借り、徐々にカバー率を広げていく方針だとしている。かつてイー・アクセスとのローミングを実施していたNTTドコモの吉澤和弘社長は1月30日の決算説明会で、楽天からのローミングが要請があった場合の対応について「真摯に交渉に応じる」と話している。そうした状況を見ても、他社のネットワークを当面利用するハードルは高くないため、戦略的には妥当だと言えそうだ。

 ただし、楽天がイー・アクセスやUQコミュニケーションズの事例をエリア整備の基準としている点については、過去を振り返ると気になる部分が多い。というのも、両社とも全国カバーを実現したといってもなお、大手キャリアと比べてエリアカバーの面で不足していると感じさせる部分が少なからずあったからだ(関連記事:モバイルデータ通信で見る、地方都市のモバイルインフラ事情)。しかもUQコミュニケーションズの「UQ WiMAX」は現在もなお、KDDIのネットワークを同時に用い、UQコミュニケーションズ側のインフラではカバーし切れていないエリアを補う「ハイスピードプラスエリアモード」を提供しているのが実情だ。

UQコミュニケーションズの「UQ WiMAX」用Wi-Fiルーターの多くには、現在もKDDIのネットワークを利用することで不足するエリアをカバーする「ハイスピードプラスエリアモード」が用意されている。写真は2017年10月23日の「UQ体験会」より
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 エリアがカバーできないということは、通信ができないということで、ネットワークの品質の面では通信速度より影響が大きい。それがたとえ収益性の低い地方でも、利用者がいる限りは手を抜けない。投資コストを抑え、効率化を重視するだけでなく、顧客の声を聞き、真摯な姿勢で地道な整備を進められるかが、楽天の携帯電話事業の評価を大きく分けることになると筆者はみている。

著 者

佐野 正弘(さの まさひろ)

 福島県出身、東北工業大学卒。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手がけた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在では業界動向からカルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手がける。