島根県浜田市弥栄町――。2005年に浜田市と合併するまで、弥栄村として長い歴史を刻んでいた。

 「弥栄に生まれ育った人は、今も弥栄に強い誇りと愛着があります。だから、合併後も弥栄という名前をアピールしていきたい。そんな思いから、“弥栄”の名を冠したブランド米を作りたいと思ったんです」と語るのは、奥島根弥栄事務局長の田中稔夫さん。弥栄町民の思いが詰まった新品種「秘境 奥島根 弥栄」を取材した。

島根県浜田市弥栄町。中国山地のなだらかな丘陵地に広がる人口約1300人の小さな町
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知名度は低く、観光客は少ないがその分、手つかずの自然が残る。町では農林業に従事する人が多い
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“何もない田舎町”ゆえの強み

 弥栄町は人口わずか1300人の小さな町。約9割を山林が占め、農林業が主な産業になっている。

 「弥栄は何もない田舎町です。観光資源も乏しく、山が多いのに滝ひとつない。町の知名度も低いでしょう。県内でも“やさか”と読めずに、“やえい”と言ってしまう人がいるくらいです」

 観光資源は少ないが、恵まれた気候と土壌を生かして、古くから米づくりが盛んに行われてきた。

 「弥栄町は海抜100~900メートルの山間の町で、400メートル前後の土地を中心に田んぼを開いてきました。昼夜の寒暖差が大きく、お米がいい具合に登熟する。米の名産地として知られる新潟県の魚沼地区と比べても、そん色ない土地といえます」

昼夜の寒暖差が大きく、米の栽培に適した弥栄
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 島根県のブランド米としては、仁多郡で生産されるコシヒカリ「仁多米」が有名。日本穀物検定協会の米食味ランキングで特Aを獲得し、「東の魚沼産、西の仁多米」と称されることがあるほど評価が高い。

 「弥栄でもコシヒカリを栽培しており、『仁多米と変わらないおいしさだ』と言われます。でも、ブランド力ではまったくかなわない。そこで、町ぐるみでブランディングに乗り出すことを決意しました」

 そうして生まれたのが「秘境 奥島根 弥栄」。何もないことをアピールしようと、あえて“秘境”とうたった。

 「秘境という言葉には、町民の決意が表れています。これからも秘境を守り続け、今までと同様に丁寧な農業を続けていこうという気持ちです」

「秘境 奥島根 弥栄」の収穫風景
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「秘境」であることに誇りを持ち、丁寧な米づくりをしていきたい。そんな町民の願いを込めて、「秘境 奥島根 弥栄」と名付けられた
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