50~60歳代を中心とした「目利き世代」をターゲットに、パナソニックが生活家電製品「Jコンセプト」シリーズを発売してから1年以上が経過した。3万人以上の家電に対する調査やユーザーテストを実施して、ターゲットが求める機能を絞り込んだだけでなく、「日本の美」を強く意識したシンプルなデザインが受けてヒットしている。では、Jコンセプトはどのように生まれたのか。ヒットした要因は何なのか。TRENDY EXPO TOKYOの登壇を前に「Jコンセプト」シリーズのマーケティングを担当する古長亮二氏に話を聞いた。
「マイナスのものづくり」への取り組み
――2014年9月に「Jコンセプト」を発表してから1年が経過しました。これまでの市場の反応や手応えはいかがでしょうか。
古長亮二氏(以下、古長): 想像以上に良い反応をいただいていると思います。高価格帯中心のシリーズにも関わらず、第1弾として発売した本体重量が世界最軽量の掃除機(2014年11月発売の「MC-JP500G」)や、9月に発売したばかりの小容量タイプ(3合炊き)の炊飯器(SR-JX055)を中心にかなり好調に推移しています。
――エアコンについてはハイエンドモデル=Jコンセプトモデルという位置付けになっています。しかし冷蔵庫などは通常のモデルとは違って野菜室が真ん中に配置されており、「真ん中野菜室の冷蔵庫が欲しい」というシニア以外のユーザーニーズもしっかり押さえているような印象を受けます。
古長氏: 50-60代の方が冷凍室よりも野菜室の使用頻度やニーズの高いことから「野菜真ん中」のレイアウトになりました。野菜室の配置というのもありますが、当社としては「4ドア」を採用したのが最も大きなトライアルでした。
今回のJコンセプトモデルのものづくりのアプローチの中で、約3万人のお客様の声を聞きながら、「技術シーズ」より「顧客ニーズ」を優先してものづくりをしました。その中の大きな取り組みとして、「マイナスのものづくり」があります。
例えば冷蔵庫の場合、市場では6ドアが中心なのに対し、4ドアを採用しました。掃除機に対するお客様のニーズが「軽さ」にあることがわかったことで、吸込みのパワーではなく小型軽量化を追求しました。多機能を追求するのではなく、お客様の使いやすさやデザイン性を優先し、割り切っていくのです。
――機能や性能を“足す”のではなく、“引く”ということですね。
古長氏: そうです。ものづくりをしているメーカーにとっては、お客様にマイナスの印象を持たれるのではないかと、とても怖いことです。
あくまでもお客様の声を聞き、そこに思い切って特化した商品が売れているように思います。例えば掃除機の場合、軽さを追求したことで、新素材の採用や軽量モーターの新開発が可能になりました。そういったところに徹底的にこだわったところが、受け入れられたポイントではないかと思います。
――購入されているのは、狙い通りシニア層が中心になっているのですか?
古長氏: 50-60代が中心であることは確かですが、それに加えてそこに価値があると感じた方、30代、40代の若い方も含めて広がりを見せてきています。
製品作りの“原点”に立ち返る
――パナソニックはそもそも、ユーザーの声を日頃から聞いて製品作りに反映しているのではないかと思います。そこでさらにシニア世代の意見を聞き、その意見を徹底的に反映して機能を絞り込んだ製品をつくるという発想の源泉はどこにあったのでしょうか。
古長氏: 高齢化が進む中で大きなニーズや市場があるという考えの中で、そこにアプローチしようというのがスタートです。その背景の一つとして、パナソニックが苦しい時期を迎えていたということが挙げられます。
海外メーカーなどが多数国内に入ってきて、日本のお客様のニーズに合ってきており、当社はシェアを含めて苦しい時代でした。我々としてはお客様の声を聞いていたつもりでしたが、結局は競合他社を見ていたり、“家電村”の中でだけ満足していたのではないかという反省のなかから、原点に戻って市場の声を聞いていこうと考えたのです。
――実際にどのようにニーズを調査したのですか?
古長氏: 皆さんに自慢できるようなものはなくて……。詳しくはTRENDY EXPOのセッションでお話をできればと思います。
――「日本の美意識」も大きなテーマとして掲げられていますね。
古長氏: そうです。「日本」への思いを込めることにして、日本の美、和柄などをしっかり取り入れようと考えました。
50-60代の「目利き」世代をターゲットにしようという思いと、日本市場のお客様の暮らしに本当に役に立ちたいという思いのどちらが先というより、両方が結びついたのが「Jコンセプト」という形になったのではないかと思います。
――紙パック式掃除機には軽さと強度を追求するうえで「綾織」を採用し、炊飯器やオーブンレンジ、冷蔵庫にはデザインとして「豊穣柄」を採用しています。こうしたディテールまで追求しつつ、シンプルなデザインも受け入れられているようですね。
古長氏: もちろんそこで慢心してはダメなのですが、開発メンバーのみんながホッとしたと思います。日本市場の中でパナソニックがまだ必要とされているところがあると、みんなの中で再認識できたのは大きな収穫でした。
今回の「Jコンセプト」シリーズのデビューにあたって、最大のポイントは「ターゲット感」をどう表現するかということでした。最初は「シニア世代」としていましたが、外部の声を聞く中で最終的に「目利き世代」と改めました。
「目利き世代」とはシニア世代をもう少しセグメントした言葉かと思いますが、いろいろな経験を経てものを見る目を持ち、自分の好みを知っている方々ということでアプローチすることにしました。
――「目利き世代」というのは、要するに「違いのわかる大人」といった感じですね?
古長氏: まさに、コーヒーのテレビCMの話も出ながら、「ああいうことなんだよね」といった議論をしました。
当時は目利きでいいかな、お客様に伝わるかなという不安はありましたが、最近の調査ではJコンセプトのロゴ認知も16%ぐらいまで上がってきました。Jコンセプトのどういったところを認知しているのかという調査でも「50代、60代の目利き世代向け」というターゲット感が上位に来ていたので、少しずつ確実に浸透してきているのではないかと思っています。
(構成/安蔵靖志、写真/中村宏)