大阪府のものづくり産業活性化のため、大阪府の経営支援課長が自ら、年間100回を超えるセミナーを主宰。異業種企業とのマッチング、通販サイトや百貨店催事を使った消費者ニーズの吸収と製品化などで、地元企業に「売り上げアップ」をもたらす領家さん。「TRENDY EXPO」登壇を前に、地域企業活性化のためのポイントを聞いた。

領家 誠氏
領家 誠氏
大阪府商工労働部中小企業支援室経営支援課長。 1987年に大阪府に入庁し、2010年にものづくり支援拠点MOBIOをオープンさせ、年間100回を超えるものづくり企業の交流の場MOBIO-Cafeを主宰。2010年には、大阪の消費財のネットショップ「大阪ミュージアムショップ」などを企画した大阪府ネット通販プロジェクトチーム長。2014年に、地域の企業を発掘・育成する活動である大阪版エコノミック・ガーデニング「EGおおさか」を創設。プライベートでも、関西ネットワークシステム世話人、まちライブラリー@府大サポーターなど産学公民の連携による地域活性化活動を実施している。

――地域の経営者支援というと、自治体の補助金事業として財団法人などが担当する間接支援が多いようですが。

領家 誠さん(以下、領家): 補助金事業の場合、その補助金の用途が決まっているので、「いろいろなこと」に手を出すのが難しくなります。ものづくり産業の支援担当になったときに、地元企業が何を課題にしているのか理解しようと思い、100社ほどヒアリングに回りました。その結果、課題は非常に多岐に渡ることが分かったのです。そこで、これは行政側、つまり自分が動いて解決策を作っていかなければと、思ったのです。

地元企業の話を聞く、ここから始まった

――地元企業からは、どのような要望が?

領家: これまで、大阪府の担当者が地元企業を訪問する場合、行政側が考えた施策の説明やPR活動がほとんどで、経営の実態を聞くということはほとんどなかったのです。もちろん、各社から課題を聞いても、そのすべてを解決できるわけではありません。それでも、府の担当者が直接来て、話を聞いて、一緒に問題解決の策を考えようという姿勢は必要だと思ったのです。たとえ解決できなくても、「課題を話すところもないのはおかしいのでは」と。

 現在も経営支援課では「問い合わせや相談は断るな」と指示しています。私たちが訪問できる企業数は限られています。それだけに、先方からわざわざ問い合わせてきているのだから、それが担当業務と違った内容であっても、まず話を聞こうというスタンスを守りたいですから。

企業の役に立つのは、「顔が見えるネットワーク」

――ヒアリングの結果、何が必要と考えたのでしょう

領家: 間接支援では限界があることが分かりました。そこで、直接支援しようということで2010年に「ものづくりビジネスセンター大阪(MOBIO)」という支援拠点を立ち上げました。産学官民連携による地域や地域産業の活性化を目指す「関西ネットワークシステム」(KNS)と出会ったのがきっかけでした。KNSには300人程度の参加者がおり、半分は行政から、残りは大学や企業など民間からという構成です。年4回の定例大会があり、参加者全員が8分間程度のプレゼンテーションをします。その後、交流会となり、プレゼンテーションを見て気になった人と名刺交換したり、実際のビジネスについて相談したり、という段階に入ります。継続的に参加するので親しくなりますし、定例会以外でも会うようになったりして、実業につながるようになります。

 これに参加して思ったのは、ビジネスでは初対面の企業や関係者がいきなり事業化に進むことはない、ということです。KNSのように「顔が見えるネットワーク」を作らない限り、地元の企業発展に役立つマッチング、ネットワーク作りはできないと確信しました。顔が見えるようになり、「人付き合い」が始まって、初めて事業につながる話ができるようになりますので。

 そこで始めたのが「MOBIO-Cafe」というセミナーです。18時30分から始める30人定員のワンテーマ・セミナーで、終了後には1000円の会費で交流会をします。近所のスーパーで買ってきた飲み物や惣菜を食べながら、本音で語り合います。このセミナーを毎週2回程度、年100回ペースで開催しています。予算がついている事業ではないので、大阪府の職員が企画から運営まですべてを担当し、講師にもボランティアで参加していただいています。当初は、私がKNS参加者から見つけた講師がほとんどでしたが、いまは弁護士会にも協力してもらって知財セミナーをシリーズ化しています。

「MOBIO」にある常設展示場
「MOBIO」にある常設展示場

ネット販売で経営者を鍛える

――マッチングの次に狙ったものは何でしょう

領家: ものづくり産業の活性化には、「作って」「売る」ということが大事です。作ったけれども売れないというのは、購買者のことが分かっていないからです。そこで、作るだけでなく、「売り先」つまり消費者に直接会って売ってみよう、という活動を始めました。そこで始めたのが「大阪ミュージアムショップ」というネット通販です。通販向けの商品を持っている、やる気たっぷりの経営者を集めました。

 このサイトで商品を売るには、「通販道場」という研修に参加する必要があります。この道場への入門審査を通ってから半年間、毎月1、2回の専門家による講義を修了しなければサイト参加登録ができません。道場で研修を受けながら、学んだことを自社製品に反映させ、サイトで売る商品をより良いものにしてもらうのです。

 役所が作ったサイトでは、売れる数も限られますし、継続性にも限界があります。実際大阪ミュージアムショップは4年間で終了しました。参加する経営者には、その後も自社でサイトを作り、ここでの経験を生かして、より多くの製品をたくさん売ってもらわなければなりません。そういう可能性を持った経営者に参加してもらおうと考えたのです。4年間で108の事業者が参加しました。

領家さんが担当した「大阪ミュージアムショップ」
領家さんが担当した「大阪ミュージアムショップ」

対面販売で商品を「磨く」

領家: この活動のうちに、百貨店の催事担当から声がかかるようになりました。大阪府の職員が百貨店と交渉し、その催事にあった企業を選んで参加するようにしました。道場で学んだやる気のある経営者なので、百貨店の催事にも積極的に参加し、そこで対面販売を経験するうちに、製品がどんどん良くなっていくのです。消費者と直接会話するので、商品の課題や消費者のニーズが分かりますから。

 対面販売の機会を提供するということには、今でもこだわっています。やる気のある経営者が対面販売すると、確実に商品は良くなり、売り上げもついてくる、ということが経験として分かっていますので。現在も、名称は「大阪商品計画」に変更していますが、ほぼ同じ形式の取り組みを続けています。

 今後は、地元企業が繁栄し続けられる環境を作るエコノミック・ガーデン(EG)に本格的に取り組みます。「EGおおさか」として大阪府内の自治体や商工会・商工会議所、公的な産業支援機関、大学や金融機関が参加するネットワークを作り、定例交流会などを実施します。地域経済のコンシェルジュとなる人の育成や、大阪以外の地域とのネットワーク強化も推進していきます。

(構成/持田 智也)

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