汗みどろで戦うスポーツ選手は男女を問わず勇ましい。とりわけ、筋肉モリモリの格闘技選手の姿を男勝りだと感じる人がこれまで多かったように思う。しかし、今では格闘技の世界でも「美女アスリート」なる言葉が浮上するようになった。

 2016年夏、リオ五輪という大舞台で金メダルラッシュに沸き、一躍注目の的となった女子レスリングの選手たちは、その好例である。鍛え抜いた体はムキムキなのに、顔立ちは人一倍かわいい。茶の間のテレビで観戦しながら、そのギャップに大いに驚き、応援になおさら熱が入った人も多かったのではないだろうか。

リオデジャネイロ五輪 女子レスリング69kg級 金メダリストの土性沙羅選手
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 しかし、筋骨隆々の女子アスリートはオシャレをしたくても服に困ると聞いた。“太い部位を通過する服”の選択肢が限られるというのだ。服に困るのは現役の選手ばかりではない。長年スポーツに打ち込んだ女性は、競技生活を離れた後に筋肉は落ちても脂肪がついて太いまま、ということも多いそう。その人たちも現役アスリートと同様に、男モノやダボダボの服を着てオシャレを我慢しているのが現状だという。

 そうした“規格外サイズ”の女性たちにとって救世主とも呼べる服を作っている元格闘技女子がいる。「強く、美しく」をコンセプトに、女子アスリート向けのブランド「キングリリー」を2016年4月に立ち上げた、女子レスリング元日本代表選手の岡田(旧姓・甲斐)友梨さん(33)だ。7歳から20年間、格闘技に明け暮れたという友梨さんは、現役引退から6年経った今もアスリートの名残がある体つきをしている。その体形と経験を武器に、「オシャレという明るい光を届けたい」と、アスリート体形に特化した服づくりとインターネット販売を始めた。

 まずは「アスリート体形と服の悩み」から探ってみよう。

五輪強化選手の立場を捨て、服作りを目指したワケ

 友梨さんの少女期~青春時代は、格闘技が生活の大半を占めていた。小学1年から兄と一緒に始めた柔道では中学生(52kg級)で近畿大会優勝、全国大会個人3位。高校から27歳まで没頭したレスリングでは、2009年世界選手権(51kg級)での銅メダル獲得をはじめ、数々の戦績を収めた。大学はレスリングの強豪で知られる中京女子大(現・至学館大)の出身。「私、リオ五輪の女子レスリング6階級のメダリスト全員が先輩か後輩なんですよ」と軽い口調で話すのを聞くと、「つ、強いんだ……」と即座に納得してしまう。

アスリート体形に特化したアパレルを2016年4月に起業した、女子レスリング元日本代表選手の岡田(旧姓・甲斐)友梨さん
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 下の写真は現役選手時代、対戦相手を制した瞬間のワンショット。紺色のユニフォームを着た選手が友梨さんだ。

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 これは2009年、デンマークで開かれた世界選手権の3位決定戦で相手の中国代表選手を破ったときのもの。「準決勝では、頭部から流血するわ負けるわで危機的状況でした。しかし、ここでドクターストップがかかると日本にメダルを持って帰れないと思い、麻酔なしで頭部を縫って3位決定戦に臨み、無事銅メダルを持ち帰りました」(友梨さん)

 現役引退を表明したのは2011年、ロンドン五輪に向けた強化選手として参加した全日本合宿中だった。「悔しかったんですよ。自分が選んだ道で頂点を極められなかったことが。上には上がいる。勝てなくなったとき、自分の価値が感じられなくなる。私はダメだと思うことがすごく増えた」。そんな気持ちから五輪への最終選考を待たずに引退を決意。そして、次なる挑戦は女子アスリートのための服づくり、との目標を定めた。

 「アスリートはこれまでオシャレとは無縁で、『女が自分を女と意識したら弱くなる』といわれてきました。競技を追求する人間はオシャレを我慢しなくてはいけない、と。女性がそのように錯覚させられる、古くからの慣習や環境を打破したかったんです。私はアスリートの体を知り尽くしている。服のどの部分をどう工夫すればゴツい体つきがキレイに見えるか、よく分かっている。現役時代、女性としての楽しみをいっぱい我慢したから、もしも引退するときにアスリートのための服がなかったら、私が作ってやる!という気持ちでしたね」(友梨さん)

 「本当に強い子は有効な技や段取りを冷静に考えるのでしょうが、私は感情で向かうタイプ。マットに上がるときは『こいつを殺すっ!』という気持ちだけで戦っていました(笑)。レスリングは死ぬほど練習しないと勝てないから、練習の鬼ともいわれた。一方で、もともと私は手先が器用で絵を描くのは得意。イメージ能力にも長けている。進むべき道を自問自答したとき、経験で得たアスリートの体と得意なものを掛け合わせて、自分にしかできないことに挑戦しよう、と。それが服だったんです」(同)

 こうして次に勝負を挑む舞台として選択したのは、未経験のファッション分野。レスリングの引退後、服飾専門学校へ通い、人体のプロポーションを数値に置き換えるデザイン画の手法などを習得した。

 ブランド名は「キングリリー」に決めた。“頂点”を意味する「キング」と、自らの名前を掛け合わせたネーミングに志を込めた。

 「ニーズはあるはずです。チャンピオンは1人でも、夢に向かって頑張っている人は大勢いる。学校の部活動も社会人のチームもある。アスリート体形の女性は少なくない」とみる友梨さん。強くなるために筋肉をつけた女性たちは、服の悩みを抱えている。「私と悩みは同じはず」と考えたわけだ。