その快適さは、利用客をして「一度乗ったら、ほかのバスには乗れない」と言わしめる。海部観光(徳島県海部郡)が2011年、日本で初めて大型高速バスで国内最少の「12席」を実現し、徳島と東京を毎日結ぶオリジナル車両の「マイ・フローラ」だ。

 長距離を走る夜行バスといえば、狭い座席にスシ詰めにされ、「若い人でないとしんどい」という印象がある。しかし、マイ・フローラには杖をついたおばあちゃんまで乗ってくる。“乗り鉄のバス版”のようなマニアにも注目され、SNSを通じてじわじわと広まり、乗車率は驚異の9割超を維持。お盆と年末年始のチケット予約は、販売開始からわずか1~2分で完売するほどだ。マイ・フローラ人気は、同社が運行するマイ・フローラ以外の便の売り上げを右肩上がりに伸ばす原動力にもなっているという。

「自宅でくつろぐように快適なバスを作りたい」

 徳島県の小さな町に本社をおく海部(かいふ)観光は、今年で創業20年。「創業者会長自身が満足するような、お客さまへのサービス提供を思い描いて設立した小さな会社」(広報担当の山元浩文さん)だ。貸切バス3台から始め、現在は海部観光グループで33台を運行する。

 モットーは「気品のある運転で、徳島の先頭を走りたい」(※)。創業経営者である打山 昇さんは、かつて他社で観光バスのハンドルを握っていた運転手出身。その現役時代、揺れを抑えて乗り心地よく運転しても、バスから降りてくる客はみな疲れた様子だった。移動の距離と時間は短縮できない。ならば「お客さまが自宅でくつろぐように快適なバスを作りたい」。創業当初からそんな思いを抱き、15年目に会社に体力ができたのを機に思い切って形にしたのがマイ・フローラなのだという。

※海部観光グループは、貸切バス事業者を対象にした安全性評価認定制度で2015年、全国初となる最高位の三ツ星認定を、徳島県で唯一取得した。
海部観光の最高級車両「マイ・フローラ」。2011年に誕生し、現在2台が徳島-東京を毎日結ぶ(画像提供:海部観光)
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一見、女性専用バスのようだが、男性の利用客も半数近くを占める
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徳島は県庁のある徳島市の発着ではない。「大都市へのアクセスを提供したい」と、海部観光本社に近い人口8万人弱の阿南市まで走る
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 「ただ、思いを形にするのは大変な苦労がありました」(山元さん)。大手バスメーカーからは1台2台のデザイン起こしや製作はできないと断られ、地元の建築家に相談すると意気に感じて内装デザインを引き受けてくれた。試行錯誤の末、県内の建具業者や椅子製造業者の協力も得て実現したという。全国の大型高速バスで初めての2列シート、最少の12席。「前例なし」のオリジナル車両である。

 バスの内装というのは、座席の数に関わらず、1台1台が手づくり。それでも基本的な形があり、普通は前から後ろまでの席数に応じて、座席を載せたレールの上で間隔を広げたり狭めたりして配置を調整する。だが、「マイ・フローラはその“レールさえない状態”で作った」という。まさに規格外、ゼロからの出発だった。

 一体どんな内装なのか?