日本に生まれ育つと、それだけで日本のことを知っている気になってしまうが、日本人は案外、日本の歴史を知らないのではないだろうか?

 あるいは著名な人物を通して知る日本の歴史なら、多くの人が教科書でも映画でもテレビでも取り上げられ、知っているような気がしているかもしれない。でもそれだけでは、日本を知っている、とは言えないだろう。

 庶民の視点から見る歴史や、生活に息づいた信仰からひも解くもの、または日本に滞在したことのある海外の人々から見た日本の時代ごとの暮らしぶりなどは、知らないことが多い。

 そこで、知らなかった日本を知ることができる書籍10冊を、丸善書店丸の内本店、専門書売場、歴史書担当の荒 由子さんに厳選してもらった。「今までとは違う視点から日本の歴史を探ってみるのもさまざまな発見があって面白い」(荒さん)。歴史を知ることから、今の日本に対する理解も深まるのではないだろうか。

中世の地域ごとの暮らし、商・農業、女性の地位とは?『日本の歴史をよみなおす(全)』

網野善彦[著]・筑摩書房[刊]・1260円

 東日本大震災以降、古典の再読や歴史の学び直しが、注目されている。そんな中、再びヒットしているのが、1991年に刊行された『日本の歴史をよみなおす』と、1996年刊行の『続・日本の歴史をよみなおす』を1冊にまとめた『日本の歴史をよみなおす(全)』だ。

 若者向けの「ちくまプリマーブックス」シリーズとして出版された。2004年に亡くなった網野善彦氏と言えば、日本中世史(教科書等では鎌倉時代から室町時代までとされることが多い12世紀末~16世紀末)を専門とする歴史学者だ。既存の歴史学が軽視してきた、山、野、川、海で生活する人々や、芸能民などを研究し、「網野史学」とも呼ばれる新しい歴史観を提唱し、多くの人を魅了していた。

 そんな網野氏が編集者に語り下ろしたものを文章として起こしているため、とても読みやすい。

 内容は、南北朝時代の14世紀をメインに、文字の普及や貨幣の流通、商業や農業など、地域ごとの庶民の暮らしぶりから見た歴史が綴られている。特に、「身分」について、時代ごとに意味合いがまったく異なってくるのが興味深い。

 荒さん:「無名な人々の動きがとてもいきいきと描かれていて、日本の中世の暮らしぶりが分かる。地域によって異なる暮らしぶりや商業、農業のあり方、女性の地位の変化などは歴史に興味がない人でもとても面白く読めると思う。網野史学の入門編としてもおすすめ」

冒険・海賊小説が好きな人も楽しめる日本の交易ルートの表と裏『世界史の中の戦国日本』

村井章介[著]・筑摩書房[刊]・1260円

 2012年4月に出版された、世界史の流れの中から日本列島を眺める『世界史の中の戦国日本』は、やはり、今の日本をグローバルに見なおす意味でも読んでおきたいところだ。

 群雄割拠の中から織田・豊臣を経て徳川安定政権を生んだ戦国時代から江戸時代にかけて、日本では、商業圏の拡大という覇権争いが始まっていた。サハリン・沿海州貿易を手中に収めようと画策する蛎崎氏、東南アジアにまで及ぶ西南海貿易で富を築いた琉球王国とその座を狙う島津氏、南蛮貿易のためにおたずね者まで取り込む松浦氏──。当時の世界基軸通貨=銀貨をめぐり暗躍する倭人ネットワークなど、意外にも、日本は大変にグローバルだったことがこの本からわかる。

 荒さん:「冒険小説、海賊小説が好きな人におすすめしたい。琉球王国の活発な交易や、オランダ、周辺隣国との関係では、知らなかった部分が多く新鮮」。

 世界にまたがる知られざる日本の交易ルートの表と裏が描かれた1冊。

西洋人の目を通して見た幕末から明治時代までの日本をとらえた『逝きし世の面影』

渡辺京二[著]・平凡社[刊]・1995円

 幕末から明治時代までに来日した外国人識者の文献をまとめたのが『逝きし世の面影』。10万部を売り上げたロングセラー。その文献の量の多さに驚く。

 当時の庶民の生活が外国人の目を通して詳しく読み取れるのが面白い。幕末から明治初期にかけての日本は、西洋の人々の近代文明とはまったく異なっており、それでいて独自の高度な文明を持っている点が興味深かったようだ。例えば「子どもの楽園」の章では、西洋では子どもはまずしつけるものとされているが、日本では子どもはとても大切にされ、自由に遊んでいると書かれている。また、「女の位相」の章では、嫁入り前の娘たちのおしろいの塗りすぎと、妻たちの眉落とし、お歯黒について率直な意見が書かれている。こうした見方は、現代の日本人と考え方が似ているとも言える。

 荒さん:「一瞬の時代の風景や風俗がとても細かく記されていて、それを客観的に、当時の外国人の考えに近い感覚で楽しめるのがこの本の魅力。章ごとに完結しているので、気になる章だけを拾い読みできる」。

 歴史書だからと気負わずに、気軽に楽しんでもらいたい。