――2011年3月には九州新幹線が全線開通し、JR西日本の新大阪からJR九州の鹿児島中央まで直通運行する新型車両「さくら」も導入される。「さくら」のデザイン監修を行っているが、見どころは何か。

水戸岡鋭治氏(以下、水戸岡):JR西日本とJR九州の2社が新大阪から鹿児島中央まで、新幹線を直通運行する。こうしたケースでは、2社間でのすりあわせが何よりも重要になる。

 今回の「さくら」では、これまでJR九州の新幹線や特急、在来線などのデザインを手がけてきた経緯もあり、私自身もJR西日本に何度も訪れ、打ち合わせを重ねてきた。通常、鉄道会社は各社が車両の色や素材、形などに対して、独自の考え方を持っている。そのなかで今回、お互いに考え方をすり合わせてうまくコラボできたのが「さくら」だ。

 私は今までJR九州の鉄道デザインでは、従来の鉄道車両にない素材、色、柄を使ってきた。「さくら」でもこの考え方が少し取り入れられている。

 例えば「さくら」の車内では、九州新幹線「つばめ」と同様、木を多用している。人の手が触れる場所は極力温かみを感じる木材を使った。これはJR西日本では初めての試みだろう。ほかにも、グリーン車などの床や座席布地には伝統的な柄を使用。JR西日本では今まで自由席のシート布地は1色だったが、「さくら」ではこれを2色に増やした。色の変化を付け、旅の楽しみを演出したいと思ったからだ。細かいポイントではあるが、こうした小さな点についても、JR九州などで培ってきたノウハウを反映している。

――09年夏に九州新幹線に導入された新800系の「つばめ」では、車内に金箔や蒔絵などを飾るなど、贅を凝らした内装が話題になった。1年経ち、乗客の反響はどうか。

水戸岡:新800系は、「みなさんの期待以上に贅沢なものを公共の場に入れる」ことがテーマだった。そこで本来ならば車両空間にはない、神社仏閣や博物館という特別な場所にあるものを、あえて大衆が使う空間である新幹線の中に持ち込んだ。それが金箔や蒔絵、彫金、八代産のい草などだ。これらを使うことで、子供たちが無意識のうちに、“本物”と出会う空間を提供できたと思っている。

 私は、デザインを手がける際には常に、伝統的なものと新しいものをどう組み合わせるかを考えている。日本の根本にある伝統的なものと最先端の技術をコラボさせて新しいものを生み出すのが工業デザイナーの仕事であり、最も商品価値が高いものが生まれると信じている。

今年8月に一般公開された新型車両「さくら」の外観(画像クリックで拡大)

「さくら」のグリーン車両。6号車に24席を用意。床に模様があったり、座席の一部に木の素材が使われている(画像クリックで拡大)

グリーン車両に飾られるレリーフ。このほか、座席テーブルには木材を使用。グリーン車の日よけと座席の柄を花唐草模様で統一するなどの配慮もある(画像クリックで拡大)

九州新幹線の新800系。内装自体はこちらのほうが「さくら」よりも豪華でインパクトがある。扉とその脇の内壁には金箔が施され、革張りのシートなどもある。電話室の仕切りにのれんを使うなどの工夫もある(画像クリックで拡大)