「小布施さん、来期マンション管理組合の理事の順番なので、よろしくお願いします。大規模修繕の年ですから、何かと大変でしょうけど頑張ってくださいね」。人の良さそうな管理人のおじさんから、廊下で声をかけられたのは、昨年、桜の季節のことであった。

「えっ?どういうことですか」。突然のことで、管理人の言っている意味がわからない。

 東京近郊、私鉄沿線にある築9年の中古マンションを思い切って購入し、初めて家賃を払わない生活というものを味わったのが、わずか1年半前のこと。同じ階の居住者の顔も覚え、ようやく気軽に挨拶できるようになったばかりだというのに、管理組合の理事ってどういうこと……。顔中にクエスチョンマークが貼られたかのように戸惑う私に向かって、白髪の管理人は、噛んで含むように説明してくれた。

 それによれば、このマンションでは、1年ごとにマンション管理組合の理事会メンバー、つまり理事を各階ごとに順番で選んでいるのだという。そういえば、昨年、集会室で開かれた管理組合の総会なるものに出席したとき、理事の席に隣のご主人が座っていたことを思い出した。

「お隣のAさんが、今期の理事をやっているでしょう。ですから、次の理事の1人は小布施さんと自動的に決まるんですよ」と、なぜか満面の笑顔の管理人。「まだ入居して1年ちょっとで何もわかりませんし、土日も仕事が入ることが多いので、来期はパスさせてもらえませんか?」と精一杯の抵抗を見せると、「ご主人が理事になれない場合、奥様になっていただくという方法もありますし」と切り返してきた。相手は一枚上手だ。