長引く出版不況で本が売れないといわれているなか、あるジャンルの動きが注目されている。“異色回答者による人生相談本”だ。

 2015年6月に発売された『蛭子能収のゆるゆる人生相談』は、発売直後から爆発的に売れていて、発売後1カ月で4刷。「近来にないスピードの売れ方」(版元の光文社)という。

 またミュージシャンで評論家・作家でもある中原昌也氏の「中原昌也の人生相談 悩んでるうちが花なのよ宣言」も、発売2週間で重版が決定。「新宿の紀伊国屋書店では2週間で約130冊も売れ、芥川賞受賞前は「火花」を抜いてランキングトップに立ったこともあった」と版元のリトルモアでも驚いている。紀伊国屋書店・新宿本店仕入課の吉野裕司氏は、「紀伊国屋書店新宿本店がこうした“異色の著者”の本に強いということを差し引いても、この2冊は群を抜いてよく売れている」という。

 この動きに着目したのが、出版取次大手のトーハンだ。この2冊が、POS(販売時点情報管理)の初速が好調であり、受注が急上昇していることから、人生相談本の動きをさらに調査。その結果、さまざまな著者や切り口の人生相談本の販売が好調であることが判明した。そこで「そうした本を並列販売したら面白いのでは」と考え、2015年9月から10月まで、トーハン取次の書店約300書店で、「大人の人生相談フェア」を展開することを決定したという。すでに売れている書店だけでなく、このジャンルの盛り上がりにまだ気づいていない書店にアピールすることで、人生相談本市場そのものの拡大を狙っているそうだ。

 人生相談は古くからあるジャンルだが、従来、回答者として人気が高かったのは、人生経験が豊富で人格円満な宗教家や女性作家、あるいは男らしい作風の男性作家。たとえば古くは今東光、瀬戸内寂聴、柴田錬三郎、北方謙三などの顔が浮かぶ。

 だがご存じのように蛭子能収氏は、その対極にあるキャラクター。中原昌也氏も、「書きたくて書いているのではない」という後ろ向きの制作姿勢を隠さず、 人格円満とは程遠いイメージだ。なぜ今、そうした異色回答者の人生相談本が売れているのか。

「蛭子能収のゆるゆる人生相談」(蛭子能収著、光文社刊、630円)。2015年6月に発売されると、その月のうちに4刷となった。雑誌「女性自身」連載中のコラムで、目立たない小さなコーナーながら週に10通ほどコンスタントに相談が来るという。本が売れているのが一番信じられないのは本人で、発売発表の記者会見でも「こんな本、絶対売れない」と断言していたとのこと
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「中原昌也の人生相談 悩んでるうちが花なのよ党宣言」(中原昌也著、リトルモア刊、1000円)。回答者の中原昌也氏は「暴力温泉芸者」名義でミュージシャンとして活動した後、映画評論や小説を執筆し、三島由紀夫賞、野間文芸新人賞、ドゥマゴ文学賞受賞などを受賞。現在はHair Stylistics名義での音楽活動や執筆活動などを継続中だが、生活苦も続いているという
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