25年前からJR九州の車両デザインなどを監修するデザイナーの水戸岡鋭治氏。同社の特徴ある観光列車は、すべて水戸岡氏の手によるもので、最近では超豪華クルーズトレイン「ななつ星 in 九州」が大きな話題となった。

 そんな水戸岡氏が「鉄道デザインの心 世にないものをつくる闘い」(水戸岡鋭治著、日経BP社発行)を上梓。7月28日には東京・神保町の書泉グランデで発行記念イベントが開催され、水戸岡氏がトークショーを行った。木やガラスをふんだんに使った内装など、鉄道車両の常識では考えられない斬新なデザインの車両を世に送り出してきた舞台裏や、仕事への心構えについて語った。

JR九州は「賛同はしてくれないけれど理解はしてくれる相手」

 「JR九州=水戸岡デザイン」というイメージがすっかり定着し、とてもベストパートナーのように思える両者。しかし水戸岡氏によれば「25年間闘い続けてきた相手だ」という。

 「鉄道の常識からすると、内装に木はダメ、ガラスもダメって言われる。闘いたいわけではないのだけれど、「なぜ?」「どうして?」と話していくうちに、だんだん喧嘩になっちゃうんです。相手との距離を測るためにジャブを打つのは仕方がないこと。やがて、こちらの考えに賛同はしてくれないが、理解はしてくれるようになりました。そうするとちょっとずつ前に進んでいくんです」

 そのよき理解者の一人がJR九州の前社長で現在は会長を務める唐池恒二氏だ。「素晴らしい社長に会えないといい仕事はできない」と水戸岡氏は断言する。

 「私自身にはお金はないし、自分だけでは仕事はできません。いいオーナーを見つけて、いい仕事をさせてもらうしかないのです。私は作家、アーティストではなくて、職人、デザイナー。デザイナーの仕事は顧客と実際にものを作る職人をつなぐ仕事です。図面は私が書きますが、それは60%くらいのことで、40%は職人さんが作り上げてくれる。最後はやはり実際にものを作る人はすごいですよ」

 そして「デザイナーの責任はとにかくその商品をヒットさせることだ」と話す。

 「デザイナーは、職人さんなどいろいろな人からエネルギーや知恵をもらって、最後にフィックスする仕事。もしその商品が失敗したら、その多くの人たちを失敗させたことになるわけです。私の最後の一振りにかかっているのだから、空振り三振は許されません」

 その例として、7月中旬に完成したばかりの“最新作”であるJR九州のスイーツ列車「或る列車」について話が及んだ。

 「ヒットさせるためには世界一のものを作らなきゃいけない。だから、予算なんか知ったことか、と(笑)。予算で収まるような仕事はろくな仕事じゃない。たとえ予算をオーバーしても、多くの人に感動を与えてヒットしたら成功です。今回は、『電車の車両でもこんなものまでできる』ということを示すために、走るヴェルサイユ宮殿を目指しました。JR九州は製作費が高いと言うかもしれないけれど、本当はこんな費用じゃできないんですよ。一流の職人さんたちが、通常の半額くらいで作ってくれている。一流の本物を、多くの皆さんにプレゼントしてくれているんです。ななつ星とは違って乗るのは抽選制ではないし、料金も2万円くらいだから、ちょっと高いけれど乗れなくはない。ぜひ九州まで乗りに来てください」

35年前の旧国鉄時代に作られた車両を改造した「或る列車」。モチーフは約110年前に当時の九州鉄道がアメリカのブリル社に発注した幻の豪華客車だ。水戸岡氏は「シンデレラじゃないけれど、35年ものの“かぼちゃ”を馬車に作り替えたんです」と話した
[画像のクリックで拡大表示]

『鉄道デザインの心 世にないものをつくる闘い』
(日経BP社、2000円+税、水戸岡鋭治 著)

JR九州の超豪華寝台列車「ななつ星」、2015年8月運行開始の「或る列車」ほか、多く の鉄道や駅のデザインで知られる著者が、これまでの仕事を振り返りながら、自らの仕事の哲学や考え方を語ります。「ななつ星」に関わった多くの職人との共同作業などにも詳しく触れ、鉄道デザインの舞台裏を臨場感を持って楽しめる1冊です。


AMAZONで買う
楽天ブックスで買う
日経BP書店で買う