ブロードウェイを代表する人物を一人だけ挙げよ、と言われたとき、ほとんどの人は「ハロルド・プリンス」の名を挙げるだろう。60年間も現役として活躍し、プロデューサーとして『ウェストサイド物語』、演出家として『オペラ座の怪人』『エビータ』『スウィーニー・トッド』をはじめ、ミュージカル史に名を残す作品を数多く創造、演劇界最高の名誉であるトニー賞を21回も受賞しているのだ。その彼が最新作を、なんと東京で開幕させるという。競争も世代交代も激しいショービズ界でトップを走り続ける秘訣とともに、「なぜ日本なのか」を訊いた。

ハロルド・プリンス 1928年、NY生まれ。19歳でペンシルバニア大学を卒業、2年間の兵役の後、演出家ジョージ・アボットの助手に。アボットと共同プロデュースした54年の『パジャマ・ゲーム』でトニー賞ミュージカル作品賞を受賞、『ウェストサイド物語』等の製作を経て演出家デビュー。『キャバレー』『スウィーニー・トッド』『エビータ』『オペラ座の怪人』等ヒット作を輩出し、2006年トニー賞で「特別功労賞」を受賞。87歳の現在も現役としてブロードウェイのトップを走り続ける。
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日本人は自分たちが思っている以上に“芸術に対してハングリー”

 栄枯盛衰の激しいブロードウェイで、60年にわたって第一線で活動するのは、ほとんど奇跡に近い。その唯一の例と言えるハロルド・プリンスは1928年、NYに生まれ、19歳でペンシルバニア大学を卒業。2年間の兵役後、演出家の助手として演劇界で働き始めた。まずは製作者として才覚をあらわし、54年の『パジャマ・ゲーム』でトニー賞ミュージカル作品賞を受賞。『ウェストサイド物語』等の製作を経て演出家デビューし、『スウィーニー・トッド』『エビータ』などを手掛けてきた。最大のヒットである『オペラ座の怪人』は今も、ブロードウェイ、ロンドンの最長ロングラン記録を更新中だ。

 先日、その彼の最新作『プリンス・オブ・ブロードウェイ』がこの秋、日本で初演することが報じられ、業界人や演劇ファンを驚かせた。プロジェクトは彼の弟子である演出家ダニエル・カトナーを通じ、日本の劇場が彼にアプローチをしたことから始まったという。

 「以前から、僕は日本贔屓でね。1976年には、開国に揺れる日本を舞台にした『太平洋序曲』というミュージカルを手掛けているし、『オペラ座の怪人』や『蜘蛛女のキス』の日本版のために何度も来日しているんだ。僕が思うに、日本ほど“きちんとした国”はない。スケジュール通りに物事が運ぶ、素晴らしい国民性だ(笑)。

 もう一つ、プロデューサーの視点からお答えするなら、日本の劇場文化に可能性を感じていることも、引き受けた理由の一つだ。僕は旅好きで、マイアミの別荘に行ったり、フランスや息子が仕事をするウィーンやドイツにもよく行くのだけど、世界中どこに行っても、日本人ほど芸術に対して“ハングリー”な国民はいない。ブロードウェイやロンドンの劇場街で日本人を見かけない日はないし、NYでクラシックコンサートを聴きに行くと観客の10~15%の観客が日本人。日本人は、君たちが思っている以上に“文化的で上質な暮らし”を求める、芸術的な国民だよ。日本の演劇界もとてもいいマーケットになってきていると思う」