「SLAM」技術は家庭用ロボット掃除機には時期尚早!?

──SLAMは、具体的にはどういった技術なのでしょうか。

曽根氏: 自分がどこにいるかを判断するローカライゼーションと、部屋のマッピングを同時に行うという方法論で、やり方はさまざまです。

 マッピングを行うためにロボット工学の研究者が一般的に使っているのは(ネイト ロボティクスのBotvacシリーズが採用している)レーザーレンジファインダーですが、従来はすごく単価が高いのがネックでした。そこで多くのメーカーは壁などの障害物の情報やタイヤの回転数によって部屋をマッピングし、カメラで撮影した天井の映像によって自己位置を補正するというやり方を採用しています。ルンバも壁に近づくと減速するセンサーなどを搭載しているので、やろうと思えば技術的には可能です。

 自分の位置をきちんと把握して動作するという意味では、非常にイメージしやすい機能だと思います。

ネイト ロボティクス「Botvacシリーズ」発表会の資料より。Botvacシリーズはレーザーセンサー(レーザーレンジファインダー)によって周囲との距離を測ることでマッピングを行う
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──ルンバがSLAMを採用しない理由は何でしょうか。

曽根氏: SLAMを採用しているメーカーの単価を見れば分かると思いますが、自社で安価なレンジファインダーを開発したといっても、結構な価格になります。センサーの技術もそうですが、製品を安定して安価にお客様に提供しようと思うと、最新技術を使わない方が当然いいわけです。やはりこなれたセンサーで要件を満たしていくのが一つのやり方だと思います。

 もちろん、アイロボットがSLAMを否定しているわけではありませんが、現在のルンバのあり方はSLAMではなく、統計学的な計算方法による動きを選択しているということです。

池田: 移動体であるビークル(車両)と掃除機のバランスが良くなる技術チョイスをしているということです。ルンバもその他の掃除機も、マッピングは行っています。ルンバは自分で動きながら状況判断をして、部屋の形状を10分ぐらいで認識します。

 SLAMを採用しているロボット掃除機は、レーザーレンジファインダーやカメラなどを使ってマッピングします。しかし、それらは実現するためのシステムの負担が大きいと我々は考えています。動的に常にマッピングをしなければならないので、高性能CPUや大容量メモリーが必要になります。

 アイロボットは「AVA(エイヴァ)」という移動ロボットのプラットフォームを持っておりますが、何千万円もするロボットでも高解像度の完全なマップを作るのに2時間から3時間もの時間がかかります。10万~20万円程度の機器でマップを作るといっても、処理能力を考えると高い解像度を実現するのは難しいはずです。その情報を基に動き出すので、ルンバのように自分で行動しながら部屋の形状を認識するのと、できあがった成果物に大きな違いはないと思います。

 曽根も申したように、SLAMを否定しているわけではありません。実際、アイロボット社のコンパニオンロボットは「VSLAM」(ビジュアルSLAM:カメラ映像からマッピングや自己位置推定を行う技術)を使っていますし、レーザーレンジファインダーで距離を測定しながら部屋全体をマッピングする技術もありますので、用途に応じて選択していけばいいのだと思います。

──現状ではCPUの処理性能やメモリー容量の問題などで採用していないものの、今後採用する可能性はあるということですね。

池田氏: アイロボットはSLAMテクノロジーのノウハウ自体は持っているので、テクノロジーのトレードオフが解消され、現在提供しているソリューションよりもSLAMの方が効率が良いと判断したときにはそうなるかもしれません。

 また、現在はHEMS(ホームエネルギーマネジメントシステム)といって家電と電力マネジメントの環境が通信を行う環境ができています。将来的ロボットが自分でマップを作らなくても、家が作ったマップをダウンロードできるようになれば、最初のマッピングをしなくてすむ可能性があります。例えば自宅内にあるさまざまなカメラ内蔵機器が連携してマッピングを行うといったイメージですね。

 もしHEMSがそういう方向へ行くのであれば、SLAMというテクノロジーは便利かもしれません。ロボット掃除機だけでマッピングしようとするとその実装コストが高くつきますが、1回作ったマップがロボット掃除機だけでなく、エアコンが空気を効率よく循環させるために自分が取り付けられている位置と部屋の形状を関係づけて動作するといったようになれば、SLAMで完全にマッピングするというのも理にかなってくるのではないかと思います。