熱中症は誰もがかかる恐ろしい病気だ。

 記録的な猛暑だった2010年、熱中症で救急搬送された人は5万4000人に上り、年間1718人が命を落とした。昨年6月から9月の熱中症による死亡者数は901人となった。(厚生労働省などの発表より)この恐ろしい症状を未然に防ぐのに効果があるとして、最近、注目される対策がある。

 それは「ややきつめの運動の直後にコップ1杯の牛乳を飲むこと」だ。本当に、そんな簡単な方法で、熱中症にならずに済むのだろうか。ここは1つ、牛乳が苦手なひとでもこの熱中症対策を利用できる方法についても、追求してみることにした。

 まずは、この方法の提唱者である信州大学大学院医学系研究科の能勢博教授に話をうかがった。

信州大学大学院医学系研究科の能勢博教授

 「人間は常に体内で熱を作っています。体温が高くなると、血液が熱を身体の中心部から表面へと運び、皮膚から放散します。さらに、血液の中の水分から汗を作り出し、体外で蒸発させ、熱を下げようとします。ところが、血液の量が少ないと、これらの体温調節能(体温を調節する能力)が下がり、熱が身体の中にこもります。これが熱中症です」と能勢教授は説明する。

 「例えば室温が33度以上、湿度が100%になれば、我々は熱を放散できなくなり、安静時でも2~3時間で熱中症になります。体内から熱を出せない環境に置かれたなら、誰もが熱中症になるのです」

 では、どうすれば熱中症を防げるのか。

 「体温調節能を上げること。すなわち、血流量を上げることです」と能勢教授はいう。「人間の体はクルマと似ています。筋肉は動かせば発熱するエンジン、血液がラジエータ(放熱装置)の熱媒体に当たります」。

人間は、クルマのラジエーターがエンジンを冷やすように、皮膚血液によって身体の奥の熱を外に出し、汗の気化熱で体表を冷やすという非常に優れた体温調節能を持っている

 能勢教授が続ける。「回転数の高いエンジンを長時間使用すれば、発熱量も大きくなります。なのに、血液量が少なければ、すぐ熱中症になります」これはラジエーターの能力が低いと、エンジンがオーバーヒートして壊れるのと同じ原理だ。「ですから、スポーツ選手の場合、必然的にラジエーター機能を果たす血液量が普通の人よりも多くなります。例えば、シドニーオリンピックのマラソン金メダリストである高橋尚子さんのようなトップアスリートでは、普通の女子大生の倍近くの血液量を持っていると考えられます」。

 つまり、血液量を増やせば、熱中症にかかりにくい身体になるわけだ。では、どうすれば血液量を増やすことができるのか。能勢教授は「週に合計60分、息が弾むくらいのややきつめの運動をして、その直後、コップ一杯の牛乳を飲むだけで、血液量は格段に増えます」と断言する。その言葉の背景には、実験結果による裏付けがあった。