「斉藤さん」という名前のiPhone、Androidアプリが、10代の高校生や大学生を中心にヒットしている。2011年9月に公開されたが、半年足らずで計140万本もダウンロードされているのだ。

 斉藤さんは無料で使える電話アプリ。機能は現在大ヒットしているスマートフォンアプリ「LINE(ライン)」に似ているが、特徴は大きく異なる。

 LINEは普通の電話と同じく、友達や知り合いと通話できるアプリ。それに対して斉藤さんは、友達でも知り合いでもない「自分の知らない人としか」通話ができないのだ。

 ユーザーがアプリの通話ボタンを押すと、ランダムに選ばれた縁もゆかりもない別のユーザーとつながって会話ができる。ユーザーはほぼ匿名で利用。同じユーザーとは二度と会話できないシステムにもなっている。「見も知らない人と会話をする、一期一会の電話アプリ」なのだ。

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iPhoneアプリは「斉藤さん 118-改-」、Androidアプリは「斉藤さんZZ」。いずれも無料
 
無料での音声通話のほか、テレビ電話を使った会話もできる
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「斉藤さんアプリはアマチュア無線を再現したもの」と、開発したユードー社長の南雲玲生氏は語る。

 南雲氏は小学生の頃、アマチュア無線のユーザー。異なる国の知らない人と交信できる面白さに惹かれていた。「ケータイの普及でアマチュア無線は衰退したが、アマチュア無線のこの面白さはどこにも引き継がれていなかった」(同)。見知らぬユーザーと音声だけでつながるソーシャル性が、同アプリのポイントだ。

 斉藤さんは、使う人が限定される「とがった」アプリだ。まず、縁もゆかりもない人に電話をすること自体、一定の年齢層以上のユーザーには恥ずかしい。「このアプリのコンセプトを受け入れられるのは30代前半まで」と南雲氏は話す。

 恥ずかしさの壁を越えてアプリを使い始めても、他のユーザーとうまく会話できる回数は少ない。筆者も何回か使ってみたが、他のユーザーとつながっても最初の数秒間で切られてしまい、1度もまともに話せなかった。筆者は男性ということもあり、声を聞いて「面白そうではない」と思われてしまったようだ。

 そこで一計を案じた。斉藤さんはスマートフォンのカメラを利用したテレビ電話に対応している。そこに0歳の子供を映して、赤ちゃんの可愛さでユーザーの気を引くことにしたのだ。この作戦は成功し、何人かのユーザーと話ができた。

 最初に話したユーザーは、関西弁で「不細工そうに見えるけど、可愛い赤ちゃんやなあ」とぶっきらぼうに話かけてくれた。交わした言葉はそれぐらいだったが、それでも不思議と感動できた。子連れで見知らぬ町の街角を歩いていると、通りかかった人に「可愛い子供ですね」とほめられたような感覚だ。

ユードー社長の南雲玲生氏。ピアノ練習アプリ「PianoMan」、パノラマ写真アプリ「Sfera」など多くのスマートフォンアプリを手がけている

 記者の例のように、斉藤さんで会話に成功する回数はさほど多くない。「だが、それでいい」と南雲氏は語る。「ユーザーのなかには変な人もいる。だから、たまたま良い人と出会えて会話ができると、話せたときの感動が数倍になる」(同)。

 もうひとつ、特筆すべきことがある。斉藤さんは無料アプリにもかかわらず、かなりの高収益を上げているのだ。