※この記事は日経エンタテインメント!(3月号)の記事を転載したものです。購入はこちら

 1月17日に第146回芥川賞・直木賞の選考会が開かれ、芥川賞は円城塔(えんじょうとう)『道化師の蝶』と田中慎弥『共喰(ともぐ)い』、直木賞は葉室麟(はむろりん)『蜩(ひぐらし)ノ記』に受賞が決まった。

(左から)葉室麟(60)「第二次世界大戦前の日本や、日本人が本来持っていたものを伝えるために、歴史、時代小説を書いているんだと思う」。田中慎弥(39)「1回目で受賞するのがそれは一番いいので、5回目というのは間抜けです」。円城塔(39)「小説なので好きに読んでいただければいい。拾い読みでどこか笑える部分を拾ってもらえるのが一番ありがたい」と、それぞれ受賞会見で述べた
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 直木賞は浅田次郎選考委員が講評。「初回の投票から葉室さんが抜きん出ており、最終的には桜木紫乃さんの作品との決選投票となった」と選考の経緯を説明した。5度目の候補で射止めた葉室は、地方紙記者を経て05年に54歳でデビュー。以降、一貫して歴史・時代小説を手がけてきた。『蜩ノ記』は、家譜の編纂(さん)と10年後の切腹を命じられた武士が最期の日を迎えるまでの生きざまを描く。「非常にデッサン力がある。気配りが行き届いていて安心して読める、完成度の高い時代小説」と称えた。

 芥川賞は、今回の選考会で退任する黒井千次選考委員が説明。最初に過半数の票を得た田中の作品と、2度の投票を経て過半数を超えた円城の作品に決まった。「『共喰い』は、海辺の町で、苦しい生活を送るドロドロとした人間世界を描いた、古いタイプの小説。『道化師の蝶』はメタフィクション。伝統的なものと、知的で新しいものの両極といえる作品が選ばれた」。

 田中は5度目のノミネートでの受賞だった。幼少期に父を亡くし、山口県下関市で母と2人暮らしをしながら、高校卒業以降一度も仕事に就くことなく小説を書き続けてきた。家族や親子関係、社会という共同体に対する息苦しさを、執拗な筆致でつづる。05年にデビュー以降、川端康成文学賞や三島由紀夫賞を受賞するなど、筆力は高く評価されてきた。

 3度目の候補で受賞した円城は、東北大学で物理学を専攻し、東京大学大学院博士課程を修了。研究職を経て34歳でエンジニア職に就く傍ら、06年に作家デビュー。前衛的な作風で、SF、純文学の両輪で独自の立ち位置を築き、昨年は文芸・芸術の幅広い分野で貢献した人物に贈られる、早稲田大学坪内逍遙大賞奨励賞を得ている。