スマートフォンやタブレットの急速な普及に伴い、通信キャリアの間からパケット定額制を見直す声が出始めている。これらのモバイル端末では、動画や音楽など大容量データを消費するため、その利用者が急増するとキャリアの携帯電話回線をひっ迫するからだ。NTTドコモやKDDIなど主要キャリアでは、以前から「携帯の通信量が3G回線の容量を超すのは時間の問題」と警鐘を鳴らし、最近ではソフトバンクモバイルの孫正義社長が「料金体系も含めて(通信量)を管理しないといけない」と発言するなど、定額制の見直しが現実問題として浮上してきた。
米国では既に昨年から、大手の通信キャリアが定額制から従量制への移行を進めている。先陣を切ったのは、米国の携帯電話業界で第2位のAT&T。2007年からiPhoneを独占提供してきた同社は、同端末の売り上げに比例するかのように通信回線が渋滞。このため音楽や動画の伝送が遅れる、あるいは通話が途切れるなどサービスの品質が低下して、利用者の評判を落としていた。
AT&Tは「(動画など大容量データを頻繁に消費する)わずか3%のユーザーが、データ・トラフィック(通信量)全体の40%を消費している」として、これらヘビー・ユーザーの利用を抑制するという名目で、昨年7月に、それまでの定額制に代えて従量制プランを開始した。例えばスマートフォンでは、それまで一律30ドル(月額)だったが、新たな従量制では「月額15ドルで上限200MB」「月額25ドルで上限2GB」と定めた。上限を越えた利用者には、前者では15ドル/200MB、後者では10ドル/1GBの追加料金が段階的に加算されていく。タブレット、USBモデム、公衆無線LAN(Hot Spot)など他の製品についても、それぞれ金額は異なるものの、スマートフォンと同様の段階的従量制が適用された。
この変更に対する、ユーザーの反応はまちまちだった。AT&Tが基本料金を値下げしたことを評価する向きもあったが、逆に上限を気にしながらサービスを使うことに不快感を示す利用者も少なくなかった。これに対しAT&Tは「利用者全体の3分の2は毎月200MB以下、98%は2GB以下しか使っていない。つまり大多数のユーザーは月額料金がむしろ安くなる」として理解を求めた。
一方でパケット定額制の廃止は、ソフト開発業者の反発も買った。特にゲームや動画配信など、大容量のデータを消費するアプリケーションは、従量制の導入によって、ユーザーが使いたがらなくなる。結果的に、この種のソフト開発が阻害されると言うのだ。
このように関係者の間で様々な懸念が聞かれた制度改訂だが、ふたを開けてみるとAT&Tの収支状況はむしろ改善した。AT&Tが従量制を開始した2010年の通年業績を見ると、無線サービスの加入者総数が前年比12.2%増の9554万件、売り上げが同9.3%増の585億ドル(約4兆7000億円)、利益が同10.3%増の152億ドル(約1兆2000億円)だった。この結果についてAT&Tは、「従量制の料金プランを導入したことが新規加入者の増加につながった」と自画自賛したが、米国の消費者の間では「これほど巨額の利益を上げているなら、そもそも料金制度を改定するより、通信インフラを拡充して渋滞を解消すべきではないか」との冷ややかな空気が流れた。
消費者やソフト開発業界からの反応はさておき、AT&Tの業績自体はむしろ改善したことで、2011年になると米国の主要キャリアは次々と段階的従量制に移行した。例えば業界首位のベライゾン・ワイヤレスは2011年7月、それまで月額30ドルのスマートフォン向けパケット定額制を改め、「月額30ドルで上限2GB」「月額50ドルで上限5GB」「月額80ドルで上限10GB」の3種類の料金プランを開始。何れも上限を超えた場合は、1GBごとに10ドルが追加課金される。
AT&Tが導入した従量制では、従来の定額制よりも安くなるケースもあるが、ベライゾンの従量制では、従来より安くなることはあり得ない。ベライゾンが強気に出た理由は、以前から通信インフラではAT&Tより優位に立っていたことに加え、2011年初頭からAT&Tに対抗してiPhoneを発売し始めたことがある。これだけの武器があれば、事実上の値上げに踏み切っても、他キャリアに客を奪われることはないと見た。2011年第3四半期の業績発表はこれからだが、少なくとも今現在、ベライゾンの業績が従量制の導入によって悪化している兆しは見られない。











