世界からの関心をテコに拡大できるか?

ロサンゼルスを拠点に活躍する宮崎光代監督(C)yukotakano(画像クリックで拡大)

 今年は短編のコンペ部門で、45年ぶりに日本からお茶の水女子大学在学中の田崎恵美監督の、異母兄弟の出会いを描いた『ふたつのウーテル』が入選した。上映はないが「ショート・フィルム・コーナー」に自作を持ってきたのはロサンゼルスを拠点とする宮崎光代監督。USC(南キャリフォルニア大学)で大学院の卒業制作として撮った『TSUYAKO』は、1950年代の日本が背景。祖母をモデルにした女性の生き方がテーマの感動のドラマだ。奨学金に加え自分で集めた資金により、日本でハリウッドのクルーを起用して制作した。卒業作品としては完成度が高く、ハリウッドで映画作りのノウハウをたたき込まれた実力が光る。USCでは脚本の執筆や撮影、編集といった映画作りの技術だけでなく、資金繰りから配給、PR、映画業界におけるネットワーク作りを学んだ彼女の将来に大いに注目したい。

 カンヌ映画国際見本市(マルシェ)に今年は活気が戻ってきた。売りに積極的な姿勢を示しているのは日活。スシ・タイフーンといレーベルを立ち上げアクション、バイオレンス、ホラー、コメディーといったジャンルをクロスオーバーする新作を世界に売り込んだ。『ヘルドライバー』『極道兵器』などの試写を行いドイツや北米からの熱い反響を呼びセールスにつながったと言う。だがテレビ・ドラマやコミックのリメイクなどを中心に手掛ける多くの大手は苦戦。国境を越え、外国人が理解できるテーマと表現に欠ける作品の弱点を痛感している。逆に今年のカンヌには外国人が、日本社会や文化を素材にした面白い作品を持ってきた。

 シンガポールのエリック・クー監督の、漫画家辰巳ヨシヒロの生涯をテーマにした『TATSUMI』がある視点部門で上映された。フランスのネイサン・カートン監督は日本人男性とタイ人妻の問題をとりあげたドキュメンタリー『シューとイチカワ』を、ベルギーのピエテル・ダークス監督はコスプレの世界にはまったベルギーの中年女性の物語『ベントー・モノガタリ』を短編部門で上映した。これは現代日本文化に対する世界からの強い関心の表れである。それを日本人が作品化し世界映画界のアリーナに持ち込めば成功の可能性も広がるのではなかろうか。

 テレビ・ドラマやコミックの映画化が主流の現在の日本の映画界の特殊な土壌のせいもあろうが、日本映画が大きく世界に羽ばたけない理由の1つには、国家が映画に対して積極的かつ建築的な具体策を売っていない点だと指摘されている。例えば英国やデンマーク、韓国などと比較するとそれは明確だ。日本では即座に利潤に結び付かない作家性、芸術性の高い映画が援助や支持をえる機会が少ない。今のところ才能ある映画監督にとって、カンヌのような芸術性重視の国際映画祭が唯一の可能性の場であるのだ。

(文/高野裕子)