名古屋の鋳造メーカーがなぜ鍋作りに挑んだのか

4月から登場する新カラー、パールホワイトとブラック(画像クリックで拡大)

 鋳物ホーロー鍋「バーミキュラ」が話題だ。

 1年前、「ヒットの芽」でも紹介した(鋳物ホーロー鍋「バーミキュラ」に注文殺到)が、その際には2010年2月17日の発売開始から1カ月足らずで、「4カ月待ち」のバックオーダーを抱えているとされていた。しかし今や1年1カ月待ちの状態(※取材時点の2011年1月末時点で11カ月待ち、2月末時点で1年1カ月待ち、3月3日時点で14カ月待ちとなった)。

 価格は直販で2万3800円と、高級鍋の部類に入る。しかもこれまでのところ、全国の百貨店で大展開するということもなく、また大々的なPRを行ったわけでもない。それがなぜ注目されているのか。

 「バーミキュラ」を生み出したのは、愛知県にある工業企業向けに機械部品などの製造を手がける1936年創業の老舗鋳造メーカー「愛知ドビー」。

 「元々当社は船舶やクレーン車の部品の下請け会社。油圧部品のコントロールユニットなど。消費者の方の目に直接触れるものはなかった」(愛知ドビー 専務 土方智晴氏)という、およそ調理器具には縁のない、中小企業だ。社長の土方邦裕氏は勤務歴10年で今年36歳。専務の土方智晴氏は勤務歴5年で今年33歳。2人は兄弟で、大学卒業後は他社に勤務していた。

 そんな家族ベースの鋳造メーカーが、なぜ鍋を作るにいたったのか。単純に考えればここ数年の経済不況を受けて、下請け会社としての受注の減少から、自社製品の販売に踏み切ったのではないかと想像できる。しかし取り組み始めたのは4年前だったという。

 「当時はリーマンショック前でどちらかといえば大好景気。不況だから自社製品をと考えたわけではない。ただ下請けの仕事は、市場が半分になれば、受注が半分になるのではなく、ゼロになる可能性もある。受注が下がってから対応するのでは遅い。来るべき不況に備えようという発想」(土方専務)であり、「景気には波があり、どちらかといえば、好景気1割、不景気9割。これを長年、繰り返しているので、忙しい中でも常に危機感があった」(愛知ドビー 社長 土方邦裕氏)。

 まだ好景気だったころになぜ、そうした危機感を抱いたのか。

 「景気の波は繰り返し経験してきていた。そこで学んだのは下請けでは、安定的に会社経営ができないということ。新しい人材を採用し教育する必要もある。そこで自社ブランドを立ち上げることにより、“会社作り”をしたいという目的もあった」(土方社長)。

 「当社では“22世紀まで社会から選ばれる会社へ”と打ち出している。つまり次世代につなげるためには、下請けだけでは難しいだろうと考えた」(土方専務)。そこで思いついたのが「中小企業でしかできないような世界最高のものを作る」ということだった。