あから2010のマスコットキャラクター。命名の由来は、将棋の局面の数が10の224乗を示す単位「阿伽羅」に近いことから(画像クリックで拡大)

 今年4月、情報処理学会から「名人に伍する力あり」との挑戦状を送り付けられた日本将棋連盟は、「いい度胸をしていると、その不遜な態度に感服仕った次第」と受けて立った。連盟が対戦相手に選んだのは、清水市代女流王将。タイトル戦登場は60回、獲得は歴代1位の計43期、女流とは言え、男性棋士からも通算29勝を挙げているトッププロである。その清水女流王将が、「トッププロ棋士に勝つ将棋プロジェクト」が送り込んだ刺客「あから2010」に86手で破れてしまったのだ。

 コンピューター将棋と人間の勝負と聞くと、「Bonanza」が渡辺明竜王に惜敗した2007年の対局が思い出される。しかし、当時に比べるとハードもソフトも大きく進歩しているはず。実際、アマチュアレベルでは、高段者でも強豪ソフトに勝てないという現状もある。会場では女流王将を応援する声が圧倒的だったが、それは「コンピューター有利」と感じていた人が多かったことの裏返しだったのかもしれない。

対局当日、清水女流王将は着物姿で登場した。この一戦に対する彼女の気合いの表れだろう

 コンピューター将棋史上初めてプロ棋士に勝ったあから2010は、計169台(676コア)のコンピューターを並列化したクラスターマシンで、指し手は世界最強レベルの4プログラム(激指、GPS将棋、Bonanza、YSS)が合議制多数決で決定する。アニメ「ヱヴァンゲリヲン」のマギシステムを彷彿(ほうふつ)とさせる、情報処理学会の英知の結晶だ。

 個人的には「そこまでしないと、まだプロには勝てないのか」とも思うが、フルマラソンで自動車に勝てる人間がいないように、そもそも人間と機械が勝負すること自体には、あまり意味はないのかもしれない。「勝ってほしい」という周囲からのプレッシャー、6時間に及んだ対局の疲れなど、コンピューターが決して感じない負荷を背負って、清水女流王将は善戦したとも言える。余談だが、今回の対局で対戦相手に男性棋士が選ばれなかった理由は、プロのメンツ云々より、発足して間もない女流棋士ファンクラブ「駒桜」を盛り立てることが目的だったからではないだろうか。

 将棋プログラムは人工知能を開発するための手段のひとつなのだから、興味深いのは勝敗よりもむしろ、「あから2010」がどれだけ人間の感覚に近い指し手を選んだかだ。対局後の記者会見で、清水女流王将は「もっと奇抜な手を指してくる印象を持っていたのですが、実際に対局した感じでは、より人間に近いというか、棋理(将棋の理論)に反しない手の連続だったように思います」と述べている。

 両者の対局を振り返りながら、あから2010の人間らしさ、コンピューターらしさを検証してみたい。